コラム
2004/05/18 15:40 更新


Linux Column:現地レポート 中国政府にはウケがいいLinux、一般ユーザーにはどうなのか? (2/2)


 ソフト面からだけでなく、他の面からもLinuxの普及状況を垣間見てみよう。PCを扱う雑誌は、日本ほどは乱立してないにしろ種類は豊富だ。PCの総合週刊誌「電脳報」は、ハード、ソフト、デジタルグッズ、ゲーム、新製品の紹介、各地のPCパーツの値段分析など沢山の情報が詰まっている。筆者自身も中国にいる時はよく購入していた。ところでこの電脳報では、Linuxの情報はまったく扱われていない号がままあり、紹介されてもごくわずかである。ほとんどがWindowsプラットフォーム上での話題だ。実は、雑誌でも定期的に出版されているLinuxやUnix専門誌が中国ではまだ無いことも影響している(単発刊行はある)。このような状況からも、Linuxに関する情報を雑誌面で得られないとすると、初心者ならば情報の多いWindowsを選ぶのが普通ではないだろうか。本屋でもパソコン書籍を扱うコーナーでは、Linuxに関する本は少なくWindowsに関する本が圧倒的だ。

PC販売におけるバンドルOS事情

 メーカーPCやショップブランドなどハードウェアからLinuxの普及具合を見てみよう。

 中国でパソコンシェアNo1.「朕想」のラインアップを見てみると、フラッグシップ機などの高価格帯のPCについてはWindows XPをプリインストールする一方で、低価格機にはLinuxやDOSがプリインストールされている機種やOSが含まれない機種もある。低価格機といえども、CPUにPentium4、HDDは数10GB、ものによってはDVDとCD-RWのコンボドライブを搭載する物や、グラフィックチップにGeForceMX4を搭載するのもある。Linux(X Window System利用)ならばそれも理解できるが、DOSで果たしてこれほどのスペックを使い切れるのかというと疑問が残る。例えば、CD-Rドライブが搭載されていればライティングソフトはどうなる? DVDドライブがあってもDOSではどう使う? DOSで最新のグラフィックカードが認識できるのか? などなど。以上のことは朕想に限ったことではなく、中国第2のメーカーである「方正」も、中国の白物家電で有名な「Haier」、Dell中国ですらも不釣合いなハードウェアとOSの組み合わせのPCを売り出しているのだ。ショップブランドや無名なPCメーカーでは、DOSやLinuxをプリインストールしたり、OSが含まれていないPCがほとんどで、WindowsをバンドルしていないPCが普通なのだ。ちなみに多くのメーカーは、パソコンカタログ上において、Linuxを「Linuxとは呼ばず」、それは中文操作系統(中国語オペレーションシステム)と書かれることが多く、具体的にLinuxと明記していない。

 街中に当たり前のように海賊版CD屋があり、当たり前のようにWindowsが数元で売られていて、当たり前のように友人や知り合いがコピーCDを買う……。そんな環境下ではプリインストールされるDOSは、Windowsを安価に買って導入するためのダミー的な存在でしかないともいえる。そう結論づけると、Linuxの存在も怪しくなってくる。

コストだけでは語れない中国ソフトウェア事情

 PCのメーカーやショップは、Linuxをプリインストールすることで、最新の高機能なPCの各デバイスに対応し、かつWindows搭載機種よりも堂々と安価で競争力のある製品を販売することができる。購入者はWindowsの海賊版がすぐ手に入るので安心して安く買うことができる、と考えたほうがより自然ではないだろうか。中国において出回るソフトウェアの9割以上は、海賊版と聞く。それでもWindowsにおいて個人使用で海賊版の比率が100%でないのは、PC購入時にバンドルされたOEMがあるためであり、裏を返せばWindowsがプリインストールされた機種を購入しているのは、すべての存在するWindowsライセンス内のたかだか数%ということになる。

 それではLinuxは普及していないか? という結論については、今まで述べてたのは現在のコンシューマー層についてであり、企業や政府における話は別だと思われる。この側面については、今回のレポートのように街を歩いて調べるだけでは感じ取れない。今後のコンシューマー層に対するLinuxについても、前述のチャットソフトのQQのような国民的ソフトがLinux版で普及するという状況になれば、浸透する可能性がまだまだ残されている。またPCを所有している層は若者が大半であり、中国の中年層老年層にPCが浸透するのはこれからの話なのだ。今後、シニアに優しいインタフェースのPCがLinuxベースで登場すれば、爆発的に浸透したり、中年や老年層が見向きするかもしれない。海賊版が蔓延し、WindowsやWindows用著名ソフトが超安価に簡単に手に入る中国では、Linux普及のカギは価格によるアドバンテージではなく、キラーアプリケーションにかかっているようだ。

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[山谷剛史,ITmedia]

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