「モバイルを企業の競争力にできていない」、MEA Japanの仕掛け人・田中シトリックス社長Interview

モバイルを企業の競争力に使用できているケースはまだ少ない。問題は、安心してシステム構築を手助けしてくれる中立組織がなかったからだ、と設立準備を進めるシトリックスの田中社長は指摘する。

» 2004年09月03日 12時21分 公開
[聞き手:堀 哲也,ITmedia]

 企業のモバイル化が最も遅れている。この状況を打開しようと、3月からシトリックス・システムズ・ジャパンの田中正利社長が中心となって、MEA(Mobile Enterprise Alliance) Japanの設立準備が進んでいる。

 既にアプリケーション、セキュリティといった技術や、モバイルンフラなど、個々の要素は整っているものの、企業の全体システムを安心してモバイルまで拡張していく状況にはいたっていない。ベンダーサイドにしてみれば、1社ですべてを実現するのは難しい。モバイルエンタープライズを可能にしていくために、MEA Japanはアライアンスという形でユーザー企業とベンダーの仲立ちとなりたい、という。

田中正利氏 「証券会社や生命保険の外交、デリバリーなんかはやっぱりリアルタイムでできるモバイルがもっとも適している。でも安心してシステムを構築できる状態になっていない」とMEA Japan設立準備委員会の委員長を勤めるシトリックスの田中社長

――セミナーでは「モバイルは進んでいるようで遅れている」と表現されていましたが、MEA Japanを発足させる目的を教えてください。

田中 そう表現した理由は、ご存知の通り、携帯電話というのは今や当たり前の社会になってきています。小学生だって使っているんですから。僕らの時代はコンピュータは非常に少なかったけど、今の時代の人たちは当たり前のようにブラインドタッチができる。次の世代は、ブラインドタッチどころか、コンピュータにキーボードがない時代の人たちかもしれない。携帯が当たり前の世界になっているかもしれません。

 社会的に見れば、モバイルは既に普通のものになってきています。なのに、企業用の情報システムで見ると、モバイル化が最も遅れている分野です。

 シトリックスの顧客を見ていても、いち企業の15%は、モバイルで使いたいと思っている。だから、ニーズはあるはずなんです。だけど、これを実行できているのは、本当に先進的なユーザーでしかない。

 だからこそ、「モバイル」と「エンタープライズ」をキーにして取り組みをしたかった。大手の企業になれば、何万人も社員がいるわけで、15%といえば相当の数になります。僕らベンダーにとっては大きなマーケットになるし、顧客にとっても、モバイルの使い方がリアルタイムやオンデマンドになる。モバイルが企業の競争力そのものになるわけです。MEA Japanでは、このようなところにフォーカスしていきます。

――そのために、MEA Japanで技術を標準化していきたい、というものでしょうか?

田中 あるアプリケーションとあるインフラの互換性は大丈夫か、といった意味で、ある程度は必要になるとは思いますが、標準化がどうこうといったものではありません。顧客から見れば、標準化そのものよりも、何年先にも自分のところの情報システムがうまく動作させていくために無理できません。

 だからこそ、アライアンスが3つ目のキーになっています。コンソーシアム的に無制限に集めてやっていく方法もありますが、動作確認やサポート体制を作りながらやるには、少数でやっていくアライアンスのほうが向いている。コンソーシアムでやるならMCPCでもいいわけです。

 モバイルのエンタープライズをアライアンスの形態で実現していこう。これがまさにMEAの究極の狙いです。

――MEAは欧米でスタートしていますが、これらとの関係はあるのですか?

田中 僕はASPに関わっていた時代があるんですが、ビジネス上でつながりのある人間が、MEAの発起人になっていて、日本はどうするのか問い合わせされていました。しかし、シトリックスだけでやっても無理があるし、顧客にいい答えがでるわけじゃない。モバイルエンタープライズを実現するための技術も、キャリアも、インフラも個々にはあるのに、まとめて提供できる仕組みが足りない。この問題を解決するために、アライアンスにしたわけです。

――海外のMEAとの連携も視野に入れているのでしょうか?

田中 お互いに情報交換をしようということはやっています。ワールドワイドで事例のコンテストのようなものがあり、そういった仕組みはもってきたいと思っています。

 そうはいっても、日本のビジネス社会と欧米のビジネス社会は違いがあるし、べったり一緒にやっていこうとは思いません。むしろ経産省や総務省などもいろいろやってくるだろうし、そのほかの団体とも協力してやっていきたい。対立する関係はないと思っています。

――9月までに70社程度での発足を目標にしていますね。もうわずかですが、進捗はいかがですか?

田中 規模からいうとあまり大きくしたくないのですが、運営費などのことを考えると、現実的には60、70社必要になるわけです。9社が手を挙げてくれて、問い合わせ中も含めて、現在十数社というところです。

――発足予定まで、間に合いますか?

田中 そろそろ、60社集まるまで待つか、現実的なところでスタートするか、判断しないといけません。今日のセミナーのアンケートを見てみて、顧客が事例をどんどん勉強させてほしいというのなら、数に関係なくスタートしたい。組織的にはもっと柔軟にする必要があるかもしれませんが。僕自身としては、今年中には発足させたいと考えています。

 先ほどお話した15%という数は、意外と微妙な数字なんです。僕らのユーザーでも、内部情報漏えいとかコストとかいろいろ悩みを抱えていて、こちらのほうの優先度が高い。今15%を考えられるのは、LANに自信を持っていて、WANとかワイヤレスもやらなきゃと考えられるところ。それでも、事例がもっと出始めると、いっぺんに広がると思います。

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