PART1 SkypeがIP電話に与えるインパクト特集:Skypeは企業IP電話を変えるか(4/4 ページ)

» 2005年05月25日 16時00分 公開
[徳力 基彦,N+I NETWORK Guide]
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●IP電話システムとの比較

 Skypeの企業利用を考えた場合、重要なのは既存のIP電話システムとの使い勝手の違いである。一般のIP電話システム、サービスは、基本的に各企業が自社の環境に合ったシステムを選択して購入することができる。それに対し、Skypeでは基本的にPCにインストールするソフトは現状1種類で、Skypeが提供するサービスしか選択できない。

 例として、現在販売されているIP電話システムでは、転送機能やボイスメールなど、企業利用に必要な機能がひと通りそろっているため、自社の業務に合わせて最適なシステムを構築できるが、Skypeの場合は、今のところ通話部分に関してはまだ基本的な機能しか提供していない。したがって、当面はSkypeがビジネス用途のIP電話システムに置き換わるということはない。

 ただし、Skypeの導入や利用自体にはほとんどコストがかからないことから、通話料が発生する発信だけはSkypeを利用し、受信側は既存のIP電話システムを利用するという使い方をする企業が増えてくることは予想される。このあたりの使い勝手の違いは、ある程度端末やソフトウェアのバリエーションが増えてくることによって解消できるため、将来的にはほとんど差のない状態になる可能性もあるだろう。

P2Pゆえの管理手段のなさが課題

 またSkypeは、PBXやクライアント/サーバ型のIP電話システムのように、企業のシステム管理者が細かい管理を行うことができない点にも注意が必要だ(図2)。

図2 図2●IP電話システムとSkypeのシステム構成の違い IP電話システムのサーバ集中管理モデルがP2P通信型のSkypeには適用できない

 一般的な電話システムでは、企業内のユーザーの通話はPBXやSIPサーバを経由して実施されるため、企業のシステム管理者がそれらの部分でユーザーの通話状況や通話履歴、国際電話の可否や内線の設定など、詳細な管理を行うことができる。ところがSkypeの場合は、すべてのサービスはSkypeが直接提供しているうえに、P2P技術の特性もあり、現状ではシステム管理者が業務レベルの管理を行うのは非常に難しい。MSN MessengerのようなIMでも同様の問題があったように、当面はSkypeを企業内の電話システムの一部として利用するのであれば、ユーザー個人個人に利用ルールを明示する必要がある。

 なお、Skype社ではビジネス向けSkypeの開発を検討しているとも伝えられており、IMでもコンシューマ向けIMソフトウェアと企業向けIMシステムが個別に販売されていたように、Skypeが企業のシステム管理者向けに一定水準の管理が可能な管理用サービスやソフトウェアを提供することは考えられる。

電話としての使い勝手を向上させる新サービス

 Skype社は今後、基本的には電話としての使い勝手を改善するサービスの向上に注力すると表明している。現在のところは、Skypeから一般電話への通話を可能にするSkypeOutのサービスが提供されているのみだが、次のバージョンにはSkypeにIP電話番号を振って一般電話からSkypeへの通話を可能にするSkypeInサービスの提供が予定されている。

 また、ビジネスでSkypeを利用する場合の使い勝手をよくするために、さまざまな有料オプションサービスの提供も予定されている。その代表となるのが、すでにベータ版が公開されている留守番電話サービスだ。この留守番電話サービスを利用すれば、Skypeに電話がかかってきた際に、ユーザーが不在の場合もしくは電話に出ることができない場合に、留守番電話サービスにメッセージを残すことができる。

 さらに、Skypeの留守番電話サービスでは、既存の電話と異なり、相手が在席状態であってもコールをせずに直接留守番電話にメッセージを録音することも可能となっている。緊急の用事でないときに音声メッセージを相手に送付するという意味で、電子メールによるボイスメッセージのような使い方ができることになる。

 これと関連する動きとして注目したいのは、Skypeと連動する製品の充実である。Skype社自体はオープンに複数の事業者と提携する姿勢を表明しており、すでに日本でも複数のグループウェアや名刺管理ソフト、メールサービスなどとの連携(*4)が発表されている。Skype専用端末の動向にも注目したい。

 また、PCのUSBポートに差し込んで利用するハンドセット型Skype専用電話端末(*5)や、無線LAN対応携帯電話端末の開発が相次いで発表されており、今後さらに関連製品が充実することが予想される(写真)。

Pocket PC版Skype SkypeのPocket PC版では、無線携帯電話としての利用が期待されている

 関連製品が増えれば増えるほど、既存の電話システムにおいてSkypeが置き換え可能な領域が広がってくるわけだ。2005年のSkypeの動向からは、本当に目が離せない。


*4 グループウェア関連では「desknet's」(ネオジャパン)、「マルチスケジューラ」「プロジェクトA」(アリエル・ネットワーク)、名刺管理ソフトでは「やさしく名刺ファイリング」(メディアドライブ)などがSkypeとの連携機能をサポートしている。

*5 国内では、ライブドアからハンドセット型の「Cyberphone K」が販売されている(税込8925円)。PCとUSBで接続する。ダイヤルボタン、キーによる操作で発着信が行える。BluetoothでPCに無線接続する小型ヘッドセットもある。http://tenant.depart.livedoor.com/t/livedoor-skype/を参照。

徳力 基彦(アリエル・ネットワーク プロダクトマネージャ)

大手通信会社にて法人営業やIR活動に従事した後、IT系コンサルティングファームを経て日本発のP2Pアプリケーション開発会社であるアリエル・ネットワークに入社。新製品の企画業務やP2Pの啓蒙活動に従事しており、japan.internet.comでP2Pのコラムを執筆するほか、All About Japan「通信サービス・IP電話」のガイドも担当する。

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