RFIDで万引き被害削減をねらう出版業界特集:ITが変革する小売の姿(2/2 ページ)

» 2004年10月04日 10時42分 公開
[怒賀新也,ITmedia]
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 同氏が紹介する試算によると、RFID導入によって販売量は業界全体で年間1113億円増加、返本処理コストは830億円削減できる。また、マーケティング強化によって流通量を最適化することによる出版社や取次ぎ企業のコスト削減効果は3396億円、さらに、書店における万引き被害も現在より462億円削減できるとしている。

 ここで、出版業界におけるRFIDシステムの導入はどれほど現実的なのかについて、実証実験から考えて見たい。なぜなら、現状ではRFIDの技術的な未熟さが障害になっており、実際の導入を考える際には実証実験に目を向けることは避けて通れないからだ。

 日本出版インフラセンターは平成15年度に、埼玉県越谷市の昭和図書株式会社の越谷物流センター、東京都千代田区の三省堂書店でRFIDの実証実験を行った。内容は、UHF帯ICタグ(関連記事)の応用特性の検証、流通段階で想定される利用時の読み取り精度の検証など。

実験1:通信距離と読取角度の検証

 最初の実験では、ICタグを書籍に貼付し、リーダ/ライタを設置。流通倉庫や書店内で書籍の1冊づつに貼付されたICタグの読み取り距離や、読み取り角度が検証された。13.56MHzとUHF帯の2種類のICタグを使って実験が行われている。

 結果は、13.56MHz帯のICタグの場合、通信距離は25〜50センチメートル。一方、UHF帯では1〜5メートルとなった。両者を比較すると、読み取り距離はUHF帯の方が数倍長く、読み取り角度による読み取り精度の劣化もUHF帯の方が少ないことが分かり、RFID利用におけるUHF帯の優位性を確認する結果となった。

実験2:ベルトコンベア移動時の読み取り精度

 実験2では、UHF帯を利用し、単品ごとにICタグが貼付された複数の本がダンボールごと読み取る精度を測定した。

 ダンボール箱はベルトコンベア上を分速5メートルで移動させた。結果は、大きく厚い「四六版」書籍を梱包数の少ない小型ダンボールに詰めたときしか、設置したリーダ/ライタはICタグを100%読み取らなかった。ちなみに、小さく薄い「文庫本」を梱包数の多い中型ダンボールに詰めた場合、読み取れたのは76冊中たった23冊。読み取り率は30%にしかならなかった。

分速5メートルで稼動するベルトコンベア上で、ICタグ付きの複数の書籍を詰めたダンボールをリーダ/ライタで読み取る実験の結果。

 ただし、この実験は、測定条件を一定に保つため、ICタグの電波をキャッチするアンテナを1枚に限定して行われたという。「もし、複数枚のアンテナを利用し、ICタグのチューニングなどを行えば、読み取り精度は今回の結果よりも上がる」と永井氏は話す。マルエツの実験におけるスーパーマーケットにおけるRFID利用と同様に、現状では、書籍のRFIDによる管理も実導入にはまだまだ程遠いという印象は否定できない。

実験3:UHF帯の被干渉・与干渉の実証

 実験3では、UHF帯の被干渉/与干渉の問題を実証した。被干渉の実験は、ほかのUHF帯の電波通信がICタグの通信に与える影響について検証するもの。一方、与干渉の実験は、ICタグやアンテナ間の通信が、携帯電話などほかのUHF帯電波の通信に与える影響を調べるものだ。

 結果として、被干渉および与干渉実験ともに、通信品質の劣化などを及ぼす大きな影響は見られなかった。

 ただし、これ以外の特性として、UHF帯では地面や壁、人体などに電波が反射することが判明。さらに、書棚やカバーの材質がICタグとアンテナの通信に影響を及ぼすことも確認した。例えば、スチール製の書棚を利用した場合、書籍を平積みすると書籍に付いたICタグを読めなかったり、棚に隣接した書籍のICタグが読み取れないことがある。また、書籍カバーがアルミ製の場合も、リーダ/ライタの読み取りに悪影響を及ぼす。

 また永井氏は、実験を実施する当たっての問題点として「UHF帯の免許取得に予想外の時間がかかり、スケジュールが遅れた」ことを挙げた。

 小売業界全体がさまざまな思惑も併せてRFID導入に期待を寄せているが、現段階ではまだまだ技術的課題の解決という壁が立ちはだかってしまうようだ。

 今後、日本出版インフラセンターでは、「確実な読み取り性能の追求」や、ICタグの装着技術、印刷製本から店頭までのサプライチェーンの管理、図書館での利用、高度マーケティングの実施に向けて実験を続けていく。万引きを極力減らし、業務プロセスの効率化を実現するRFIDシステムの開発を継続していく。

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