EUのソフトウェア特許法案、いよいよ票決へ

7月6日、欧州議会でソフトウェア特許法案の修正案が票決される。この修正案は、特許制度の範囲を制限することを目指したもので、IT業界はこの案に反対している。(IDG)

» 2005年07月05日 16時33分 公開
[IDG Japan]
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 欧州議会議員は7月6日、欧州連合(EU)内のソフトウェア特許をめぐる4年間の戦いにおいて、次の重要なステップに進む。この日は、コンピュータ実行型の発明(CII)に関するEU指令案についての決選投票が行われる。この指令は、反対派から「ソフトウェア特許指令」と呼ばれてきた。

 この指令は、25のEU加盟国の特許制度を調和させ、携帯電話やデジタルテレビ、洗濯機などコンピュータ技術を使うことによって可能となる新たな発明を特許で保護することを目的としている。

 この指令案が法律となるには、その文言について、欧州議会議員が欧州閣僚理事会(加盟国政府の代表で構成される)と合意に至らなくてはならない。6日の票決において、議員らは、5月に閣僚理事会が承認した(「共通見解」と呼ばれる)指令案への一連の修正案を検討することになる。

 この指令案の賛成派も反対派も、ソフトそのものに特許を与えるべきではない(ソフトは著作権により保護される)という点で意見は一致している。この案をめぐる激しい議論の争点となってきたのは、その文言、特に発明や革新といった用語の定義だった。

 大手IT企業は、閣僚理事会の共通見解に反対する議員らによる修正案の一部は、デジタル分野ではもはや適切でない、時代後れの技術発明の定義に基づいているため、十分な特許保護を提供しないと主張している。

 この指令案に批判的な向き――主にオープンソースコミュニティーのメンバーだが、IBMやSun Microsystemsも含む――は、この案は広範なソフトおよびコンピュータプログラムへの特許付与に道を開くものであり、小規模企業は多くの特許を持つ企業と訴訟で戦うリソースを持たないため、大手IT企業による市場支配が可能になると訴えている。

 多数の欧州議会議員は、ソフトウェア特許の裏口となり、特許弁護士につけ込まれる抜け穴がないよう定義を明確にしたい考えだ。

 極左、緑の党、社会党、リベラル、中道右派など約200人の各党派の議員が、特許制度の範囲を制限することを目指した21の修正案を推進している。これを通過させるには、732人の議員中367人以上の賛成が必要だ。

 この修正案は、フリーソフト推進派や小規模企業から支持されている。

 「競争力ある革新的な欧州ITセクターを維持するには、閣僚理事会の共通見解を修正することが不可欠だ。あらゆる党派の議員が推進する21の修正案は、この目標を達成し、米国式特許制度という最悪の事態を避けるために必要なものだ」と英Foundation for a Free Information Infrastructure(FFII UK)のディレクター、ラファス・ポロック氏は用意した声明文で述べている。

 同団体の声明文では、障害者向け通信機器を手がけるToby ChurchillのCEO(最高経営責任者)トビー・チャーチル氏の発言も引用されている。チャーチル氏はその中で、欧州で米国式ソフトウェア特許が実現したら、中小企業にとっては危険であり、訴訟から身を守ろうとする企業が「取るに足りない特許」を取得する可能性もあると述べている。

 しかし、独SAPなどの大手企業は、この見方に異を唱えている。

 「オープンソースコミュニティーは、特許が自分たちのじゃまをすると考えている。しかしSAPは、24件の特許しか持っていない。もしも彼らの考えが真実なら、オープンソースはどうやって繁栄に至ったというのか? 誰も訴えられてなどいない。中小ソフト企業の方がSAPよりも多くの特許を持っている」とSAPのCEOの顧問を務めるレス・ヘイマン氏は話している。

 欧州のハイテク企業は、CII指令案は、企業が違法コピーから革新を守り、研究開発費を回収できるようにする特許制度を実現するものであるべきだと主張する。

 6月29日には仏Alcatel、スウェーデンのEricsson、フィンランドのNokia、蘭Philips Electronics、独SiemensのCEOらが欧州情報通信技術製造者協会(EICTA)とともに、閣僚理事会の理事長あてに、欧州議会の修正案は「欧州のデジタル技術業界に悪影響を及ぼす恐れがある」と警告する共同書簡を送った。EICTAは、53社のIT企業と34のIT業界団体を代表する組織。

 Ericssonの社長兼CEO、カール−ヘンリック・スバンベリ氏は次のように述べている。「われわれが有利な法的枠組みを獲得することは極めて重要だ。われわれの研究開発を前進させるからだ。コンピュータ実行型の発明を特許で保護できなければ、デジタル技術業界、そして欧州地域が競争力を保つのは難しいだろう」

 6月20日、欧州議会の法律問題委員会の議員らは、IT業界からおおむね歓迎を受けたバージョンのCII指令案を推薦した。同委員会が、特許制度の範囲を制限し、データ処理などの活動を特許保護対象から除外する修正案を受け入れることを拒否したためだ。

 EICTAのディレクター、マーク・マクガン氏は、同委員会の決定は「多くの不適切な修正案が拒絶されたため、前向きなものだ」としている。

 しかし、これら修正案の多くは6日の票決前に再度提示される。賛成派も反対派も、732人の議員がどちらを支持するのかをはらはらしながら見守っている。5日には議員らによるこの指令案の審議が行われる。

 十分な数の議員が修正案を支持するのか、あるいは法律問題委員会の見解の方が十分な支持を集めるのかは分からない。後者の場合、5月の閣僚理事会の共通見解が有効になる。このバージョンは、広範な製品の特許取得を許すとして反対派から厳しい批判を受けてきた。

 欧州議会の票決で法制化のプロセスが終わるわけではない。票決後、閣僚理事会が議会の修正案を検討する期間が3カ月設けられる。閣僚理事会は修正案を受け入れるか、全会一致で拒否するかを選択する。拒否されれば、欧州議会と閣僚理事会は合意を結ぶための「調停」と呼ばれる特別なプロセスに入る。それで合意に至らなければ、指令案は棄却される。

 CII指令案は、欧州議会の歴史の中で最も活発にロビー活動が行われた議題の1つだ。

 同議会には5000人を超える公認ロビイストがいる。あるIT業界のロビイストは、約300人の議員に直接会って、自分の組織の考えを説明したとしている。

 しかし、この努力は望んだとおりの成果につながらないかもしれない。オーストリアの緑の党に所属するエバ・リヒテンブルグ議員は、積極的なロビー活動は「逆効果かもしれない」と言う。政治家はこの指令案の背後に莫大な商業利益があることに気づいているからだという。

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