失敗しない企業が選択するアプローチITIL導入成功のステップ(4/4 ページ)

» 2005年07月20日 09時03分 公開
[川浪宏之(野村総合研究所),ITmedia]
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 本アプローチは、ユーザー部門とIT部門や、ユーザー企業とアウトソーサ・情報子会社といった、委託者と受託者間の役割や提供サービスが曖昧化している、またはコストがブラックボックス化しているといった課題を抱えている企業が選択するアプローチである。これまでも、サービスレベル管理については、ITILという言葉が広く露出する以前から、ITアウトソーシングを実施している企業を中心に取組まれてきた。

 ただし、これまでのサービスレベル管理は、主にアウトソーサに対する牽制手段の1つとして、IT部門内に限定された活動として取組まれる傾向が強く、ビジネス視点でITサービスを最適化し、中長期的なコストの最適化を図ろうとする目的意識は総じて薄かったように思われる。その主な原因として、サービスレベルとその対価であるサービス料金とが適切に紐付けられていこと、サービスレベル管理の実施主体にユーザー部門が含まれていないことの2つがあげられる。

 アプローチ2では、ITサービスマネジメントの本来の目的に立ち戻り、サービスレベル管理を起点として、ユーザーとの信頼関係を確立し、サービスレベルとサービス料金とを適切にバランスさせることを目指している。具体的なアプローチは、以下の通りである。

 先ずはITサービスマネジメントの中核プロセスであるサービスレベル管理を導入し、曖昧化した責任・役割分担を可視化するとともに、継続的改善の起点となるPDCAサイクルを確立する。次に、サービスレベルと紐付けられた課金スキームを導入して、ユーザー部門のサービスレベルに対する意識を高揚させる。最後にユーザー部門をPDCAサイクルに組み込んで、ビジネス状況に適応したキャパシティ管理、可用性管理、ITサービス継続性管理を実現していく。

 本アプローチは、インシデント数の削減といったシステム運用品質の向上を直接的に狙ったものはないが、システム運用部門とユーザー部門やアウトソーサといったステークホルダーとの適切な関係性を構築するのに、非常に有効なアプローチである。

アプローチ3:「ピンポイントアプローチ」

 このアプローチは、課題を抱えているプロセスを抽出して、ピンポイント的に改善を図るものである。ピンポイントの対象としては、サービスデスクや構成管理といった、サービスサポートのプロセスが選択されることが多い。例えば、散在しているサービスデスクを1つに集約化して要員数の削減を図ったり、インシデント数の削減に向けて問題分析チームを編成したり、PCやネットワーク機器などコンポーネント単位に分散管理している構成情報をCMDBに一元統合化したり、といったピンポイント的なアプローチが考えられる。

 このアプローチを採用するのは、ITILアセスメントなどを通じて自社の弱みを把握しており、弱みの克服手段としてツールの導入をあらかじめ前提している企業が多い。

自社の体力に適したアプローチを見極める

 どのアプローチを採用するかは、各企業がITIL導入の目的をどこに置くかによって異なる。一般的には、システム運用品質の向上を目指すのであればアプローチ1を、ステークホルダーとの信頼関係を確立し、中長期的なコストの最適化を目指すのであればアプローチ2が適しているだろうが、より詳細なアプローチは企業によって異なるであろう。いずれのアプローチを採用するにしても、気を付けなければならないのは、自社の体力を超えた無謀な挑戦を行なわないことである。

 ITILの全10プロセスがカバーする範囲は、日常の運用サポート業務の現場改善から、多数の関係者を巻き込んだ中長期的改善まで、非常に広範である。これらすべてのプロセスを短期間で導入することは、リソースや費用対効果の視点からも困難であるとともに、ITILを現場に確実に根差させるという視点からも適切とはいい難い。自社の体力をしっかりと見極めた上で、効果を確実に得ながら一歩一歩前進できる、自社なりのアプローチを見極めることが重要である。

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