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» 2005年04月29日 03時00分 UPDATE

いまさら人に聞けないGPLの基礎 (2/2)

[西尾泰三,ITmedia]
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GPLの適用範囲

 GPLの適用対象となるプログラムの範囲と定義はGPL第0条で定義されている。これによると、GPLの各条項に従って頒布されるという著作権者からの告知文が表示されたプログラムや「そのほかの著作物(other work)」に適用されることになっている。

 さらに、GPLソフトウェアの「出力」(output from the Program)は、その内容が「本プログラムを基礎とした著作物」(work base on the Program)である場合に限ってGPLの対象となる。この「本プログラムを基礎とした著作物」は次のように定義されている。

  • 本プログラムまたは著作権法上の二次的著作物

 二次的著作物は派生物と訳されることも多いが、英文では「derivative work under copyright law」となっている。米国著作権法では、第101条でderivative workの概念について定義されているが、ここを読むとderivative workが二次的著作物であることが分かる。結果として、「本プログラムを基礎とした著作物」というのは、本プログラムまたは著作権法上の二次的著作物と考えればよいと岡村氏は述べている。

pictorial02.gif work base on the Programtとは?

GPLに違反するとどうなるか

 では、GPLに違反するとはどういうことか。GPL第4条では、「本ライセンスに従わずにプログラムを複製、改変、サブライセンス、頒布しようとする行為は、それ自体が無効で、かつ本ライセンスがあなたに許諾している本プログラムの権利を自動的に消滅させる」と規定されている。ここで、消滅するのは文言上「権利」に限られている。GPLによって許諾されていた権利が消えると何が残るか。著作権法である。

 前述のとおり、GPLが契約でないとするなら、GPLの条件に違反したユーザーが出てきた場合、著作権法に照らして訴えることになる。そこで可能なのは、著作物の無断利用者としての責任(差し止め、損害賠償など)だけであり、著作権法にないソースコードの公開の強制などはできなくなる。ソースコードの公開を強制するのであればGPLが契約である必要があるからだ。

 また前述の図で複製入手者BがGPLに違反していたとする。その場合、GPLに従って取得したはずのCまで権利を失ってしまっては、何の落ち度もないCの自由を害する結果を招きかねない。連座制につながりかねないこの部分について第4条では、「GPLに完全に従っている限り」という条件が付くが、第三者Cなどが引き続き有効なライセンスを有する旨が規定されている。

ケーススタディ:海外

 2001年に入ると、GPL違反を争点とする初めての裁判紛争が発生した。MySQL ABとNuSphereという企業間での争いである。

 NuSphereの「NuSphere MySQL Advantage」には、GPL準拠のMySQLとデータベースへの書き込み処理を実行する記憶モジュールである「ジェミニ」が含まれていた。このジェミニはMySQLのコードと静的にリンクしており、GPLの適用が及ぶにもかかわらず、MySQLのソースコードしか公開していなかったことが問題となった。

 FSFもMySQLを支援する声明宣誓書を発表したが、結局このケースでは和解で終わってしまい、GPL違反に関する議論は中途半端な形で終わることになる。

 そのほかにも、相変わらず終わりの見えないSCO問題などもあるが(関連記事)、最近ホットな話題として岡村氏は「Fortinet事件」を挙げた。これは、プログラマーのヘラルド・ウェルテ氏が、自身が開発に関わったGPLコンポーネント「initrd」のコードがセキュリティ企業の米Fortinetの製品に含まれているとして、販売差し止めを求めたもの。

 同氏はgpl-violations.orgを運営していることでも知られる。同サイトは、GPLに基づくフリーソフトウェアを配布している企業に対し、GPLソフトウェア関連の問題を指摘している。GPL違反が報告されれば著作権者を特定し、その製品でライセンス条件を順守させるための行動を取っている。同氏は2005年のCebitで、Motorolaなど13社にライセンス違反の疑いを指摘したことでも注目を浴びた(関連記事参照)

 この事件は2005年4月14日にミュンヘンの地方裁判所がFortinetに対し製品の販売差し止めを認めたことで、その後2週間ほどで和解へと至った(関連記事参照)

ケーススタディ:日本

 gpl-violations.orgに見られるように、海外ではGPL違反に関連した動きが多く見られる。では、日本ではどうだろうか。大きなものとして、エプソンコーワとプロジーのケースが挙げられる。

 エプソンコーワのケースは、セイコーエプソン製のスキャナおよびプリンタのLinux用のドライバの中で、国際化のために利用していたgettextパッケージのソースコードの一部(libintl)がGPLであるにも関わらず、GPLの条件を満たさない配布形態を取っていた。また、ソースコードを非公開とするライブラリ内において、LGPLライブラリ(glibc)とリンクしていたが、使用許諾がLGPLに準拠しないものだったことが問題となった。

 また、プロジーのケースでは、同社が販売している「Divx コンバータ with DivX PRO」にいくつかのGPLソフトウェアが含まれているにも関わらず、ソースコードを公開していなかったことが問題となった。

 これらのケースから見えてくることとして岡村氏は、「GPLに違反すると、GPLが許諾している本プログラムの権利を自動的に消滅させると規定されているが、実際にはスラッシュドットあたりで最初に違法行為である旨の指摘と、ソースコードの公開など違反行為の是正が騒がれた段階では権利は失効しなかった。事後対応が不十分な場合に(権利失効の可能性も含めた)さらなる厳重な措置が講じられるというプロセスが予想される」と事後対応の重要性を指摘している。実際、上記2つのケースについても、スラッシュドットや2ちゃんねるなどが発端となっている(プロジーのトピック参照)が、GPL違反が発覚した後のエプソンコーワの真摯な対応には、FSFをはじめ賛辞の声があがっている(関連リンク参照)

 GPLとは直接関係ないが、岡村氏は「東風フォント」事件についても触れた。この事件の前には多くのLinuxディストリビューションに収録されていた同フォントだが、同フォントの開発にあたって開発陣がベースとしたフリーの日本語フォント「渡邊フォント」が、商用フォントをほぼ複製したものであることから結果的に同フォントの配布が中止に追い込まれたもの(その後代替フォントとして「さざなみフォント」が公開)。

 「実際のところ、日本の著作権法ではフォントの書体に対する著作権や意匠権(意匠登録性)は認められないと考えられている。東風フォントの作者は非常に気の毒。公開を中止しなくてもよい道はあった」と見解を示している。

さまざまな課題

 バージョン2が登場してもう13年が経過したGPLだが、いろいろと課題も出てきている。例えば、伝搬性の問題だ。

 GPLは前述の「コピーレフト」によって、二次的著作物を含めた「本プログラムを基礎とした著作物」が商用ソフトへと転化することを防止している。開発者から見れば、GPLソフトウェアに関連して自身が作成したソフトウェアに「コピーレフト」が及んだ場合は、ソースコードを公開しなくてはならないため、公開を希望しない開発者や企業にとって、それが「本プログラムを基礎とした著作物」であるかどうか、つまり伝搬性の範囲内であるかどうかは非常に重要な問題となる。特に問題となるのは、GPLなライブラリとリンクした場合だ。

 ライブラリとのリンクに関しては、各人で意見が異なることが多い。例えば、ブルース・ペレンス氏が起草した「オープンソースの定義」に従えば、静的リンクはGPLの伝搬範囲になるし、動的リンクであれば、伝搬範囲外になりそうにも思える。また、Red Hatのマイケル・ティーマン氏は、リンクが静的か動的かは無関係で、リンクする際に標準インタフェースを用いて、かつ当該ソフトウェアがカーネルと別のアドレス空間になければ、それはGPLの伝搬範囲であるとしている。そのほかにも静的動的にかかわらずGPLライブラリへのリンクはGPLの伝搬範囲であるとする声もある。

 岡村氏はリーナス・トーバルズ氏もGPLでいう二次的著作物が何かを明確に定義することは困難だと述べた話題を挙げながら、「GPLなライブラリにスタティックにリンクしていればアウト、ダイナミックにリンクしていてもグレー」とし、結局のところその国の著作権法に大きく左右されると話している。

 また、「GPLは特許に対して何の手当もできていない」と岡村氏が話すよう、特許との関係についてGPLはもろい部分がある。前述の図で言えば、GPLソフトウェアにAの著作権がもともと含まれているケースや、改変部分にBの特許が含まれるケースに関して、それを禁止する条項がない。また、第3者の特許が含まれている場合は、その特許権者はGPLの契約当事者ではないから、GPLに拘束されずに特許権を行使できる。この場合、当該GPLソフトウェアの配布を断念するか、地理的な頒布制限を加えて配布するしかない。「プロジェクト潰しなどを狙って第3者の特許を含んだコードを加えられる危険性もある」(岡村氏)

 商標問題も見逃せない。特定のGPLソフトウェアの名称が先に第三者に商標登録された場合、もはや当該GPLソフトウェアや開発プロジェクトはその名称を使用できなくなり、プロジェクトを継続するには改名を余儀なくされる。実際、「Linux」の名称を商標登録し、Linux関連企業に対して利益の5%を使用許諾の対価として請求して騒動になったという事件も過去に起きている。これは結局トーバルズ氏に対して商標登録を移転することで示談となったが(関連記事参照)、こうした事態を回避するには、プロジェクトがある程度進んだ段階で、その成果物の名称について商標登録を受けておく必要があると岡村氏は話す。

 そのほかにも、ライセンス内容が異なるほかのソフトウェアとの統合の困難さなども指摘されているが、これらの問題がGPLのバージョン3でどこまで改正されるかが現在注目されている(関連記事参照)

 「GPLの次バージョンでは、二次的著作物の範囲を明確にすることと、特許関連の手当を期待したい」と岡村氏。合わせて、国内でもGPLを十分に理解した人材を育成していくことの重要性を説き、経済産業省の支援などを受けて、こうした活動を推進していく意欲を見せた。

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