マイクロソフトのDSI戦略を考える(1/3 ページ)

マイクロソフトでは2003年から、「DSI」と呼ぶ構想を打ち出して、製品展開を行っている。年内に出荷が予定されているSQL Server 2005やVisual Studio 2005も、このDSI構想に沿った製品だ。これらの製品がどのようにDSI構想に関係しているのか、また、マイクロソフトの他の製品とどのように関連するのかをレポートする。

» 2005年08月16日 21時19分 公開
[下村恭(ハンズシステム),ITmedia]

 マイクロソフトの提唱するDSI(Dynamic Systems Initiative)を一言で説明するなら、「自律型分散システムの構築、運用を行うためのWindowsをベースとした基盤」となる。しかしその実体は、このたった一行では語りつくせない、かなり大掛かりな考え方である。「基盤」その一語をとっても、インフラからツール、果てはシステムアーキテクチャまでを統合した考え方になっているからだ。そこで、はじめにDSIという考え方が生まれた背景について振り返っておきたい。

DSIが生まれた背景

 「TCOの削減」とはよく使われるフレーズだが、TCO(Total Cost of Ownership)とは何だろうか。直訳してしまうと、「(システムの)所有にかかわる費用」となる。所有という言葉でまとめられてしまっているが、システムの導入、維持管理に関わる費用がすなわちTCOだ。

 では、現状で導入と維持管理ではどちらがより多くの費用がかかっているのだろうか。まとまった出費という点で、どうしても導入時のコストが大きいように感じてしまうが、実際には維持管理の費用のほうがかなり多いのである。システム開発を行った時間よりも、運用している時間のほうが長いということもあるだろうし、後から発生する仕様変更にかかる費用も維持管理コストになるからということもあるだろう。運用管理に関するコストは、ボディブローのようにじわじわ効いてくるのだ。

よく引き合いに出される図だが、開発費と維持管理コストの理想の配分費が45対55であるのに対し、現状では3対7とかなりの割合を運用コストが占めてしまっている。企業活動から考えれば、運用コストは新たな利益を生み出さないため、新たな利益に結びつく新規開発により費用をかけたいところだ(Microsoft Tech・ED 2005 Yokohamaのセッションから)

 このシステムの維持管理、言い換えれば運用に関するコストは、ほとんどが人件費だそうだ。ある調査では、システムの運用コストの60%が人件費という結果もある。この理由の1つが、システム運用が人手、つまり手動で行われているということにある。実際の運用では、なるべく自動化できるようにツールを使用したり、スクリプトを書いたりしているが、それでもその割合は半分に満たない。

 さらに、システムの複雑度はますます増加してきている。分散システムを構築するケースが増えているからだ。もちろん、分散システムにすることで、安価なPCサーバを利用する、各拠点にサーバが配置されパフォーマンスがあがる、冗長化することで信頼性が向上するなどの利点があるからだ。しかし、システムが複雑化することには違いがなく、運用コストを押し上げてしまう結果となった。

 また、分散システム特有の問題もある。分散システムはITインフラで相互に接続されるシステム構成となるが、一般に、設計開発の人間はITインフラに疎く、設計段階では運用時の問題点がわからず、運用側から見てあるべき姿になっていないということもある。例えば運用ポリシーの適用などについて、設計者が理解できないままシステム開発を行い、最適なつくりになっていないなどだ。またこの逆に、運用側がシステムの設計が理解できないため効率よく運用できなかったりということもある。

 近年のビジネスの変化の速さも、DSIを必要とする1つの要因だ。銀行の例を見るように、企業の統廃合は頻繁に行われるようになり、ビジネスがよりダイナミックに変化するようになった。また、個人情報保護法に見るように、法令の改正などによって、企業のシステムが対応を迫られる場面も増えてきた。

 こうしたダイナミックなビジネス環境の変化に対し、迅速に対応できるような柔軟な仕組みが求められているのは言うまでもない。

DSIが目指すもの

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