一人一台スパコンを持つ時代が到来、21世紀型ワークステーションの秘密に迫るInetrview(2/2 ページ)

» 2005年05月19日 23時33分 公開
[西尾泰三ITmedia]
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ハンター TOP500でクラスタ型が60%近くを占めている現状を見ても、並列化、技術で言えばクラスタの波が押し寄せていることはご存じのとおりです。そして、過去スパコンで使われていた技術がコンピュータ業界に広く影響を及ぼすようになったことから分かるのは、こうしたクラスタの波が今後個人のPCにも押し寄せてくるであろうということです。

 すでにクロックアップでCPUの性能を上げることが物理的に不可能な状態まで来たことは、IntelがPentium 4の4GHz版の発売を中止し、その開発リソースをマルチコアに向けたことからも明らかです。わたしたちが考えたのは、ワークステーションや個人が利用するPCにクラスタの技術を落とし込むことでした。わたしたちはミッドレンジのクラスタ製品に取って代わる21世紀型のワークステーションを志向しているのです。

ITmedia DS-96のパフォーマンスは?

ハンター DS-96はピーク性能で230GFLOPS、継続動作性能で110GFLOPSを叩き出します。TOP500の500位クラスでも800GFLOPS程度の性能を持っているので、それと比べると非力に思われるかもしれませんが、Intelのプロセッサが単体で3GFLOPS程度であることを考えると、この筐体1台で部屋を圧迫していたサーバ群と同じパフォーマンスが出せるのです。

 また、TOP500にランクインしているスパコンがスパコンの総台数に占める割合は15%くらいです。その意味ではこうしたTOP500にランクインするものは氷山の一角なのです。海面下に沈む氷山の本体、つまりスパコンのボリュームゾーンは10GFLOPSから150GFLOPS程度の層です。

 しかし、これまでのクラスタ型のスパコンの使い勝手というと、ボリュームゾーンのものとTOP500でそう変わりません。性能はガタ落ちなのに手間は同じ、これはどうなのでしょう。そこに対するわたしたちの回答がDS-96なのです。

 1980年代にミニコンピュータ(ミニコン)というカテゴリがありましたが、当時のメインフレームやスパコンに対するミニコンの位置づけが、現在の一般的なクラスタ型のスパコンと弊社製品のそれと考えるとイメージしやすいかもしれません。

 加えて言うなら、スパコンの世界ではハードウェアとソフトウェアの事実上の標準が確立しています。プロセッサのアーキテクチャではx86、OSはLinux、コネクションにはギガビットまたは10ギガビットのイーサネットといった具合です。カスタマイズしたハードウェアやソフトウェアを使うのではなく、事実上の標準となっているクラスタ技術を筐体に収めたというのが正確な表現です。

ITmedia OSにはLinuxを採用していますね。ディストリビューションには何を使っているんですか?

ハンター Fedora Core 2です。といっても、デバイス周りをかなりいじっていますので、実際にはFedora Core 2をベースとしたOrion独自のディストリビューションといったほうが正しいかもしれません。

ITmedia クラスタシステムで本当に重要なのはソフトウェアだと思います。ソフトはオープンソースのものが多く使われているようですね。

ハンター オープンソースについては強い信念をもって取り組んでいます。せんえつながら、kernel.orgのホスティングは弊社がやっています(編集部注:kernel.orgのページ下部にはそれを示すOrionのロゴがある)し、わたしがTransmeta時代には同じくTransmetaの社員だったリーナス・トーバルズ氏を米国に招くなどしています。

ITmedia ターゲットとなる市場は?

ハンター ターゲットとなる市場は、従来型のワークステーションの市場で、デザイナ、設計者、モデラーの複雑かつ高性能なアプリを使う人たちです。分野でいうと、医療分野や地球物理学、金融分析、製品設計など幅広い市場が対象になります。

ITmedia 米国ではすでにNASAやサンディエゴ州立大学、ネブラスカ大学など米国機関から契約を取り付けていますし、欧州でもTarget Findersという石油関連のコンサルティングを行う企業などがOrion製品を採用していますね。日本での展開はどうでしょう?

ハンター DS-12に関して言えば、豊橋技術科学大学の中島教授のところで使われているなど数件の事例があります。DS-96に関してはこれから本格的にビジネスを進めていくつもりです。弊社のリソースの配分は、米国が5割程度です。欧州のほうは組織体制がまだ固まっていないこともあり、欧州と日本が大体同じ割合で考えていますが、インフラが整えば欧州は大きなマーケットだと思います。

ITmedia TransmetaのEfficeonを採用していることで、特別な電源を確保しなくてよいなど、使い勝手の部分は非常に魅力的ですが、Transmetaがプロセッサ事業から撤退することを検討しているニュース(関連記事参照)などを見ると、購入に踏み切れないユーザーもいるのではないでしょうか。ほかのプロセッサの採用などは考えていますか?

ハンター Transmetaがその発表をしたときには多少動揺しましたが、その後の発表で、弊社を含めたコアのカスタマーには新製品もサポートし続けることをコミットしています。

 結局のところ、問題はトレードオフなのです。例えばIntelのPentium MやAMDのTurionなどは確かにパワーはあるかもしれませんが、その消費電力も無視できないので、一般的なコンセントを電源とするならノードの数を減らすなどを考えなければならなくなるでしょう。

 いずれにせよ、それぞれのプロセッサはいいところもあれば悪いところもありますが、総じて言えば今あるプロセッサの中でEfficeonが一番いいと考えているのです。今後1年はEfficeonを使うつもりですが、製品の幅を広げる意味でそういったプロセッサも検討するつもりです。

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