インタビュー
2004/04/27 12:30 更新

Interview:
すべてはコンピュータアスリートのために――ぷらっとホーム鈴木氏

ぷらっとホームは過去数年、業容の拡大を行ってきた。しかしその多くは、本当にターゲットに見据えるべき顧客のためとはいえなかったかもしれない。事業の取捨選択を行い、原点に立ち返ろうとしているぷらっとホームは、顧客とどう向き合っていこうとしているのだろうか。

 ぷらっとホームは、2003年後半あたりから、少しずつではあるが、その事業分野を変化させつつある。同社はどこに向かおうとしているのか、ぷらっとホームの代表取締役社長の鈴木友康氏に、事業統合の真相と今後の展開について聞いた。

鈴木氏

「2003年は本当にやらなくてはいけないことは何なのかを考え続けた年だった」と振り返る鈴木氏

残した事業はコンピュータアスリートに特化した分野

ITmedia まず、2003年を振り返ってみてどのように感じましたか?

鈴木 弊社は創業時から市場の拡大を追い風として、ひたすら業容の拡大をしてきましたが、直近の3年はこの拡大追い風が崩れたことを受け、事業の取捨選択をしていくことを考えてきました。特にこの1年は、本当にやらなくてはいけないことは何なのかを考え続け、顧客から見たときに、弊社に期待されていることに注力すべきだと軌道修正を行ってきました。

ITmedia 具体的にどのような行動となりましたか?

鈴木 Linuxを扱っていく上で、例えば2001年以降はシステムインテグレーションを手がけるため、会社を買収し、SI子会社を所有して、主に基幹システムのSIerサービスを提供していましたが、法人SI分野からの撤退により、2003年8月に当社が保有する全株式を売却しました。

 もう一つは、組み込みLinuxの分野でSTB事業を行うために存在していたプラット・コミュニケーションコンポーネンツを2003年12月に吸収合併しました。

 どちらの事業も、弊社の強みが生かせる分野ではありましたし、仮に景気が平準であれば、十分チャンスもある市場だったと思っています。ただ、環境が大幅に変わって、例えばSTB事業に関しては、回線の導入速度が鈍るなどニーズ自体がどんどん遅延してしまったりしたことなどもありました。時期が遅れるほど大手メーカーが強いですし、私たちの体力の問題もありますので、思い切って戦略を転換しました。

 この結果、残した事業は、サーバやストレージといった自社のオリジナル製品を中心としたコンピュータアスリートに特化した分野です。

ITmedia ぷらっとホームは3期連続赤字を計上しています。この原因をどう捉えていますか?

鈴木 経営資源を分散しすぎたということに尽きますね。サーバにも進出し、SIの部分も強化し、STBの会社を作りましたが、弊社の強みが生かせて、かつマーケットの状態が平常であれば、分散戦略が必ずしも悪いわけではありません。

 しかし、こう環境が冷え込むと、各方面で競合とバッティングします。リソースが分散することで結果的に、競合他社に負けてしまいます。環境に合わせて体制を変えていくことで、自社の陣地をきっちり守っていくことが重要になりますので、今後は、分散していたリソースを集め、本当に注力すべき部分にリソースを割いていきたいと考えています。

ITmedia 現在の社員は何名くらいですか?

鈴木 70人を切っています。65人くらいですね。事業分野を減らした結果、本体の管理部門のコストが大きく削減できました。減った人員は管理系であり、営業や商品開発については、人数的には増強されています。これまでは、非営業のほうが多かったのですが、今は逆転しましたね。割合で言えば、7割が営業部門ですね。

ITmedia 2004年3月に店舗が縮小されましたが、この狙いはどこにあるのですか?

鈴木 これまで4フロアで展開していましたが、全体のリソースの集中に合わせて、展示フロアをなくし、営業フロアのみの2フロアにしました。密度を濃くすることで、顧客接点の機会を高めたいと考えています。

 弊社は業績が伸びたときでも秋葉原の1店舗しかありませんでした。私は、秋葉原というのは今も変わらず日本の技術者が情報を求めて集まる場所であると考えています。リアルに接する機会を設けるため、ここに店舗は必要であると私はずっと思っています。

 ご存知かもしれませんが、弊社は、1994年ごろの、インターネット環境がまだまだめずらしいような時代からサンのサーバやシスコのルータを店頭販売していました。実際に目で見て、手で触れることでコンピュータアスリートがさまざまな刺激を受け、そこから生まれてくるものがあるのではないでしょうか。

 インターネットで情報を簡単に得られる時代ですが、「ぷらっとホーム」という名前のとおり、そういった人たちが実際にクロスする場所を提供することが大事だと思います。

コンピュータアスリートを支援する

ITmedia そもそも、ぷらっとホームが本当にすべきこととは何だったのですか?

鈴木 語弊があるかもしれませんが、弊社はLinuxに強い企業と一般的には捉えられているようです。もちろんLinux自体を広め、市場を創ってきたという自負はあります。

 ただ、私たちは、「コンピュータアスリートを支援する」という創業の理念から少し離れてしまっていたかもしれません。コンピュータアスリートがもっとも必要としていた商品の一つがLinuxだったわけで、Linuxが先にあったのではありません。

ITmedia 先ほどから頻繁に出てくるコンピュータアスリートとはどういった人たちのことですか?

鈴木 「不屈の精神で挑戦を続けるシステムエンジニア達」とでも言いましょうか。

 法人に属するか個人であるかを問わず、システムの選択権を持ち、自ら手を動かしてシステムやネットワークを構築したり管理している人と言いますか、例えば、システム管理者の方や自分で環境をつくる研究者の方などが、それに当てはまります。当然こうした人たちはシステムの選択権を持つ人でもあるでしょう。

 逆の言い方をしますと、お客様が例えば出入りのSIerに見積もりだけを出させて、発注をかけたあとはそのSIer任せで見ているだけ、といったような受身的な人たちは弊社に声をかけないと思いますし、また、私たちの役割も期待されていないでしょう。 ところが、実際には、システムに携わる人たちの中には自らのリスクを背負って行動する人たちが必ずいるはずです。そうした人たちを私たちは「コンピュータアスリート」と呼んでいますが、そうした人たちは、まさに自分の「思い」というものを、コンピュータを使って自分の手で実現しようとしてます。私たちが支援するのはまさにその人たちなのです。

ITmedia 今後は、強みがある事業分野にリソースを集中するということですが、具体的にはどのように活動していくのですか?

鈴木 私たち自身の反省としては、Linuxマーケットの成長が著しかったために、結果的にこの伸びるマーケットに合わせて自身を伸ばしていくことで精一杯な部分がありました。

 弊社は法人で5000件、個人で5万人の顧客を抱えていますが、顧客に向き合うだけでも大きなエネルギーを必要とします。しかし、来る注文をさばくのに精一杯で、顧客に対して正面向いて話ができない部分もありました。これでは目も曇ってしまうし、会話が成り立ちません。残念ながらこれまではそういった状況把握ができませんでした。

 今のように環境が落ち着いたことで、時間にも余裕が生まれた結果、もう一度お客様に正面から向き合えると思います。日本は資源も何もない国です。当社は、この日本を支えているのはこうしたアスリートの人たちだと信じています。「この案件はうちで支援しないと困るだろう」というような案件は予想以上に数多く存在します。そこをしっかりと押さえていくことで、本来大事にすべき顧客を大事にできていなかった状態を変えたいと思います。

顧客と「ツウと言えばカアの仲」に

ITmedia ぷらっとホームの技術的な強みはどこにあるのでしょう?

鈴木 ネットワーク、サーバ、ストレージ、オープンソースを知り尽くし、かつレガシーなシステムと接続するためのノウハウを多く持つことで、顧客の高度な要求にも最善の解決策がきちんと提示できることですね。

ITmedia 事業分野を狭め、かつ10年来のノウハウの蓄積を武器に攻めるとしても、今後、大手も事例を多く積み重ねてくるでしょう。そうなると、結果的に大手に負けてしまうのではないですか?

鈴木 事実は違います。例えば、前例がないようなカスタムのシステムを組みたいといった要望が顧客から出たときに提案が出てくるかが問題になるのです。当然ですが、時間やコストをかければシステムは組むことはできます。しかし、そこに過剰なコストをかけていてはユーザーであるお客様の事業に支障をきたすでしょう。そういう意味では、システムを組むというのは、お客様にとってもチャレンジなのです。一般に大手の企業は前例がない場合、そうしたリスクを極力避けるでしょう。そうしたチャレンジ精神を一緒になって促進させることが大事で、この努力こそがうちの存在意義です。私たちは、お客様から問い合わせをしていただいた際に、「いや、前例がありませんので」といった台詞は口にしたくないのです。徹底的にコンピュータアスリートの実現したいことにこだわっていきたいと思います。

新製品と今後の展望

ITmedia 自社オリジナル製品のラインナップと、今後の予定などがあれば教えてください。

鈴木 弊社のサーバ製品は、サーバシステム、RAIDシステム、マイクロサーバの3つがあります。このうち、サーバシステムの製品に関しては近々に価格改定を行う予定です(4月19日に改定)。当社のシステムは基幹や重要な部分に使われる場合が多いため、安定性が求められる傾向があります。このため、実際は他社の同じ価格帯の製品と比べて、当社の製品は使用する部品やテストなどの品質には重点をおいています。例えば、電源にしても国内ベンダーのものを使用するなど、スペック表に出てこない部分の付加価値が多々あります。そういう意味で、これまでも自信を持ってお勧めできるものでしたが、さらに値段が安ければお客様への価値は高まると思います。また、新製品も近いうちに発表予定です。ニーズも最先端のものが多いので、それに対応したものをいち早く提供していきたいと考えています。

ITmedia マイクロサーバはOpenBlockSですよね。個人ユーザー向けの製品のようなイメージがありますが、実際はどうなんでしょう?

鈴木 OpenBlockSに関しては、初期は多分に趣味的な部分から始まったものですが、プロの人が使い込めばいくらでも鍛えることができるツールです。このため、最近では、事業用や産業用に用途が広がっており、大口のユーザーは法人様となっています。先日もある通信系の企業で、監視用途で数百台単位での案件がいくつかありました。サーバの監視や通信回線のモニタリングなど、多数の事例もあります。

 また、マイクロサーバは例えば鉄工所などでも導入されています。大量の熱が発生する中で長時間稼動させることが求められるような環境では、OpenBlockSのように駆動部分がない製品が威力を発揮します。専門のシステムを開発、導入となれば、産業用の非常に高価な、かつ納期も長いものになってしまいますが、安価でコンパクトなマイクロサーバOpenBlockSを利用することで、優れたソリューションを提供できると考えています。

ITmedia SUSEはノベルに買収されましたが、国内でのSUSEのパッケージ販売は継続されるのですか?

鈴木 はい。弊社はSUSEの正規代理店として、継続的に製品を販売しています。SUSEから見てもいいパートナーだと思います。もちろんSUSEに限らず、Red Hatは1993年から取り扱っています。これまでもVineやTRON、BeOSをはじめ、数10種類以上のOSを取り扱ってきました。Kondaraを扱っていた時期もありました。コンピュータアスリートの方が必要とするものは今後もきちんと取り扱っていきたいと思ってます。

ITmedia 最後にまだぷらっとホームと縁がないコンピュータアスリートに対してメッセージを。

鈴木 まず、私たちに連絡してみてくださいということでしょうか。これまで、SIerに頼んだ案件が断られたであるとか、思ったよりも納期が長いという経験、もっといえば、「何でこんなことができないのだろう」とSIerに対して感じた経験がある方も少なくないでしょう。私たちは、あなた方が「ツウ」と言えば「カア」と返す。打てば響くソリューションをあなた方と共に作り上げていきます。



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[聞き手:西尾泰三,ITmedia]

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