トリジェル氏に聞く――OSDLフェロー、Samba4、特許、技術予測 Interview(2/2 ページ)

» 2005年04月18日 17時55分 公開
[Jay-Lyman,japan.linux.com]
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NF Samba4の最大の成果は何でしょうか。また、見送ったことの中で最も大きなものは何でしょうか。

トリジェル わたしの立場から言えば、最大の成果はコードの構造です。今、Samba4のコードの大半は、わたしたちがこのために書いた新しいコンパイラを使って自動生成されています。これだけでも努力した甲斐があっというものです。自動生成されていない部分もモジュラー型で非常に効率のよい構造になりました。こうした点については、ユーザーに関心がないことはもちろんです。しかし、このお陰でプログラミングが容易になり、ユーザーに見える成果がたくさん得られました。今では、「さて、次の機能に取りかかろう」と言ったその2時間後には、もうできあがっています。Samba3で同じ機能を組み込もうと思ったら、1週間以上かかるでしょうね。さて、ユーザーにとってSamba4の最大の目玉は、ADSのサポートとファイル・システム機能の追加に関連したものでしょう。Samba4を始めたそもそもの目的はファイル・システム機能にあり、実際、当初は「Samba NTVFS」プロジェクトと呼んでいました。POSIXファイル・システム上にも非POSIXファイル・システム上にも、NTセマンティックスが載せられるような新しい仮想ファイル・システム・レイヤーという意味です。

 新NTVFSレイヤーの威力を示す重要かつ端的な例は、「NTファイル・ストリーム」のサポートです。NTファイル・システムでは、ファイルを複数の「ストリーム」で構成することができます。プライマリ・ストリーム(:$DATAと呼ぶ)は通常のファイル・データで、一般の人がファイルを使うときに想定しているものです。NTのファイルは、プライマリ・ストリーム以外に名前付きのストリームを幾つでも持つことができます。例えば、そのファイルを作った人に関するメタデータとか、オーディオ・ストリームとか、ファイルをアンチウィルス・ソフトウェアで検査したときのデータとか、いろいろな種類のデータを納めたストリームが考えられます。重要な例としては、Windows XPの最近のアップデートがあります。これには、ファイルの出所に関するセキュリティ情報がストリームとして付属しているのです。これを利用すれば、信頼できない「セキュリティ・ゾーン」から来たファイルをユーザーが実行しようとしたときにWindowsが警告を出すことができます。しかし、POSIXファイル・システムにはマルチストリームの概念はありません。そして、Sambaは元来、POSIXファイル・システムをWindowsクライアントに見せるためのツールとして設計されました。ですから、ストリームをサポートしようとは考えませんでした。しかし、今では状況は変わりました。ストリームはWindowsクライアントのファイルサーバが持つべき基本機能としての性格を強め、同時にWindows NTとの互換性に対するユーザーの期待も大きくなりました。つまり、ストリームをサポートする現実的な必要性があったのです。しかし、本当にサポートしようとすれば、Sambaの大部分に手を入れる必要があり困難でした。それが、Samba4の新しいNTVFSレイヤーを使って実現されたのです。ストリームは外部データベースまたはfile xattrsのいずれかを利用して表現されます。file xattrsは最近Linuxに追加されましたし、他の多くのUNIX系システムにもあります。

NF Samba4とActive Directoryドメイン・コントローラの開発は、予定どおり進捗していますか。

トリジェル はい。Windowsクライアントは、すでに、Samba4をADSドメイン・コントローラとして見ています。すべての機能が組み込まれているわけではありませんが、Windows XPクライアントがSamba4 ADSドメインに参加したりログインしたりできますし、ユーザー管理の一部もできるようになっています。開発は峠を越えました。年内に、残っている課題を解決し、十分な機能を持つADS DCソリューションを提供できると楽観しています。

NF Sambaを支える基盤についてお話しください。資金面はいかがですか。また、開発者の持ち時間についてはいかがでしょうか。

トリジェル Sambaプロジェクトの直接的な予算は、ごくわずかしかありません。通常は年に1万2000ドル程度で、そのほとんどは旅費です。メンバーの多くは、2つの主要カンファレンス(SambaXPカンファレンスとCIFSカンファレンス)に参加する資金を自分で調達できません。学生や、余暇にSambaの仕事をしている人たちですから。そこで、彼らの貢献に対してSambaカンファレンスへの旅費を負担する形で支援したいのです。資金はさまざまなところから提供されています。大きなものとしては、数年前に頂いた賞金があります。ほかに、Sambaの開発を支援したい個人や企業からの寄付もあります。実際のプログラミング作業は、開発者個人の熱意が頼りです。コアチームのメンバーの中には、持てる時間の全部またはほぼ全部をSambaに投入できるような仕事に就いている幸せ者もいます。しかし、そういうポジションになくても、メンバーはSambaのために多くの時間を割いてくれることがよくあります。そうするのが楽しみであり、好きなんです。

NF チームには、今、何人の開発者がいますか。

トリジェル Sambaチームの名簿には30名ほどの名前が載っています。しかし、ほとんどの人は、このところ開発者としての実際の活動をしていません。(プログラミング以外にもいろいろな仕事があり、それらを)分担しているのです。オペレーティング・システムによっては少し手を入れなければならない場合がありますから、そうした移植の管理、あるいはプログラミングにあまり関わらないことの管理などです。コードの開発では、通常、6人前後の開発者が分担して取り組んでいます。実際に作業している人は入れ代わり立ち代わりですが、人数は6名前後で常に安定しています。

NF 2年前になりますが、自分にできることは「技術的な議論に参加することとコードを書くこと」だとおっしゃっています。それは今でも同じでしょうか。それとも、変わったところはあるでしょうか。

トリジェル プログラマーとして技術的な議論に参加することとコードを書くこととはわたしの人生のすべてです。特に、「コードを書く」のは大好きです(プログラミング中毒だって言いましたよね)。

NF 話題を変えて、特許について少々お伺いします。オーストラリア、欧州、米国で起こったこと、あるいは起こりつつあることを見て、ソフトウェア特許はオープンソース・ソフトウェアの開発と利用にとって重大な脅威であることが明らかになりつつあるとお考えですか。

トリジェル 非常に大きな脅威であることは確かです。しかし、1年前よりも恐怖感は少なくなりました。わたしも特許分析について多少学習し、特許の真の意味を読み取る方法とそれを回避する方法についても学びましたから。しかし、ソフトウェア特許は忌むべき概念であり、わたしたちは容易に「大きな特許」の標的になりうると、わたしは今でも考えています。それがフリーソフトウェア・コミュニティーに与える影響は大きめの小惑星が地球に衝突するほどの大きさになるでしょうが、わたしにも特定の特許を回避するために使える技法について少しは理解できるようになりました。ですから、世界が正気を取り戻し現行の特許システムを変えるまでの長い嵐を、わたしたちは切り抜けられると思います。

NF 特許紛争や関連する認識問題によってオープンソース・ソフトウェア・プロジェクトが泥沼に引きずり込まれないようにするために、どのような対策が取られているのでしょうか。

トリジェル 個々の特許についての分析がたくさん行われていますし、欧州のフリーソフトウェア・コミュニティーは、この問題の性格を示してソフトウェア特許が広がらないようにと、素晴らしい努力をしています。そうした努力には後退もありましたが、少なくとも、この問題に耳目を集めることはできました。オープンソース・プロジェクトがこの問題によって泥沼に嵌り込んでしまうとは思いません。しきりに攻めてきますが、開発を止めることはできないし、大幅に遅滞させることもできないでしょう。

NF 「Linuxの年」とか「Linuxデスクトップの年」あるいは「オープンソースの年」といった言葉をよく聞かされてきました。2005年はどのような年になるとお考えでしょうか。

トリジェル Linux(デスクトップであろうとそうでなかろうと)の年が過ぎてしまったとは気がつきませんでしたよ。すると、Debian Linux上で愛用のKDEデスクトップでこのメールを書いているわたしは、過去の人間なのでしょうね。(冗談はさておき、)技術予測では、わたしは当たらないことで有名なのです。1989年に、Webプログラミングが普及することはないと上司に言って以来(幸いなことに、その上司はわたしの言うことを無視しました)、特に有名になりました。ですから、今年がどんな年になるかの予測は、他の人に任せた方がいいと思います。

ありがとうございました。

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