ミッションクリティカルをLinuxで――NECの自信の理由

「LinuxWorld C&D/Tokyo 2004」で行われたセッションの中で、NECは「エンタープライズLinuxソリューション for MC」を核とするNECのLinux戦略を解説した。戦略の裏側には、NECの自信が顔をのぞかせている。それをひも解いていこう。

» 2004年09月29日 23時30分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 都内で明日まで開催の「LinuxWorld C&D/Tokyo 2004」。初日となる29日に多くの聴衆を集めたのは、すでにお伝えした開幕特別記念講演のほか、NEC Linux推進センターのセンター長、堀 健一氏が話す同社の新機軸「エンタープライズLinuxソリューション for MC」(MCはミッションクリティカルの意)を核とするNECのLinux戦略に関するセッションだった。なお、同内容は、27日の発表会でも説明している。

堀氏 NEC Linux推進センターのセンター長、堀 健一氏。

 同社は先日、UNIX、Windowsに続くオープン系プラットフォームの3本柱としてLinuxを位置付けて、今後はミッションクリティカルなシステムにも積極的に適用することを発表した。

 この背景には、ITやネットワークがインフラ化し、コラボレーションの実効性の高まりと、国、機関、企業を超えた商流・物流・情報のリアルタイム化が加速するこれからの社会においては、それに適合したIT・ネットワークの活用が不可欠と判断しているためである。

 NECが考える「ITインフラ環境の最適化」は、OMCSとVALUMOというキーワードで表すことができるようだ。OMCS(オープン・ミッション・クリティカル・システム)は、ユーティリティ・コンピューティングのコンセプトを含むもので、メインフレームで培ってきたノウハウを結集させ堅ろう性をアピールするとともに、最近では、標準技術の採用による柔軟性もアピールしている。

 そして、OMCS構築のための技術やミドルウェアを体系化したものを、プラットフォーム・テクノロジー「VALUMO」(バルモ)として提供している。VALUMOプラットフォームは、自律、仮想化、分散、協調の4つの技術テーマで体系化されており、サーバやストレージなどのハードウェアと、OSやデータベース、そしてミドルウェアのVALUMOウェアによって構成される(関連記事参照)。

 しかし、これらはプラットフォームによる信頼性、いわば故障しないことを保障しているもので、NECはそれだけではミッションクリティカルなシステムを構築するには不十分であると考えている。そこからさらに業務が止まらないように、アプリケーションによる信頼性、つまりシステムインテグレートの部分と、障害を未然に防ぐ運用サポートの部分までカバーすることが必要だと考えているのだ。

市場はこの1年で大きく変わった

 しかし、前述のOMCSやVALUMOも、実際の事例になるとHP-UXやWindowsが出てくるのが常であった。このため「では、Linuxはどうよ?」ということになるのだが、堀氏は「Linuxはエンタープライズ用途に耐えうるものとして、Linuxカーネル2.6系が登場するなど、だいぶよくなってきてはいるが、まだIPの問題など課題も残している。しかし、その適用範囲はこの1年くらいで大きく拡大している」と分析する。

 ちなみに、NECはこれまでもLinux関連ビジネスは展開してきた。IDCの調査では、2003年におけるLinuxサーバの工場出荷金額シェアはNECがトップ(25%)、Linux関連のSIサービス国内売り上げでもトップ(17%)だという。また、すでに国内で1200ものサイトをLinuxシステムで構築してきたほか、Linuxサーバの出荷台数は累計で2万5000台以上となる。

 しかし、こうしたLinux関連ビジネスの売り上げはNECのビジネスの中で見ると、それほどの数値ではないという。これは、適用分野がいわゆるエッジ部分、例えばWebサーバやメールサーバなどのフロントエンド部分、せいぜい情報系システムといった比較的小規模な案件に集中しているためである。

 とはいえ、NECが取り組むLinuxの適用領域を見ると、同社は、HPCの分野でも64ビットLinuxの開発やスパコン向けLinux技術にいち早く取り組んできたほか、組み込み分野でもパケット交換機や携帯電話などLinuxを多岐に渡って採用し、システム開発の実績を持つ。こうしたノウハウを基に、エンタープライズLinux市場も積極的に展開し、大規模案件を受注していきたいというのが今回の発表の肝心な部分だ。

 もちろん、こうしてエンタープライズLinux市場に打って出るには、そこにそれだけの市場があると判断しているからである。NECの内部データでは、エンタープライズLinux市場は年率25%の勢いで急拡大し、2007年に4500億円の市場規模に達すると見込んでいるほか、国内のLinux関連ビジネスのシステム・インテグレーション、サポートサービス、プラットフォームの3領域でそれぞれ大幅増となっている。市場がシュリンクするなか、Linuxは着実に成長しているのだ。

3領域の具体的な強化点とは?

 これまでメインフレームなどで蓄積してきたノウハウを基にエンタープライズLinux市場、特に基幹系システムへの本格適用を図るということだが、これを具体的に見ると、システムインテグレーション、サポートサービス、プラットフォームの3領域を着実に強化することだといえる。

 それぞれの強化点を具体的に見ていくと、システムインテグレーションの強化では、同社が「業務アプライアンス商品」と呼ぶ、業種別のパッケージの導入を計画しているという。これは、「Oracle E-Business Suite」などの業種パッケージ群とサーバ、ミドルウェア、サポートサービスを組み合わせて検証済みのパッケージ製品とし、これを企業に提供するもの。

「Linuxでシステム構築はめんどくさそう、思わぬ落とし穴がありそうと考える企業に対し、検証などもすべて終えた状態のアプライアンス製品としてフルパッケージで提供する」(堀氏)

 また、現在約2400人いる同社のLinuxエンジニアは、「全然足りない」(堀氏)とし、2005年度末までに2倍の4800人まで増員する予定だという。特に、堀氏がセンター長のLinux推進センターでは、高スキル・最先端ノウハウを持つ要員を育成していく。

 サポートサービスの強化では、MC対応の「Linuxサービスメニュー」の体系化と強化を図るとともに、10月にはシステムの動作検証を行う「Linux/OSS検証センター」を10月に新設する。

 そしてプラットフォームの強化では、全基幹サーバへLinuxを搭載可能とするほか、前述の「VALUMO」についても、そのLinux版を2005年度末までに一日の長があるHP-UXやWindowsと同等までに強化するという。

 このほか、3領域とは異なるが、オープンソースソフトのコミュニティと連携し、Linux OSの障害解析機能やRAS機能、仮想化機能など機能強化を図っていくとともに、日本OSSフォーラムなどの方針に沿ってサービスメニュー強化を図っていくという。

NECのコミュニティへの貢献(クリックで拡大します)

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