送信者認証で「安易なメール広告」も困難に?

送信者認証技術が普及すれば、これまでのような安易なメールマーケティングは困難になるかもしれない。

» 2004年09月10日 22時39分 公開
[高橋睦美,ITmedia]

 よほどの理由がない限り、スパムメールを喜んで受け取る人などいないだろう。自分の貴重な時間やリソースをスパムに割くなどとんでもない、と考える人のほうが多数派だ。

 だが視点をちょっと変えて、あなたがもし企業の営業やマーケティングの担当者だったとしたらどうだろう? 実際にスパムメールをばらまくのはご法度だとしても、可能な限り多くのユーザーに自社の情報を知らせる手段として、メールは十分魅力的なツールに見えるはずだ。

 しかし、今後送信者認証技術が普及し、それを補完する許可リスト(ホワイトリスト)、Reputation(評判)/Accreditation(信用度)に基づく評価サービスなどが行き渡れば、安易な考えで電子メールをマーケティングに利用するのは困難になるはずだ。

 マイクロソフトが9月10日に開催した「迷惑メール対策セミナー」の中で、米SendmailのCEO、デーブ・アンダーソン氏は送信者認証技術の解説を行うとともに、このテクノロジがメール送信業者に与える影響についてもコメントした。

 今後送信者認証が広まれば、送信者詐称は困難になる。身元を偽らずにスパムメールを送りつけるような業者は、ユーザーが設定するホワイトリストや評判/信用評価サービスによって排除され、いわゆる一方的に送りつけられる大量の配信メール(UBE:Unsolicited Bulk Email)をブロックできるようになると期待できる。

 こうなると、「これまで、誰にメッセージ送信を許可するかをコントロールする手段として考えられてきた『オプトイン』『オプトアウト』といった手法は無意味になり、ユーザーが管理する許可リストの重要性が増す」(アンダーソン氏)。

 したがって、ユーザーの同意を得た正当な形でメールを送信しようと考える事業者にとっては、いかにしてユーザーの許可リストに載り続けるか――いかにユーザーが望み、読みたがるコンテンツを提供するかが重要になってくると同氏は言う。そして、コンテンツのクオリティを高水準で維持するためのコストも、かさむことになるだろう。

 逆に言えば、送信者認証技術などを通じてこういった状況が実現されてはじめて、「ユーザーが本当に欲しいものだけを受け取る」ことが可能になるのかもしれない。

企業にとっても重要な技術に

 またメディアエクスチェンジの吉村伸氏は、ネットワークインフラを提供する立場ということもあってか、「たとえばブラックリストを用いることで、特定のドメインからのメールをすべて受け取らないようにしてしまっても本当にいいのだろうか」と指摘した。携帯キャリアなどが実施しているスパム対策によって「読んでもらうはずの多くのメールマガジンやメーリングリストがブロックされてしまうので、不満を持つ人も多い」(同氏)という。

 そういった状況を踏まえると、「スパムとそうでないものを、できるだけ正確に分離する方法が必要」(吉村氏)。アドレス偽装を排除してくれる送信者認証は、その有力な手段になるとした。

 また、騙られた企業やサービスのブランドを傷つけかねないフィッシング詐欺の件数は、日本でも増加しつつある。「(サービスなどの一環として)メールを出さなければならない企業や事業者にとって、『そのメールが正しい送信者から送られたものであること』を証明する技術はとても重要になる」(吉村氏)。

吉村氏 自身のアドレスをスパマーに利用されてしまい、数千通ものエラーメールのバウンスに悩まされたという吉村氏

 ネットワークやサーバに負荷が集中したとき、きちんと対応できるかどうかという課題が残るものの、その意味からも送信者認証技術の持つ意味は大きいという。「ぜひ一般企業でも取り組んでもらいたい。そして、まだそんなに深刻にならないうちに問題を未然に防げれば」(同氏)と述べた。

 ユーザーが望んでいるのは、吉村氏の表現を借りれば「受け取りたいメールは早く確実に受け取り、受け取りたくないものは受け取らない」ことにすぎない。当たり前のことだが、これほど困難なこともない。

 これを実現するには、セミナーでたびたび強調されたとおり送信者認証とその周辺技術が重要な役割を果たすだろうし、それら技術を補う意味で「確信を持って広告メールを送り込む事業者を罰するようなルールも必要」(同氏)。そして、あまりセミナーでは触れられなかったが、メールを送りつける側が、受け取る側との間の「乖離」に思いをいたすことも、必要なことではないかと感じさせられた。

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