コラム
2004/05/18 15:40 更新


Linux Column:現地レポート 中国政府にはウケがいいLinux、一般ユーザーにはどうなのか? (1/2)

中国におけるデスクトップLinuxといえば、政府を始め普及を見せているイメージがある。しかし、一般ユーザーにはコストだけでは語れない海賊版利用という大きな壁があった。

 中国でLinuxを浸透させようとする企業や政府レベルでのLinuxプロジェクトの発表は、最近よく見かけるようになった。たとえば、日中韓3カ国の政府が共同でLinuxに関する連携強化表明や、ターボリナックスがHPとOEM契約し、Linux搭載の低価格PCを中国を含めたアジア12カ国で順次販売する(関連ニュース)というニュースもあり、また過去を振り返れば中国が政府レベルでLinuxを採用するという件もあった。実際は、どの程度Linuxが浸透しているのか? 幾つかの例から予想してみよう。

一般販売店に見る海賊版ソフト事情

 まずはソフトウェア販売店でどの程度Linuxのパッケージが販売されているかを見てみよう。中国では、未だに海賊版CD屋と、低価格ソフトを販売する店舗が根付いておりほとんどを占める。マイクロソフトやアドビの製品など、比較的価格が高い製品を正規品で扱っている店は極めて稀だと言える。

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海賊版ソフトの店舗はいつも賑わっている


 想像してみてほしい。堂々と海賊版が販売されている街中にポツンと一軒の正規版販売店があるとする。中国人からすれば、その店で売られているWindows XPは、例えば給料の2〜3倍程度の価格なのだ(もちろん貧富の差はあるが、GNPなどから考えるとその程度なのが現実)。日本人の平均的な物価感覚でいえば、50万円程度になるだろうか。同じ感覚でいうと、Adobe Photoshopなどの製品は、200万円程度の感覚ではないだろうか。

 海賊版を買って当たり前と思う人もいれば、海賊版は認めたくないが買わざるを得ないという人もいるだろう。海賊版販売店を擁護するつもりはないが、Linuxの普及具合を調べるには、一般人がソフトを購入する海賊版販売店や、低価格ソフト販売店を調べることが回答になるのではないかと思う。

 前述している低価格ソフトとは何か? という点を説明しておこう。これは、100元でおつりが戻る(日本人の物価感覚であれば、5000〜10000円程度で買える)ソフトであり、ジャンルはゲームや音楽集や語学学習がほとんどだ。しかし、ビジネスソフトや、Linux OSも揃っている。Linuxはディストリビューションやパッケージにより差はあるが、だいたい50元で買うことができる。低価格ソフトは、CD屋や本屋、海賊版CD屋で売られていることが多く、筆者自身の経験でいえば、パソコンショップでは滅多にお目にかかれない。実はこのような品々の中にも著作権でグレーな商品もあるが、中国人にとってはこれらの製品は、身近な店で買える正規版ソフトウェアとして扱われているようだ。

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本屋+ソフトウェア販売店のひとつ


著名なオンラインショップサイトを見てもLinuxは皆無

 一例として、中国一有名なポータル「新浪網」サイトには、オンラインショッピングの中にソフトウェアを扱うページがある。ひとつは「eNet」、もうひとつは「当当」を挙げよう。eNetは、正規版Windowsなど比較的高価な製品も販売しているため、ここでの販売商品からの分析は控える。ちなみに、OS販売のページではLinuxが販売されていなかった。一方、当当で販売されている商品は、まさに中国で一般的なソフトウェアショップのような、庶民の価格感覚に合った商品を販売している。こちらを分析することにしよう。

 OS販売のページではWindowsを扱っておらず、Linuxのみを販売している。ディストリビューションはRed HatやMandrakeのほか、中国産の中軟Linuxなんていうのもある。このWebページには、売れ行きTOP100が紹介されており、筆者が見た時点ではLinuxとしてRed Hatが40位台にエントリーされているだけであり、とても「売れている」という感がない。また、中国製LinuxもRed Hatのシェアを食うほどの人気があるわけでもなさそうだ。これは、実際に筆者が中国で幾つかの街で見たソフト屋の雰囲気とそう変わりない。Linuxのパッケージが置かれていても、棚にチョこんと置いてあるような店がほとんどだった。

 海賊版ソフト屋に話を移そう。海賊版ソフト屋はどこでも盛況でソフト漁りをする客が目につく。前述の低価格ソフトよりもさらに安い1枚数元で売られており、値段は均一、CDが何枚あるかによって値段が決まるのが一般的だ。あらゆるジャンルのソフトが売られており、OSでいえばWindowsもLinuxも売られている。また、Windowsは多くの店で大量に在庫があり、また見やすい位置にも置かれているため、主力製品であろうことが分かる。一方で、Linuxはというと売っていない店すらあり、あっても在庫が少なく、見やすい位置には置かれていないことがほとんどだ。無造作に並べられた海賊版ソフトの中からかき分けて見つけるといった感じだ。ここでもWindowsとLinuxの人気の差がハッキリと出ている。

ネットワークからの入手は一般的ではない

 それでは、ftpなどのネットワーク経由によるLinuxの導入はないのだろうか? まずダウンロードできるほどの回線速度を提供できる場所は一部大都市に限られている。大都市であればあるほどPCの普及度合に比例して、海賊版CD屋も存在するのだ。また、通信費に比べ海賊版CDが驚くほど安価であり、かつソフトは海賊版屋で買うことが習慣化されているように感じる。いくら高速回線であっても、30分のダウンロードの手間と、家をちょっと出て2,300円程度の感覚で(実際は数元なので100円以下)Linuxのパッケージを買うのとでは、多くの中国人は後者を選ぶだろう。ましてや、内陸の省都などの都市ではこの度合いはもっと高いだろうと思うのだ。したがって、ネットワーク経由によるLinuxの導入は中国では当たり前でないようだ。

 OS普及におけるカギのひとつは、魅力あるソフトにかかっているが、中国で国民的な人気といってもよい、中国産オリジナルチャットソフト「QQ」は、Windows版しか配布されていない。QQはどの程度有名かというと、若者にQQといえばチャットと同じ意味になり、都市に住む若者は非PCユーザーですらQQ用IDを持ってネットカフェでチャットを楽しみ、住所録にはQQのIDを書く欄までがあるほどだ。QQのマスコットキャラクターのペンギンがキャラクターとして認知され、キャラクターグッズが売られるくらいなのだ。ペンギンのマスコットを持つ人気アプリケーションのLinux版がないのはなんとも皮肉な話である。

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[山谷剛史,ITmedia]

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