最速の次は“ペタ”――さらなる高みを目指すIBMのスパコン

Blue Gene/Lで地球シミュレータを追い抜いたIBMは、既に1ペタFLOPS、そしてそれ以上に達するスーパーコンピュータを開発する計画を既に進めている。(IDG)

» 2004年10月25日 19時01分 公開
[IDG Japan]
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 われわれIBM Researchが1999年にBlue Geneプロジェクトを立ち上げたとき、目指していたのは世界で最も強力なスーパーコンピュータ――タンパク質の折り畳みのシミュレーションなど、偉大なる挑戦を乗り越えられる大規模スケーラブルマシン――の構築に必要な新しいタイプのアーキテクチャーを作ることだった。

 現在、Blue Geneは広範な用途に使える可能性を持つスーパーコンピュータファミリーに進化し、性能、スケーラビリティ、アクセシビリティ、対応できる問題の範囲、科学研究における可能性において、あらゆる予想を上回っている。

 来年初頭に、われわれは初の商用Blue Geneスーパーコンピュータ「Blue Gene/L」を米エネルギー省のローレンス・リバモア国立研究所(LLNL)に納入する。Blue Gene/Lの2台のプロトタイプは既に、11.68TFLOPSと8.66TFLOPSで世界で最も強力なスーパーコンピュータの上位10位に入っている(6月21日の記事参照)。先月には、1万6000個のプロセッサを搭載したBlue Gene/Lが、36.01TFLOPSと世界最速を達成した(9月29日の記事参照)

処理能力は上位スパコン40台分

 Blue Gene/Lの初期のプロトタイプでは既に科学研究を行っており、われわれはより大規模なマシンへの拡張に伴い、計画を拡大する予定だ。現在は、医薬研究において重要な膜結合型タンパク質の大分類であるGタンパク質結合受容体(GPCR)の研究を行っている。脂質がこのタンパク質の存在をどうやって認識するかを理解するために、虹彩に見られるGPCRであるロドプシンをシミュレートしている。この種の現象は実験的に観察するのが難しいが、われわれはBlue Gene/Lの比類なき性能で、新たな洞察を得られると期待している。

 Blue Gene/Lの明白なメリットの1つは、この種のシミュレーションを従来のスーパーコンピュータよりもかなり高速に処理できる点だ。このマシンは既に既存の商用スーパーコンピュータよりも大きく性能が向上しており、もっと大規模なBlue Geneシステムが登場するときには、もっと性能は高まっているはずだ。今の標準的なシステムで4日かかるナノ秒単位のシミュレーションも、小型のBlue Gene/Lプロトタイプでは14時間で完了する。構築中のフルサイズのBlue Geneシステムでは、マイクロ秒単位で今可能なレベルよりも1000倍長く日常的にシミュレートでき、これまでは不可能だった方法で(タンパク質の折り畳みなど)微小な生物学的現象を目に見えるように再現できるようになるだろう。

 こうした速度における進歩は、科学者の研究方法を大きく変え、科学的発見に大きな影響をもたらすだろう。科学者はもっと長期間のシミュレーションを行い、長期的な影響を理解できるようになる。高性能コンピューティングは真に双方向的なツールになり、何週間も結果を待つ代わりに、1時間で計算を行い、結果を見て、調整してまた実行する、といったことができるようになる。

 Blue Geneの処理能力は、ライフサイエンスばかりでなく、水力学、材料科学、量子化学、分子力学、流体力学、気候モデリング、金融モデリングなどの分野においても、たぐいまれなる進歩と理解を可能にするだろう。

 Blue Geneは、研究者にかつてないレベルの処理能力を与えるために設計されたが、Blue Gene/Lは同等性能のスーパーコンピュータよりもコストと消費電力、占有面積を抑えることも主眼に入れている。

 今日のスーパーコンピュータの多くは専用の建物と電源を必要とするが、11.68TFLOPSのBlue Gene/Lのプロトタイプの占有スペースは冷蔵庫サイズのラック4個分だ。64ラックの正式版Blue Gene/Lは現行の最速スーパーコンピュータよりも8倍高速で、消費電力は15分の1、占有スペースは10分の1になる。実際、このBlue Gene/Lシステムは、今上位40位に入っているスーパーコンピュータの処理能力を合わせたのと同等のパワーを発揮し、占有面積はテニスコートの半分以下のはずだ。

高いスケーラビリティ

 莫大な処理能力を必要とする大学は、オフィスサイズの部屋に2〜3台のラックを設置すれば、好きなように拡張できるだろう。従来型のLinuxクラスタマシンとは違って、Blue Gene/Lは性能を落とすことなく手早く簡単に拡張できる。このシステムでは数千のノードと、高い信頼性を維持しながら最高レベルの性能に拡張することを可能にする革新的なシステムオンチップ(SOC)技術を採用している。Blue Gene/Lを導入する施設は、プロセッサの数を数十万に拡張することで需要の拡大に対応できる。従来のクラスタでは、数百個のプロセッサを搭載した後で、スケーラビリティの問題にぶつかることが多い。

 (Blue Gene/Lのスケーラビリティの高さは、2003年11月に512ノードのプロトタイプが世界のスーパーコンピュータランキングの73位にランクインしたことで示されている。その6カ月後、4096ノードのマシンが4位にランクインした。)

 Blue Geneはアーキテクチャーは独特かもしれないが、身近で使いやすいように設計された。設計上は、Blue Gene/Lには数千の省電力プロセッサが搭載され、それぞれのプロセッサには2つのPowerPCコアとオンチップメモリ、高速化を図るための2つの浮動小数点演算ユニットが含まれる。このシステムは複数の相互接続ネットワークに統合され、高密度のパッケージに圧縮されている。

 これはスーパーコンピュータの新たな構築方法だ。Blue Gene/LはLinuxクラスタではないが、多くの点でルック&フィールが似ている――それは、かなり意図的なものだ。われわれはこのマシンをLinuxのコントロール下で走らせており、クラスタ向けに書かれたプログラムがこのマシン上で動くように設計している。Blue Geneのスピードと処理能力は莫大な可能性を開くだろうが、従来型のスーパーコンピュータからBlue Gene/L環境への移行は、ほとんどのユーザーにとって簡単なはずだ。

ペタFLOPSへの道

 Blue Geneプロジェクトが世界最速スーパーコンピュータという目標に向けて進む中で、われわれは研究レベルでBlue Geneユーザーのコミュニティーを形成する方法を模索している。Blue Geneの性能を真に試す最速の方法は、科学者コミュニティーがこの新しいアーキテクチャー上で自身の課題に取り組めるようにすることだ。

 LLNLのマシンに加えて、われわれはBlue Gene/Lを米アルゴンヌ国立研究所オランダの天文学研究所ASTRON日本の産業技術総合研究所の生命科学情報研究センター向けに構築している。またIBMのコンピューティング・オンデマンドセンターは、顧客にBlue Geneシステムで作業を行う方法を提供する予定だ。

 1ペタFLOPS(1秒間に千兆回の浮動小数点演算)、そしてそれ以上に達するBlue Gene/Lの後継機を開発する計画は既に進んでいる。われわれは、数ペタFLOPSの性能を実現できるマシンの構築に狙いを定めている。莫大な処理能力を必要とする研究者にとって、向こう2〜3年はワクワクすること請け合いだ。

筆者ウィリアム・プリーブランクはIBM Researchで研究用サーバシステム担当ディレクターおよびDeep Computing Instituteのディレクターを務めている。

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