Javaの影響:OpenOffice.org 2.0とFOSSコミュニティー (2/2 ページ)

» 2005年05月10日 16時03分 公開
[Bruce-Byfield,japan.linux.com]
SourceForge.JP Magazine
前のページへ 1|2       

Java使用反対論

 Sch・heit氏がC++を複雑だといい、Javaは遅くないといったことに異論のある人もいるだろう。だが、技術的な議論はいろいろな意味で今ここでは別問題だ。Java反対論は、技術的な利点よりFOSSの哲学を重視する傾向にある人々と、OpenOffice.orgの将来への影響の可能性から論じる人々に分かれている。

 OpenOffice.orgのJava使用に反対する少数の技術的議論の中には、これをクロスプラットフォームのオフィススイートにするというプロジェクトの目的があいまいになる、という意見もある。FreeBSD、GNU/Linux for the PowerPCなど、現在サポートされている多くのオペレーティングシステムにはJavaの正式バージョンがない。そのようなプラットフォームでOOo 2.0を使用したければ、GNU/Linuxエミュレーションを使うか、完全とはいえないフリーJava実装を使わなければならない。どちらにしても、移植に携わっている既に過重労働のOpenOffice.orgボランティアチームに、新たな要件に伴う新たな負荷がかかることになる。

 別のJava反対論として、OpenOffice.org自体への影響の可能性を案じる議論がある。ジャーナリストでOpenOffice.orgボランティアでもあるマルコ・フィオレッティ氏は、Javaへの依存度が高くなることでプロジェクトの信頼性が失われ、普及拡大が遅くなることを懸念している。OOo Discussメーリングリストで挙がっている疑念について訊かれ、フィオレッティ氏は、Javaへの急激な動きはOpenOffice.orgが成熟したプラットフォームであるという主張を揺るがすことになる、といっている。フィオレッティ氏はまた、政府使用の要件としてオープン性が定められている管轄区域では、OpenOffice.orgが要件を満たさなくなる可能性も指摘した。フィオレッティ氏は、企業の経営者や議員たちが、「まったくの偶然からOpenOffice.orgを生み出した」このプロジェクトのメンバーを「不適格」と結論付け、「彼らを信頼して大丈夫か」といぶかるのではないかと心配している。

 同じく重要な問題は、Javaに依存することでほかのFOSSコミュニティーのOpenOffice.orgへの信頼が損なわれることだ。先のNewsForgeのバージョン2.0レビューへの匿名コメントのいくつかには、今後もOpenOffice.orgを使い続けるかどうかは疑問という意見もあった。「もう推進するのはやめたほうがよさそうだ」と、ある匿名投稿者は書いている。ほかにも、KOffice、AbiWord、Gnumericなどが早く開発されて、OpenOffice.orgの完全な代わりになるとよい、という発言も複数あった。

 FOSSコントリビューターたちの反応もだいたい同じだ。DebianディストリビューションへのOpenOffice.org統合に関わる人を対象としたメーリングリストdebian-openoffice.orgでの反応は、ほかのコミュニティーグループの反応を代表する典型的なものである。例えば、Anders Breindahl氏は、「SunがフリーのオフィススイートにJavaを使うのをよしとしていることがだんだん心配になってきた……。これによって、OpenOffice.orgはフリーソフトウェアコミュニティーにとって最適なものではなくなると思う」と書いている。また、同じ議論の中で、OpenOffice.orgの前マーケティングリード、サム・ハイサー氏は、この変更をFOSSコミュニティーへの「挑戦」だと見なし、FOSSコミュニティーは自分たちの哲学にもっとふさわしいほかのソフトウェアでこれに対抗すべきだといっている。

 こうしたコメントを見ると、Javaの使用を決定した側とその決定に反対する側の間には、ほとんど対話がないに等しい。どちらももう一方とは異なるところに焦点をおいている。これまでのところ、どちらの側も他方の懸念に答えていないようだ。

ディストリビューションの反応

 主要なGNU/Linuxディストリビューションにおいて、想定されるような反応は既に起きている。おそらくほとんどのディストリビューションにとって、これは問題ではない。SlackwareはOpenOffice.orgを再配布しておらず、開発者のパトリック・フォルカーディン氏によれば再配布する意向はないという。商用ディストリビューションでは、Novellエンジニアのマイケル・ミーク氏によれば、SUSEには既にJavaが付いているという。同様に、Mandrake CTOのフレデリック・ルピエ(Frederic Lepied)氏は、「ダウンロード版はフリーのままにし、商用版にはJavaをバンドルします」といっている。

 これとは対照的に、Red HatとFedoraはOpenOffice.orgをGNU Compiler for Java(GCJ)でビルドしようとしている。GCJはコンパイラというだけでなくフリーJREでもある。Red Hatでは以前からOpenOffice.orgにこの方法をとっており、Red Hatエンジニアたちは今後もこのやり方を続けようとしている。Red Hatのプログラマー、カオラン・マクナマラ(Caolan Macnamara)氏は、バージョン2.0の初期の開発ビルドのコンパイルに限定的に成功したと報告している。ただ、GCJはまだJavaの正式リリースの完全な代わりにはならず、パッチを追加しても苦労が増えるばかりという状態だ。

 ほかのディストリビューションは、GCJの開発を待っている。GentooのOpenOffice.orgチームのメンバーPaul de Vrieze氏は、GentooはGCJのようなJavaのフリー実装を使用したいと述べ、ほかに代わりがなければJavaでビルドする可能性もあるといっている。これとは対照的に、Ubuntuはフリービルドが使えなければ無効化バージョンを使うといっている。「Ubuntuはオープンソース開発の理念を守ります」とUbuntuプロジェクトのリーダー、マット・ジマーマン氏はいう。「わたしたちのライセンスガイドラインを満たさないソフトウェアは正式ディストリビューションには入れません」

 Debianでは、OpenOffice.orgパッケージの管理者、クリス・ホール氏とレネ・エンゲルハード(Rene Engelhard)氏が、GCJ開発とそれに追随する開発に取り組んでいる。エンゲルハード氏によれば、GCJの最新版とlibgcc1ライブラリが現在はDebianの非公式Experimentalディストリビューションだけに入っているため、新たな困難に直面しているという。2人は、新しいパッケージを最初に入れるDebian不安定リリースにOpenOffice.org 2.0を入れるには、前のバージョンでもやったように、あらゆるJava対応機能を無効にしなければならない。JavaはDebianフリーソフトウェアガイドラインのフリーソフトウェアの定義に合致しないので、DebianにOpenOffice.orgを含めるにはこうする以外ないのである。

まとめ

 全般に、反応はオープンソースとフリーソフトウェアの境で分かれているようだ。リチャード・ストールマン氏がいつも言っているとおり、この2つのコミュニティーは多くの目的において一緒のグループで活動できても、基本的な方向はかなり異なっているのである。

 オープンソース支持者たちは、共同開発がプロプライエタリ方式より優れたソフトウェアを生み出すという信念のもと、共同開発を支持している。これに対し、フリーソフトウェア支持者たちは、哲学的な立場を最も重視しており、自分たちの理念に忠実でいるためには多少の不便はいとわない。おおざっぱにいえば、OpenOffice.orgの新たなJava依存をその効果とユーザーの便宜を重視して弁護しているのは、オープンソース支持者に多いといえるだろう。この決定を現実的なものと見なしている。場合によってはこの決定によって理念が損なわれてもかまわない。

 これに対し、Java依存に抵抗しているのは、フリーソフトウェア支持者に多い。JavaとOpenOffice.org両方の代わりとなるものを積極的に探している。フリーソフトウェア支持者の多くは、Javaに依存するよりは無効化バージョンのOpenOffice.orgを出すことを検討する。今回の決定を無責任な行為、極端な場合、裏切り行為と見なしている。

 このような観点の相違が今後どういう展開になるかはまだわからない。その影響の1つとして、OpenOffice.orgの主要コントリビューターSun Microsystemsへの日頃の不信感だけでなく、OpenOffice.org自体への不信感までが呼び起こされた。このままでは、長期的には、当事者間のコミュニケーション不足が協力の欠如を招いてOpenOffice.orgの普及拡大を妨げることにもなり得る。そればかりか、OpenOffice.orgがGNU/Linuxその他のフリーオペレーティングシステムを代替デスクトップとして位置付ける助けになっているとすれば、FOSSの普及全般までも妨げることになりかねない。別の可能性として、プロジェクトのフォークが1つか2つ作られることも考えられるが、まだ誰もそこまでは想定していない。

 今のところは、誰も全員にわかるようには話をしていない状況だ。コミュニティー全体ではなお悪い状態である。

Bruce Byfield――フリーランスのコースデザイナ/インストラクタ、テクニカルジャーナリスト。

前のページへ 1|2       

Copyright © 2010 OSDN Corporation, All Rights Reserved.

注目のテーマ