イギリスのAccess Devicesが独自の組み込みオープンソースOSを作った理由 (2/2 ページ)

» 2005年04月30日 23時35分 公開
[Tina-Gasperson,japan.linux.com]
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独自の組み込みOSの使用

 Access Devicesのデジタルテレビ機器は組み込みOSを使用している。同社の技術スタッフは、LASCOS(Linux Application Source Compatible Operating System)と呼ばれる独自のリアルタイムOSを実際に開発した。ワルトン氏によると、この独自OSはそれまで使用していたWind RiverというOSよりも高速かつ堅牢で、組み込みLinuxよりも優れているということだ。「Linuxを組み込みOSとして使用しようと考えている人々は少なくないが、Linuxは大きくてコストがかかりすぎる」とワルトン氏は述べている。「Linuxを使うと製品コストが上がり、フットプリントが大きくなりすぎる。さらに、すべてのライブラリをロードするとメモリが大量に消費される傾向にある。デジタルテレビはかなりコモディティ化された製品なので、10%あればそれで十分だった」

 Access DevicesはLASCOSを使用することで、自社のデジタルテレビ製品のための堅牢で成熟した基盤を維持しつつ、ライセンス料金をなくすことに成功し、限られた利益幅を守ることができた。

 しかし、ワルトン氏はこのリアルタイムOSをどう扱うべきか迷っていた。「販売するべきか? 自分たちだけで維持すべきか?」 彼は、このソフトウェアの方向性を制御できなくなってもいいのかどうか、という点について確信が持てないでいた。

 しかし、ワルトン氏はこの前の休暇で気持ちを固め、一歩踏み出すことにした。彼が休暇中に読んだ本の中に、Siriusのマーク・タイラー氏から渡された、ボブ・ヤング氏の『Under the Radar: How Red Hat Changed the Software Business』があった。ワルトン氏自身の言葉によると、彼はまったく「オープンな」気持ちで、新しいビジョンを抱いて帰宅したのだそうだ。そのビジョンには、Access DevicesのリアルタイムOSをオープンソースソフトウェアライセンスの下でフリーで公開することが含まれていた。

 ワルトン氏はこう話している。「われわれは水脈を探しているようなものだ。過去を振り返ってみれば、始めたはいいが後に中断してしまったプロジェクトがいくつもある。そうしたプロジェクトがなぜ中断したのか、何が問題で、どうすればうまくいくのかを理解するためには、もっと多くの情報が必要だ」

 Access Devicesがオープンソースコミュニティに参加するために行ったことの1つは、LASCOSの設計である。つまり、開発者がLinuxで記述したユーティリティをこのリアルタイムOSに簡単に移植できるようにした。LASCOS(Linux Application Source Compatible Operating System)という名前はこれに由来する。

 「われわれはLASCOSのことをApacheに話してみた。現在は、ドキュメントを整理し、簡単に発行できるような方法でパッケージ化している最中である」とワルトン氏は語っている。

新しい組み込みOSの必要性

 ワルトン氏は、特殊な目的のために作成された組み込みOSを全世界に提供するというアイデアにオープンソースコミュニティーが乗ってくれることを期待している。「コミュニティーの中には、マシンやテレビや液晶ディスプレイの内部のソフトウェアを扱っている人も多数いるだろう。われわれのOSが彼らの刺激になるかもしれない」というのがワルトン氏の意見だ。

 ワルトン氏は、開発者という視点で見ると、自分は以前からオープンソースのファンだったと語っている。「わたしはもともとエンジニアだったが、デスクトップの発展と、そこから生まれたオープンソースパッケージの充実ぶりに気付いていなかった。こんなに素晴らしいパッケージがこんなにたくさんあることを知らなかったのだ。しかしマーク・タイラー氏のおかげでそれに気付くことができた。彼がわたしの心をオープンにしてくれたんだ」

 彼は、競争相手がこのパッケージを使って競合ハードウェアを開発するだろうということを気にしていない。「この業界は整理統合が進んでいるので、いずれはどこも同じOSを使用することになるだろう。きちんと保守され、安定したフリーのリアルタイムOSがあれば、われわれベンダ側も、一般のお客様も得をすることになる。このリアルタイムOSが今後の発展の基盤になってくれればよいと思う」

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