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2004/05/20 02:01 更新


「Linuxの導入期はすでに終わった」――エッジから業務の中に入るLinux

Linux、オープン・スタンダードを採用することは選択の幅を広げるとともに、既存投資への保護にもつながる。13億ドルにも上るLinuxへの投資から、IBMは自信を持ってこのことを訴える。

「IBM Software World 2004」の2日目、5月19日はテクノロジーDAYと題し、開発者向けの講演が行われた。このうち、日本アイ・ビー・エム、ソフトウェア事業クロスブランド事業推進Linuxスペシャルティーの小池直人氏のセッションでは、「Linuxが開くオープンスタンダードの世界」と題し、Linux、そしてオープン・スタンダードを採用する意義について説明が行われた。開発者向け講演ではあるが、Linuxについての基本的な説明も織り交ぜながらLinux初心者にも分かりやすい内容で話が進められた。

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「Windows NT Serverからの移行が進むかもしれない」と話す小池氏

 小池氏はIDC JAPANの調査結果を示し、Linux市場は今、UNIX、Windowsといったプラットフォームと比べ、2桁を超える非常に高い成長率が望める市場であると話す。最近では2003年にサーバプラットフォームとしてのLinuxが40%近い成長率を示していたが、2004年以降はLinux用ソフトウェア、つまりミドルウェアの成長率にそれを見ることができるという。

 では、どういった分野でLinuxは採用されているか。一般的に思いつくのは、WebサーバやDNSサーバといったネットワークと密に関連する分野、言い換えればエッジの部分での採用であるが、小池氏はJ2EE WebアプリケーションサーバやデータベースサーバとしてLinuxを採用、または検討する向きが増えつつあるという。

「Webサーバとしての利用から注目が移っている。導入期はすでに終わり、業務に深く関わる分野でLinuxが使われつつある」(小池氏)

 とはいえ、OS別でサーバの稼働率を見れば、Windowsが8割近いシェアで、Linuxはまだ1桁台のシェアである。これについて小池氏は、「ガートナーの2003年10月の調査結果では、Windows NT Serverの稼動割合が全体の4割を超えている。同OSは基本的にはサポートが終了しており、今後、いずれかの時期に移行を求められる。このときにLinuxを選択するユーザーは意外に多いのかもしれない」と話す。

 また、WindowsとLinuxを比べた場合、価格や性能といった面ではLinuxが優れているという半面、他のシステムとの接続性、運用管理、パッケージ・アプリケーションの数など、Windowsに及ばない部分もあることはこれまでにもたびたび指摘されてきた。しかし、こうした部分は急速に改善していると小池氏は強調する。

「Linuxでは、堅牢性を保ちながらこれまで弱みとされていた部分が改善されている。ますますLinuxでよいというユーザーが増えるだろう」(小池氏)

オープン・スタンダードを採用するメリットはどこに?

 オープン・スタンダードを選択する意義はどこにあるだろうか? 小池氏は、Javaを例にこのように説明する。

「どの企業も、開発、または購入したアプリケーションはできるだけ長く使いたいという気持ちがあるはず。しかし、例えば、COBOL、PL/I、RPGなどはハードウェアプラットフォームに、CやC++などは特定開発製品に依存する。ハードやOSは常に進化し、交代の時期を迎えるのだから、それらに非依存なものを採用すべき」というロジックだ。

 オープン・スタンダードはまさにこの部分で強みを発揮する。業界標準の技術を使うことで、さまざまなシステムの統合が容易になる。例えばWebSphere Studioで開発したJ2EEのアプリケーションは、Windows、Linux、UNIX、OS/400、zOSなどの各プラットフォームへ容易に展開できる。

 合わせて、開発者のスキルがどこでも通用するものとしてポータビリティを持つことになる。

 こうした柔軟性をLinuxとオープン・スタンダードを採用するメリットとして小池氏は挙げる。

大規模な事例も

 セッション内では、IBMが手がけたLinuxでのシステム構築事例が数多く紹介された。もちろん、Webサーバの構築などではなく、例えばLinuxクラスタソリューション、サーバ統合ソリューションなどの事例である。

 Linuxクラスタソリューションの事例では、MaBOTの事例が示された。同社では教育コンテンツ・研修サービスを利用するためのサービスを提供する「研修ポータル」を手がけているが、このシステムが、Webサービスベースの研修システムとなっている。ここでは、Red Hat Linux上でWebSphere Application Server、DB2が動作しており、Application Serverはクラスタリングされ高い可用性を持っているという。

 また、日本IBMは5月17日に、クライアント/サーバ型とWebアプリの利点を生かしたモバイルクライアント環境を可能にする「IBM Workplace Client Technology」を発表した。同技術に対応した最初のコンポーネントとして「Lotus Workplace Messaging」および「Lotus Workplace Documents」が6月30日に販売される。

 小池氏は「ユーザーはサーバ上のアプリケーションコンポーネントをダウンロードし、リッチなクライアント環境をWebブラウザ上で利用する形になる。もちろんLinuxクライアントをサポートする」と話す。

 こうした事例は、ハード、ソフト、そしてサービスレベルでLinuxに対応していることを示す。IBMでは、ハード、ソフト、そしてサービスはLinuxも想定されたものとなっており、またSWCOC(ソフトウェア・コンピテンシー・センター)やLinuxCOCを通じてノウハウも積極的に蓄積している。5月3日にオープンベータ版がリリースされた、同社の次世代データベースソフトウェア「Stinger」(コードネーム)でも、Linuxカーネル2.6および64ビットコンピューティングをサポートするなどLinuxに関連した部分の強化が目立つ。

 また、13億ドルにも上るLinuxへの投資、グローバルで8000名(日本アイ・ビー・エムで約1800名)ものLinux関連技術者、社内でのLinuxの活用など、IBMとしてLinuxに投資を続けていることも強調した。

「ユーザーはどんどんチャレンジしてほしい」小池氏はIBMが培ってきたLinux関連の実績を背景に、顧客にLinuxとオープン・スタンダードを採用した選択肢の検討を促した。

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関連リンク
▼IBM Softwareチャンネル
▼IBM Software World 2004|日本アイ・ビー・エム

[西尾泰三,ITmedia]

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