第1回 そもそもバックアップとは何か?バックアップ、基礎の基礎を知る

急激な勢いで増加を続けているデジタルデータ。このデータを常に使える状態で保存し、保護するには、バックアップも含めたさまざまな手法を適切に組み合わせる必要がある。

» 2004年07月02日 12時20分 公開
[伊勢雅英,ITmedia]

データの増大とデータ損失の危険度は表裏の関係

 デジタル社会の到来とインターネットの普及により、デジタルデータは急激な勢いで増大を続けている。カルフォルニア大学バークレー校、ホライゾン・インフォーメーション・ストラテジーによれば、2000年には7EB(エクサバイト=100万TB)だった全世界のデジタルコンテンツ容量が、2005年には99.5EBにまで膨れ上がるという。当然のことながら、これらのデジタルコンテンツのほとんどは、コンピュータのストレージ機器に格納されることになる。

 デジタルデータが増大する一方、忘れてならないのがデータ保護の問題だ。データの大容量化とは、裏を返せばデータを失ったときの損害も増大することを意味している。データを失うきっかけは、人為的ミス、コンピュータウイルス、機器類の故障、事故、天災、テロ行為などさまざまなものが考えられるが、これらのいずれもが突然にやってくる。そして、これらの原因によって損失を受けたデータを早急に復元できなければ、企業は多大な損害を被ることになる。

 ある調査によれば、業務停止による1時間あたりの平均損失金額は、証券ブローカーや大規模電子商取引業で1000万ドル前後、クレジット会社で数百万ドル、通信販売業種で10万ドルから数十万ドル、運輸業で数万ドルにも達するという。また、火災によって失ったデータを復元できずに倒産に追いやられた企業も存在する。したがって、どの企業にとっても、これらのさまざまなトラブルにも揺るがない強固なデータ保護体制を確立する必要があるわけだ。

鮮度の高いデータ保存が可能なRAIDやレプリケーション

 主なデータ保護手法には、ディスクサブシステム内でのハードウェア冗長化、レプリケーション、スナップショット、バックアップ、アーカイブなどがある。それぞれの手法には得手、不得手があるので、堅固なデータ保護体制を築くには、どれかひとつを採用するのではなく、これらの手法をうまく組み合わせることが肝要だ。

 ディスクサブシステム内でのハードウェア冗長化には、複数台のディスクドライブ(HDD)と専用コントローラを用いたRAID(Redundant Array of Independent Disks)がある。RAIDは、ディスクドライブに保管するデータを冗長化することで、ディスクドライブの一部に障害が発生したときにもデータやデータへのアクセス性(可用性)を失わないようにする手法だ。RAIDは、それ自体が本稼働のディスク装置で用いられるため、常に最新のデータを保持できる。ただし、人為的ミスやコンピュータウイルスによるデータ損失、もしくは天災やテロ行為などでサイト自体が破壊されるようなケースでは無力だ。

 レプリケーションは、ディスクサブシステム内のデータを別のディスクサブシステムに複製する手法だ。基本的にはファイルシステムレベルでデータの複製を行う。

 レプリケーションには、データが更新されるたびに即座に複製を行う同期方式、サーバの負荷やネットワークトラフィックなどを監視しながら空いているときに複製を行う非同期方式、一定の時間間隔で複製を行う定期方式の3種類がある。データの鮮度は同期方式が最も高く、次いで非同期方式、定期方式の順番に低くなる。更新先のサイト(リモートサイト)を十分に離れた場所に配置することで、サイト自体が破壊されるような大規模災害にも対応できるが、そのためのコストはかなり高価だ。

 スナップショットは、ディスク内容の変更情報を保存しておく手法だ。ディスク内のデータ位置を指し示すポインタを保存するだけなので、スナップショットに要する時間は数秒程度ときわめて短い。また、多数のスナップショットを簡単に保管できることから、何世代にもわたり過去の状態にさかのぼれるのも大きな利点だ。しかし、スナップショットはディスク内のデータ位置を保存するだけなので、何らかの理由によって実データそのものを損失してしまうとスナップショットが意味をなさなくなる。

図1 リモートサイトへのレプリケーションやバックアップを行わない最も基本的なデータ保護構成を示したもの。堅固なデータ保護体制を築くためには、複数のデータ保護手法を効果的に組み合わせる必要がある

強固なデータ保護にはテープストレージの併用が不可欠

 そこで重要になるのがバックアップである。バックアップは、データ全体または変更分をテープやディスクに対して定期的に保存する手法だ。その多くは半日や1日といった単位で行われるため、他のデータ保護手法と比較するとデータの鮮度は低くなりがちだが、あらゆる障害に対する復旧で威力を発揮する。データの実体をそのまま保存することから、スナップショットのような脆弱性は持たない。なお、データをオフラインの状態で長期にわたって保管することをアーカイブと呼ぶ。

 バックアップはテープに対して行うのが基本だが、最近ではATAテクノロジに基づくディスクサブシステムの登場によって、D2D(Disk to Disk)でバックアップを行うソリューションも登場している。こうした考えの下、D2Dのみでストレージ全体を完結するソリューションを推進しているベンダーもある。D2Dバックアップは、バックアップやリストアの所要時間(ウィンドウ)が短いことから、バックアップ/リストアウィンドウを1分でも短縮したいミッションクリティカルな用途に向く。

 ただし、テープストレージを完全に排除する姿勢に対して懸念を抱くベンダーも多い。その代表例がStorageTekだ。同社はテープストレージを軸足として成長してきた企業なので反論するのも当然なのだが、その言い分には確固たる根拠がある。日本ストレージ・テクノロジーのマーケティング本部 フィールドマーケティンググループ シニアスペシャリスト Tape&Tape Automationの吉岡雄氏は、テープストレージが将来にわたって必要である理由を次のように説く。

 「これまで、さまざまなストレージ機器が『生まれては消え』を繰り返していますが、テープストレージはIBMが最初に製品を完成させてから実に53年目を迎えます。テープがこれほどまで息が長いのにはそれなりの理由があるわけです。第一に、GB単価が非常に安いことです。現時点で、ディスクサブシステムの最も安いものとテープライブラリの最も高いものを比較しても、2〜3倍以上の開きがあります。ATA系ディスクサブシステムの急激な低価格化によって、テープとディスクの価格差は縮まるように思われがちですが、今後もその差は広がっていきます」

図2 ストレージのGB単価傾向を示したもの。オートメーション系テープストレージがその他のディスクサブシステムよりも圧倒的に安価である

 「第二に、メディアがリムーバブルであることです。データが『オフライン』で保管されることが最も強固なデータ保護手段なのですが、このオフラインという特性はテープのようなリムーバブルメディアでしか実現できません。テープストレージならば、テープカートリッジを温度や湿度が厳密に調整された倉庫で長期保管したり、火災、天災、テロなどの影響を受けない遠隔地に持っていくことができます」

 「第三に、電気料金やデータセンターの設備費といったランニングコストが非常に安価であることです。テープライブラリの消費電力は、同容量帯のディスクサブシステムと比較して10分の1程度に過ぎません。消費電力が少ないということは、会社にさらなる利益をもたらしますし、地球環境を保護ことにもつながります。ディスクは確かに便利なストレージですが、GB単価やランニングコスト、データ保護レベル、地球環境問題などを総合的に考慮すると、簡単に『ディスクだけでよいよね』とはいえないはずです」

図3 テープライブラリとディスクサブシステムの消費電力を比較したもの。消費電力の差はGB単価以上に大きく、平均すると10倍ほどの違いとなる

テープの利点を最大限に引き出すテープライブラリ

 一方で、テープストレージはリムーバブルであるがゆえに運用や管理が面倒という意見もある。

 確かに、サーバごとに単体のテープドライブを用意し、個別にバックアップを行っているのであれば、この意見は正しい。しかし、エンタープライズ用途でテープを入れ替えるという作業は、すでに時代遅れである。近年では、テープを多数格納し、ロボット機構によってテープを自動的に入れ替えるオートメーション系(オートローダやテープライブラリ)を用いて、1カ所から集中的にバックアップを行うのがエンタープライズバックアップの流儀だ。

 「テープストレージの利点を最大限に引き出すには、オートメーション系の導入が不可欠です。このためStorageTekは、数々のテープストレージの中でも特にテープライブラリに特化して製品を開発、販売しています。StorageTekは、テープの開発に長い歴史がありますので、特にテープライブラリについてはL20テープ・ライブラリーのような小規模なものからStreamLine SL8500モジュラー・ライブラリー・システムのような大規模なものまで、非常に数多くの製品を取り揃えています。これにより、お客様のさまざまな規模のストレージシステムに柔軟に対応できます(吉岡氏)」

StorageTekが発売しているテープライブラリの数々。顧客のシステム規模に応じて、適切なテープライブラリを選択できる

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