モデルドリブンのアプリケーション開発が新たなビジネス価値を生み出すSAP TechEd '04 Interview

SAP TechEd '04が開催した。SAP AGでNetWeaverの開発責任者で、基調講演も務めたクラウス・クレップリン氏に、NetWeaverの最新の状況について話を聞いた。

» 2004年12月01日 02時02分 公開
[聞き手:怒賀新也,ITmedia]

 SAPジャパンは11月30日から3日間にわたって「SAP TechEd '04」を開催している。SAP AGでNetWeaverの開発責任者で、初日の基調講演(関連記事)も務めたクラウス・クレップリン氏に、NetWeaverの最新の状況について話を聞いた。

ITmedia 現在、OracleによるPeopleSoftの買収など、ビジネスアプリケーション業界で動きがありますが、どのように感じているでしょう。

クレップリン アプリケーション業界は常に動いており、一連の動きはSAPのシェア拡大につながっています。また、市場では、ベストオブブリード型、つまりCRMやSCM、ERP、ポータルなどの機能を別々に導入し、その後で各アプリケーション間を統合する方法よりも、SAPが提供するようなスイート型の導入形態が増えつつあります。それもプラス要因と考えています。

滞在中、特に観光などをする予定はないというクレップリン氏。当然ながらTechEd一本のための来日だ。

ITmedia NetWeaverの出荷が好調ということですが、導入している企業はどのような目的で採用しているでしょうか。

クレップリン NetWeaverの伸びは予想以上です。導入企業の多くは、かつては業務の運用コストを引き下げることに着目していました。しかし、SAPがNetWeaverをリリースし、エンタープライズサービスアーキテクチャ(ESA)の考え方が広まったこともあり、今では情報システムを7年、10年というように、より長期的な視点で考えるようになってきています。

ITmedia 導入企業の経営者は、情報システムにどれほど理解を示していますか。

クレップリン ビジネスを担当する人々の関心は、テクノロジーそのものではなく、業務プロセスにあります。そのため、ビジネスにおける処理を早く行うこと、業務要件の変更への柔軟な対応などを求めてきます。

 一方、ITの担当者は、こうした要求を受け止め、NetWeaverを利用することで情報システムを階層化して構築します。そして、階層化したシステムから、ビジネスに必要な機能を取り出して、新たなアプリケーションを構築する手法がコンポジット(複合)アプリケーションであるわけです。

ITmedia NetWeaverの開発拠点を教えてください。

クレップリン 現在、NetWeaverの開発担当者は世界で2350人です。全社員が9500人ですので、3分の1に当たる数になります。拠点は、ドイツをはじめ、インド、イスラエル、ブルガリア、また、日本でもモバイル向けの技術を開発しています。

ITmedia 印象に残っている導入企業は?

クレップリン ポータル、EAI、BIなど導入分野ごとにありますが、1つ挙げるとシーメンスがあります。シーメンスでは、カスタマーアプリケーションを開発し、それをNetWeaver上で稼動させています。ポータル上で、プロジェクト管理やセルフサービスなど、16万人のユーザーが利用するシステムとして成功しています。

ITmedia NetWeaverの将来の計画について。

クレップリン NetWeaverというインフラをベースに、ESAを用いて、アプリケーションへと拡張させていくことに注力します。そこでコアとなる技術の1つが、エンタープライズ・サービス・レポジトリです。エンタープライズ・サービス・レポジトリには、ビジネスビューや統合シナリオ、既に実行可能な業務プロセス、マッピング情報、ビジネスオブジェクトなどを格納します。それは、SAPが提供するものでも、顧客やパートナー企業が独自に持つものでも構いません。

 このレポジトリも含めた既存の資産から、新たにコンポジットアプリケーションを構築するのです。つまり、ここまでくると、アプリケーションとインフラテクノロジーは、結合されたものと言えるまでになってきます。「アプリストラクチャー」という造語もできるかもしれません。

 いずれの機能もモデルドリブンで稼動するため、コーディングの量が減り、より短い期間でシステムを開発することができるようになります。

エンタープライズ・サービス・レポジトリ、MDMと複合アプリケーションの関係。

ITmedia マスターデータ管理ツールであるMDMの強化のために、ロスアンゼルスに本拠を置くA2iを買収したことが7月に発表されました。

クレップリン MDM(マスターデータ管理)への顧客ニーズが非常に高いことが分かり、優れた技術を持つA2iを買収することが製品を強化する上で最も早いと判断しました。

 A2iを買収して得た技術は、高速で双方向なマスターデータのマッチング機能です。たとえば、同じ製品なのに、CRMとERPの各システムでは異なるIDがマスタデータとして登録されていた場合、このマッチング機能が2つのIDを統一し、中央のマスターデータに登録し直します。さらに、マスターデータのクレンジングまで行います。

 さらに、登録し直したマスターデータを逆に、CRMとSCMのシステムへと反映させることもできるのです。それが“双方向”の理由です。これにより、導入プロジェクトでも苦労が多いと言われるマスタデータ構築を楽にし、さらに、データの質を高く保つことができるのです。

ITmedia 現在、ビジネスとITの関係を根本的に見直し、再構築する動きとしてエンタープライズ・アーキテクチャが注目されています。そのカギを握るためにCIOという存在が企業に根付くべきと考えていますが、CIOはNetWeaverを利用して何をすればいいでしょう。

クレップリン CIOは何よりも、自社のビジネス側の要求をよく理解し、将来を見通さなくてはなりません。ただし、一般には、企業のIT投資の80%は既存システムの維持に回されています。それが、いまだにIT部門が「コスト」としてしか見られていない理由にもなっています。

 その意味で、CIOがIT投資でビジネス価値を生み出すにはまだ限界があるのが実状です。しかし、NetWeaverを活用し、最低限の開発コストでビジネスアプリケーションを構築できるようになれば、それも可能になると考えています。

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