クレーンゲームのぬいぐるみ景品にミューチップを取り付ける。その意図は? そう思うこの戦略には、アミューズメント業界が直面している課題とその分析、そして日立との協業によって実現した背景がある。21日まで開催のHITACHI uVALUEコンベンション2005で語られた。
日立製作所は7月20日、同社の情報・通信事業のコンセプト「uVALUE」を掲げたカンファレンス「HITACHI uVALUEコンベンション2005」を東京国際フォーラムで開催した(21日まで)。
会期2日間で100近くを数えるのが、プロダクトやソリューションを具体的に紹介する各セミナー。ユビキタスをテーマとしたその1つ「ミューチップが創るアミューズメント店舗のプライズソリューション」では、プレビの代表取締役社長、梶 修明氏が招かれ、日立と協業によって実現したアミューズメント市場のミューチップ利用事例が紹介された。
ミューチップは、日立が開発したRFID形態の一種。愛知で開催中の万博「愛・地球博」の入場券でも利用されており、チップ自体は縦横400μm、厚さ60μmを基準とする薄型の外観を持つ。
セミナーで講演を行った梶氏が代表するプレビは、アミューズメント施設の出店戦略や機器選定を中心とし、出店地の地域性、ターゲット顧客層の分析などを担う日立市に位置する企業。なぜ同社がミューチップ導入へと至ったのか? 梶氏からは、マーケティング背景を始め、アミューズメント業界が直面している現状、そしてミューチップに期待する顧客との関係性などが語られた。
プレビが取り組むアミューズメント市場全体は、2003年度で6377億円の規模。その内訳は、クレーンゲームが全体の41.5%、メダルゲームが25.6%、ビデオゲームが14.3%、それ以降にプリクラなどが続くという。
さらに梶氏は、アミューズメント市場の移り変わりについても触れ、昭和47年頃からのボーリングを始め、同年から並行したビデオゲームのブーム、昭和60〜62年からの体感ゲームや同62年から現在に至るクレーンゲーム、そして平成8年からのプリクラなどを時系列に紹介した。それぞれのブームでポイントなのは、アミューズメント機器ベンダーからのヒット商品があってこそ実現されたもの、と同氏。今後は極端に依存せず、顧客ニーズの把握を明確にすることが店舗そのものの付加価値創造につながると語った。
現在のニーズ把握の状況として梶氏が挙げたのは、ファミリーやカップルなどという漠然とした客層把握だけだったことだと言い、その分析として施設の特性上POS管理が存在しない困難さにも触れた。
また、現在のアミューズメント市場でもっともシェアを握るジャンルはクレーンゲームでもあると言い、そのブームが低迷傾向にあることも危機感が高まる背景だという。このような状況からも同社は、機器によるヒットに依存せず、顧客ニーズの分析戦略こそが競争力につながる見解に至ったという。
関連する事項として梶氏は、ユビキタスマーケティングのノウハウとして次の5つを挙げた。
1. 顧客との関係性
2. ピンポイントセグメント
3. パーソナルハード不要
4. 来店頻度別アプローチ
5. 個人情報管理リスクの低減
それぞれにはアミューズメント業界に関わらず、今後日本が直面する少子化や人口減少によって製品の付加価値を追求する際、重要視すべきポイントになるという。
ブランドやキャラクターの持つ力こそが基本価値以上の期待ができるものだと梶氏。相乗となるロイヤリティーが向上するほど付加価値があることからも、今回の事例であれば、何もぬいぐるみでもなくプラスチックカードでも顧客ニーズ把握には十分なもの。しかし、景品を得るという基本価値に加え、ぬいぐるみが持つブランド効果相乗が欠かせないものだったと言及した。
昨今は、購入者からのニーズだけを把握するのではなく、購入に至らなかった層にも注目する増客戦略が注目されている。
客層を増やすという漠然とした目標はあるものの、その具体的な手法がなかなか具体化されないことも事実だと梶氏は指摘する。さらに、同氏がミューチップに注目した背景の1つとして加えたのは、個人情報管理の面で住所や電話番号も必要がない、決済をしない限りは最低限の情報取得に止められる点。
これらの課題と分析から導き出したのが、日立との協業で実現したミューチップを取り付けるクレーンゲームの試作モデル。展示会場に並べられた実機の前は盛況であり、ミューチップ採用というユニークさからも注目を集めていた。
展示されている事例は、ぬいぐるみのタグにミューチップが貼り付けられたもの。ほかにも封入する形態も検討しているとのこと。ぬいぐるみをクレーンで取った顧客は、店内のリーダーが搭載されている抽選器でさらなる景品獲得のチャンスを獲得できる。それと同時に来店するごとのポイント付加サービス展開も考えられるという。
商品マトリックスをどのように進化させていくかが今後のマーケティング、新業態としての課題と梶氏は強調する。アミューズメント施設運営への投資は、規模にもよるもののアミューズメント機器が巨大化するにつれ、5〜10億程度の店舗投資が通例となっている。
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