サンはOpenOffice.orgコミュニティーをどう見ているのか?Interview(5/5 ページ)

» 2005年06月27日 08時46分 公開
[聞き手:可知 豊、木田佳克,ITmedia]
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石村 いえ、どちらかと言うと膨れていくんだと思います。まだ追加したい機能はたくさんあります。スリムになることは考えづらく、モジュール化を進めながら、さらに多種多様になっていくのではないでしょうか。その結果、サンから関わる人の絶対量は変わらなくても、相対的な人数は減ってくると思います。

コミュニティーとの共同作業で感じたこと

可知 日本のコミュニティーといっしょに行った作業について教えてください。

石村 今回の開発では、2つの作業をいっしょに行いました。ひとつは、TCMテストと呼ばれる品質確認テスト、もうひとつはオンラインヘルプ日本語訳の一部です。これは、日本ユーザー会のメーリングリストで参加を呼びかけたものです。

 TCMテストは、日本語ローカライズ版のテストということで、いくつかのテストケースを用意しました。それを参加者に手持ちの環境でテストしてもらい、結果を専用のWebデータベースに登録してもらうという作業フローでした。

 また、ヘルプの翻訳作業をトライアルということで行ってみました。これまでサンは、StarOffice/StarSuiteのために10カ国語版を作成しており、その成果をOpenOffice.orgコミュニティーに渡していました。これは、ほかのオープンソースプロジェクトと違っているところだと思います。この体制はすぐにやめる、あとはコミュニティーでやってくださいという展開になることはありません。それでも、もっとコミュニティーと連携していきたいという意志があるので、そのためのひとつとして翻訳はどうだろう? という考えが出たわけです。

可知 いっしょに取り組んでみて感じたことはありますか?

石村 正直に言ってとても有意義でした。ローカライズのテストでしたが、半分以上は関係のない問題点も上がってきました。細かい不具合情報も見つけられたので、とてもプラスに働いたと思います。

 コミュニティーに依頼するからといって、特に難しさは感じませんでした。仮に、サンがコストをかけてテスターを雇って作業したとしても、その人たちはStarSuiteやOpenOffice.orgのことをほとんど知らないといったケースが多くなります。一方、OpenOffice.orgのコミュニティーに参加している人たちは、本当にOpenOffice.orgに興味を持っている人たちであり、その面からもスムーズだったわけです。

 私が、積極的に日本のコミュニティーに接触し出したのは、つい最近のことです。TCMテストについては、これからも続けていきたいと考えています。

可知 ビジネスでソフトウェアを開発する場合、そしてオープンソースでコミュニティーといっしょに開発していく場合を比べると、ジレンマを感じることがありませんか?

石村 私たちエンジニアレベルの話だと、そんなに違いはないです。外から見たら、サンというひとつの企業に見えると思うのです。でも実際には、世界中に散らばっているわけですね。連絡の必要性があっても、それは企業内でもコミュニティーでもそう違いを感じません。OpenOffice.orgの開発では、モジュールごとのオーナーや責任者が比較的はっきりしていることもあります。

Javaとは異なるサンの姿勢

可知 サンの戦略として、最近は特にオープンソースとの関係を大きくアピールしていますが、Javaに比べるとStarSuiteではあまりOpenOffice.orgとの関係をアピールしていないように感じますが。

石村 基本的には、まんべんなく取り組んでいると思います。もちろん、Javaはサンが作ったものなので、アピールが同じでも自然と目立つことはあるのかもしれません。サンとしては、独自の物も全部オープンにしようというスタンスでいます。OpenOffice.orgであろうがMozillaであろうがGNOMEであろうが、すべてオープンにするという方針です。

 Javaに関しては、よくニュースなどにも取り上げられますが、守りたい、ライセンス料を稼ぎたいという視点ではなく、以前にもあったような非互換なソフトウェアが出てくることは防ぎたいということからです。

可知 最近ニュースで注目されているのは、オープンソースなOpenOffice.orgの方という印象があります。無料のソフトだから? ということなのかもしれません。サンは、StarSuiteがOpenOffice.orgが基になっていることを意図的に言わないようにしているのでしょうか。

高松 積極的には言ってないのですが、特別な理由があるわけでもありません。こちらでは2つのソフトウェアに対して関係性を切っているわけではないです。

 最近は、企業を含めて官公庁向けや教育機関向けのセールスで、オープンソースコミュニティーとの取り組みをかなり積極的に宣伝しています。これはOpenSolarisを中心にして、OpenOffice.orgを始め、MozillaやGNOME/NetBeansについても説明しています。

石村 コンシューマ向けの宣伝は、ソースネクスト任せになっています。そちらは、また与える印象が違っているかもしれませんね。

高松 オープンソースのコミュニティーは、中立的な立場で好きなことが取り組めるメリットがあります。その特性を理解して参画している人たちがいるわけですよね。そこにあまり企業色が出ると、今度は離れていく人も出てくると思います。そこがバランスの難しいところだと感じています。

 OpenSolarisに関しても、サンがグッと前に出ていってコミュニティーをドライブするのは最初の立ち上げ時だけにしたいところです。できるだけ早く手を離したいという気持ちで取り組んでいます。コミュニティーに対するサンの立場は全体的にこのスタンスですね。サンは、どちらかというと後ろから見ていて、非互換へと進まないよう影から支えるという立場が良いのだと思います。そのバランスは常に考えながら取り組んでいるつもりです。


インタビュー後記

 今回のインタビューには、2つの目的があった。ひとつは、サンのStarSuiteにどのように取り組んでいるのか明確にすること。もうひとつは、コミュニティーとの距離の取り方をどのように考えているか聞くことだ。

 まずStaSuiteへの取り組みについて、いちばんはっきりしたことは、オフィススイートという製品マーケットが、非常に大きな広がりを持っており、サンがフォーカスしているのはその一部だということ。

 このオフィススィートのマーケットには、エンタープライズと呼ばれる大企業向けのサービスがあり、他方にコンシューマと呼ばれる個人ユーザー向けのサービスがある。コンシューマは、PCに詳しい個人ユーザーと詳しくないカジュアルユーザーに分かれるだろう。

 企業向けのユーザー層には、PCショップでパッケージを購入、そしてプリインストールされたソフトをそのまま使うというユーザーもいるだろう。その中で、現状でStarSuiteとその情報が届いている場所は、それほど広くない。ソースネクストのコンシューマ向けパッケージも大きな反響を呼んだが、それもまた限られたユーザー層だろう。OpenOffice.orgを使っているユーザー層とも、少し違っているのではないだろうか。

 すでに、StarSuiteやOpenOffice.orgが届き始めている場所には、今回のバージョンアップで大きな反響を呼ぶのではないかと思う。一方、オフィススィートマーケット全体を見れば、そこにはまだまだ隙間があるし、ビジネスチャンスもあるだろう。たとえば、Windowsを使っている企業ユーザー向けのサービスは、日本ではほとんど登場していない。

 もうひとつ、コミュニティーとの距離の取り方については、非常に気を使っているという印象を受けた。「企業色を出しすぎないようにバランスを取る」という高松氏の発言が記憶に残った。OpenOffice.orgコミュニティーに関して言えば、サンに匹敵するような企業プレーヤーはまだ目立っていない。OpenOffice.orgのユーザー層の広がりに合わせて、強力なプレーヤーの登場が期待される。そういうコミュニティー参加者と共にOpenOffice.orgのフィールドを広げていくことをサン自身も期待しているのではないだろうか。その結果として、サンのバランスの取り方も変わってくるのかもしれない(可知 豊)

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