EUのソフトウェア特許法制化に、やり直し求める動き

欧州議会の一部議員が提出したやり直しの動議は、ソフトウェア特許指示書の前進を頓挫させる格好のチャンスだ。しかし一部には、この動議が認められるとは期待できないとの見方も。(IDG)

» 2005年01月11日 17時19分 公開
[IDG Japan]
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 欧州連合(EU)のソフトウェア特許指示書をめぐる歴史物語は、新年に入っても衰えを見せていない。一部の欧州議会議員は、欧州連合理事会(EU Council)による採決待ちの段階にある現行の指示書を破棄し、法制化プロセスを一からやり直すための動きを支持している。

 13カ国からの61名の欧州議会議員と4つの政治団体はこのたび、EUの執行機関である欧州委員会に対し、「Patentability of Computer-Implemented Inventions」(コンピュータ関連発明の特許取得に関する指示書)の再提起を求める動議を提出した。ソフトウェア特許を認めることに反対するNoSoftwarePatents(NSP)キャンペーンの代表者、フロリアン・ミューラー氏が1月10日に明らかにした。

 この動議をめぐっては、欧州議会全体で投票が必要となる。欧州議会議員の過半数が動議を承認した場合、欧州委員会はこの指示書の法制化プロセスを一から再スタートさせなければならなくなる。

 この動議が有効なのであれば、事は迅速に進められるべきだとミューラー氏は語っている。「現実的には、おそらく2月21日の週から始まる欧州議会の次の本会議会期中に始まることになるだろう」と同氏。

 NSPキャンペーンは、産業革新を保護するには著作権法で十分であり、欧州ではソフトウェアに特許を認めることを法的に禁止すべきだと主張している。同団体は、Linuxベンダーの米Red Hatのほか、スウェーデンのオープンソースデータベースソフトベンダーのMySQL、ソフトウェア・インターネットサービス会社の独1&1 Internetが支援している。

 問題となっているのは、しばしばソフトウェア特許指示書と呼ばれているもの。現在は欧州連合理事会(閣僚理事会とも呼ばれている)による最終採決待ちの段階にあり、その後、法案はEUのもう1つの法律部門である欧州議会に戻され、2度目の検討が行われることになっている。欧州委員会が2002年2月にこの指示書を提出して以来、閣僚理事会と欧州議会はこの指示書の複数のバージョンをめぐり衝突している。

 対立は、この指示書に関して閣僚理事会が2004年5月18日に達した大筋での合意をめぐるものだ。この際の合意では、ソフトウェアに特許を与えることを禁じた、欧州議会による同指示書の修正案が却下されている。

 昨年12月には、ポーランドの科学・IT担当副大臣ブウォジミエシ・マルチンスキ氏が、この法案に関する同国政府の態度を決定するにはまだ時間が必要だとして、閣僚理事会による最終採決の延期を正式に要請している(12月22日の記事参照)。閣僚理事会の代表者らは、法案の内容をEU加盟諸国の各言語に翻訳する作業に時間がかかるため、最終採決の時期が延期されていると説明していた。

 欧州委員会は10日、法制化プロセスの再スタートを求める動議に関してコメントを断り、閣僚理事会の採決がいつ行われる予定かを明言することも控えた。「閣僚理事会がいつ正式な決定を下すかについては、実際、まだ誰にも分からない」とミューラー氏。

 一方、ソフトウェア特許指示書の法制化プロセスの再スタートを求める欧州議会の動議書によれば、ポーランドのイェジィ・ブゼク元首相を筆頭とするこの動議書の賛同者らは、法制化プロセスの再スタートを求めるための動きを12月8日に開始したという。

 「同グループは12月8日から16日にかけて署名集めを開始した。だがブゼク氏がわれわれに対して、年が明けるまではこの動きを公表しないよう求めた」とミューラー氏は説明している。

 今回の動議は、閣僚理事会版のソフトウェア特許指示書の前進を頓挫させるための格好のチャンスだ。だが、欧州情報通信技術製造者協会(EICTA)のレオ・ボーマン氏はこの動議が認められるとはあまり期待していないという。

 「不可能ではないが、欧州議会の過半数による支持と、各政治団体の代表者会議の承認が必要だ。おそらく実現はしないだろう」と同氏。

 EICTAは、一部のソフトウェアについては特許による保護が必要だと考えている。EICTAには、Microsoft、SAP、Sun Microsystemsなどのソフトウェアベンダーのほか、Hewlett-Packard(HP)、Intelなどのハードウェアベンダー、Telefonaktiebolaget LM Ericsson、Nokiaなどの通信会社が加盟している。

 EICTAは、法制化プロセスが再スタートしても、おそらくこの先しばらく、コンピュータ関連発明の特許性をめぐるあいまいさを残し続けるだけだろうと警告している。今までのところ、EUは欧州各国の裁判所による特許法の多様な解釈を1つにまとめることができていない。

 NSPキャンペーンは、閣僚理事会が昨年5月18日に指示書の大筋に合意して以来、EU加盟国が15カ国から25カ国に増えたことで政治的な背景は大きく変化しており、それだけでも、この指示書に新たなアプローチで取り組むことを正当化するのに十分だと主張している。「732名の欧州議会議員のうち、400名以上が新入りだ。今では、ソフトウェアへの特許をめぐる懸念はより一層微妙な問題になっている」とミューラー氏は語っている。

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