IT市場拡大を教育で後押し マイクロソフトの取り組み

大学に寄附講座を設置したり、教師向けIT研修を提供するなど、MSが教育支援を本格化している。ITに強い人材を育成し、将来の国内IT市場を活性化する狙いがある。

» 2005年04月08日 18時27分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 マイクロソフトが教育分野への取り組みを強めている。今年度は青山学院大学など3大学で寄附講座を開設するほか、大学との共同研究や研究費支援を拡大。同社が中心となって設立した「ICT教育推進プログラム協議会」を通じた教員向けIT研修も拡大する。

 人材や資金を無償提供して行うこれらの活動は、直接同社の利益にはならない。しかし「長い目で見れば、IT産業の活性化につながり、マイクロソフトに利益をもたらす」と、同社執行役の鈴木協一郎デベロッパーマーケティング本部長は期待を込める。同社が育成した人材が、将来のIT市場を拡大してくれるとの考えだ。

左から公共インダストリー統括本部の熊野和久文教ソリューション副本部長、鈴木協一郎デベロッパーマーケティング本部長、デベロッパーマーケティング本部アカデミック情報教育推進部の冨沢高明部長

 「ここ10年でCPUの処理能力は100倍にも1000倍にも高まった。しかし社会の中でのIT活用はそれほど伸びていない。市場拡大の余地はまだまだある」――デベロッパーマーケティング本部アカデミック情報教育推進部の冨沢高明部長は話す。同社は優秀な技術者やITに強い人材を育成することで、市場拡大を後押しする狙いだ。

 IT教育に対するニーズも高まっており、同社には多くの大学から講座への協力依頼が来るという。少子化の進行で学生数の確保が難しくなった大学にとって、IT教育の充実は魅力アップ策の1つ。今年度は青学大のほか九州大学、早稲田大学で寄附・協力講座を展開する予定だ。

 「最近、ITが社会インフラとして浸透してきた」――冨沢部長は変化を感じ取っている。これまで、同社が大学向けに提供してきた出張講座は理系向けのソフト工学中心だったが、今年スタートする青学大の寄附講座では知的財産論を講義。技術だけでなく、技術と社会の関わりについても教え、ITの“すそ野”の広がりに対応する。

 小中高校向けのIT教育も積極的に支援する。ICT教育推進プログラム協議会は昨年、兵庫県で小中高校教師向けIT研修を実施し、253人が受講した。現場の教師の意見を取り入れて作った実践的な教材が好評で、ネットで公開したPDF教材は454件のダウンロードがあったという。「受講した講師以外の人も教材を活用してくれている」(公共インダストリー統括本部の熊野和久文教ソリューション副本部長)。

 今年度は兵庫県を含む4都道府県で、2400人に受講してもらう予定。開始から5年間で8都道府県、1万3000人以上の受講を目指しているが「教師全体の数から見れば微々たるもの。受講した教師が他の教師に教えたり、教材やプログラムの標準化を進め、多くの教師にIT活用を学んで欲しい」(熊野文教ソリューション副本部長)。

文科省という“壁”

 「今後10年でソフトウェアへのニーズはこれまで以上に高まるだろう。アジア各国の追い上げはめざましく、日本が競争力を保つには、教育を充実させるしかない」――冨沢部長は危機感を強めている。しかし文部科学省の足取りは重く、e-Japan政策でかかげた教育分野の目標のほとんどは達成不可能な情勢だ。

 しかしマイクロソフトのような企業が政府を支援するのは簡単ではない。日本の省庁は、企業との連携を“癒着”として敬遠する傾向もある。「韓国やシンガポールでは政府とIT企業が協力するのは当たり前」(熊野文教ソリューション副本部長)だが、日本ではそうもいかない。

 このため同社は、教員支援プログラムを単独で提供せず、協議会を組織して文科省を説得して後援を得るなど、政府の理解を得るために腐心してきたという。

 教育活動は、同社のミッション「世界中のすべての人々とビジネスの持つ可能性を、最大限に引き出すための支援をすること」――にきわめて近い。「ミッション達成のためにも教育支援を拡大していきたい」(鈴木デベロッパーマーケティング本部長)。

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