目指すはソフトウェア産業の競争力強化、IPAが新センター設立

情報処理推進機構は10月1日付けで、ソフトウェア・エンジニアリング・センター(SEC)を設立する。

» 2004年09月29日 21時57分 公開
[高橋睦美,ITmedia]

 「ソフトウェアの品質を向上させるにはどうしたらいいのか」「適正な見積もり手法はないのだろうか」「赤字プロジェクトやデスマーチはもう嫌だ」……今のソフトウェア開発プロセスにはさまざまな問題が転がっている。こうした課題を解決する手助けとなるべく、情報処理推進機構(IPA)は10月1日付けで、ソフトウェア・エンジニアリング・センター(SEC)を設立することを発表した。

 SECには専任職員30名が所属するほか、企業や大学などから約120名が参加し、実務レベルの作業を行う予定だ。センター長には元NTTソフトウェア社長でIPA参与の鶴保征城氏が就任する。経済産業省では同センターのために14億8000万円の予算を確保した。

鶴保氏 IPA/SECセンター長に就任する鶴保征城氏

 鶴保氏は9月29日に行われた会見の中で、「SECが第一に考えているのは、日本のソフトウェア産業の競争力強化」と述べた。

 その背景には、「日本のソフトウェア輸出額と輸入額とを比較すると1:100という入超状態。これは日本のソフトウェア競争力の弱さを示すもの」(IPA理事長の藤原武平太氏)という現状がある。さらに、米国のみならず日本企業でもオフショア開発に対する関心が高まり、インドや中国のIT産業が大きく成長していることも、危機感を募らせる一因となっている。

 その上、ソフトウェア開発をめぐる状況そのものが苦しさを増してきた。「10年前に比べると、ソフトウェアコードの行数は1桁増えているのに、開発期間は12カ月から6カ月へと半減するなど、厳しい状況になっている」(鶴保氏)。

 SECはこうした状況に対し、開発プロジェクトのデータ収集/データベース作成や見積もり手法の開発、開発手法の標準化といった作業を通じてソフトウェア開発のための「ツール」や「プロセス」「手法」を提示し、ソフトウェア開発力強化を図ることを目的に設立される。大きく「エンタープライズ系ソフトウェア」と「組込みソフトウェア」の2つの分野にわけ、それぞれに活動を進めていく計画だ。

 特にエンタープライズ系ソフトウェアに関しては、複数の企業から1000例以上のプロジェクトデータを集め、品質や納期、生産性などを測定して定量データベースを作成することを目標にしている。これを「ベンチマーク」「物差し」とすることで、ベンダーとユーザーの間で、また他社や他部署のプロジェクトとの間で客観的な比較対照を行えるようにするのが狙いだ。さらに、このデータを踏まえながら見積もり手法の開発に取り組むほか、主に上流工程に焦点を当てての開発プロセスの標準化/共有化も行う計画である。

 開発プロセスの標準的な指標としては既にCMMI(Capability Maturity Model Integration)などがあり、国内でもいくつかの企業がこの指標を採用している。IPA/SECでは、CMMIの開発に当たったカーネギーメロン大学ソフトウェアエンジニアリング研究所(CMU/SEI)のほか、ドイツのフラウンホーファ実践的ソフトウェア工学研究所(IESE)と提携して共同作業を行うほか、国内の大学/研究所とも協力して活動を進めるという。

 鶴保氏は質疑応答の中で、次のようにも述べている。「日本では現場レベルでCMMやISO9000といったプロセス改善がうまく回っていない」「プロセス改善はテクノロジやエンジニアリングだけで解決できる問題ではない。プロセス改善は経営の課題でもある」(同氏)。

 IPA/SECはまた、携帯電話やデジタル家電、カーナビなどを対象とした組込みソフトウェアに関しては、開発手法や評価方法の確立に取り組む。さらに、この分野における人材の育成/活用をにらんで、組込みソフトウェア開発に必要なスキル項目の整理や教育カリキュラム作成も進める計画だ。

 IPA/SECはこれらの取り組みを通じて確立した手法を用いて、先進的ソフトウェアの開発にも取り組む。当初の計画として、「先進的交通システムの共通ソフトウェアプラットフォーム」の開発が予定されている。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ