オフショア市場に異変――多国籍企業との競争にさらされるインド企業

コスト削減というメリットを旗印に成長を遂げてきたインドのオフショア産業。しかし最近になって、IBMやAccentureといった多国籍サービス企業との競争にさらされているという。

» 2005年09月06日 22時33分 公開
[IDG Japan]
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 インドのオフショアアウトソーシング企業が、多国籍サービス企業との競争に直面している。多国籍サービス企業は、価格においても、複数の海外拠点からサービスを提供する能力においても優位に立っている。テキサス州ヒューストンのアウトソースコンサルティング企業Technology Partners International(TPI)が、このような現状分析を明らかにした。

 IBM(ニューヨーク州アーモンク)、Accenture(バーミューダ)、Perot Systems(テキサス州プレイノー)、Unisys(ペンシルベニア州ブルーベル)など数社の多国籍サービス企業が、人件費の安いインドでサービス事業を既に立ち上げている。

 TPIのパートナー、シッダース・パイ氏によると、多国籍サービス企業は従来、純粋なオフショアアウトソーシング契約を避けてきたが、最近では、すべてのサービスを海外拠点から提供する必要がある案件にも入札している。これらの企業の入札額は、インドのライバルの入札額よりも低いことが多いという。

 「多国籍オフショア事業者はインドのアウトソーシング企業から高賃金でスタッフを引き抜いた結果、高コスト体質になっているが、利益率を下げてでも市場シェアを獲得するという方針を選択したようだ」とパイ氏は指摘する。

 TPIのパートナー、ポール・シュミット氏によると、多国籍サービス企業がインドの企業よりも低い価格を提供できるのは、彼らの利益率に関する金融市場の期待値が、インドのアウトソーシング企業の場合よりも遙かに低いからだという。多国籍サービス企業に対して期待されている利益率は15%以下であるのに対し、インドのアウトソーシング企業に対する期待利益率は30%に近い。

 「多国籍企業の海外事業の規模が拡大するのに伴い、クライアント数の増加によるコスト削減効果が生まれる」とパイ氏は話す。

 パイ氏によると、アムステルダムのABN AMRO銀行の180億ユーロのアウトソーシング契約の入札では、数社の多国籍プロバイダーがインドのサービスプロバイダーよりも低い価格で入札したという。

 「この入札ではTPIが同銀行のアドバイザーを務めた。最終的にインドの企業も選ばれたが、理由は価格ではなく、その分野における彼らの能力が高かったからだった」と同氏は付け加える。ABN AMROは先週、IBMおよび2社のインド企業(ムンバイのTata Consultancy ServicesとバンガロールのInfosys Technologies)を含む5社の企業を選んだと発表した。

グローバルなサービスへのニーズ

 TPIは先週、「State of Global Service Delivery」(グローバルサービスの現状)と題された報告書の結論を発表した。報告書の共同作成者であるシュミット氏によると、この調査は完全子会社およびサードパーティー業者へのオフショアリングを対象としたもので、米国、欧州、アジアの212社の企業の回答に基づく。

 シュミット氏によると、クライアント企業が5年以上にわたってオフショアリングの分野で経験と成熟度を高めると、複数地域にオフショアリングするという選択肢を検討し始めるという。これには、コストをさらに下げるという狙いに加え、1つの地域だけにオフショアリングするリスクを軽減するという狙いがある。

 「多国籍サービスプロバイダーが契約を獲得する可能性が高いのは、これらの企業の多くが既にインド、中国、中南米、東欧など多数の海外事業拠点を持っているからだ」とシュミット氏は付け加える。

 シュミット氏によると、インドのアウトソーシング企業はインド国外に事業を拡張してきたが、複数の地域からサービスを提供する単一のベンダーを求める企業は、多国籍サービスプロバイダーを選ぶ可能性が高いという。

 「インドのベンダーはグローバルなサービスを宣伝しているが、彼らの海外拠点での事業規模は不十分だというのが現実だ。また、クライアント側にしても、一般的には多国籍サービスプロバイダーのほうが付き合いやすい」(同氏)

 TPIの報告書の結論の1つは、インドなどの地域にオフショアリングしている多くの企業は、生産性の向上およびコスト削減に関する期待値を下げなければならなかったというもの。シュミット氏によると、多くの企業は当初、海外のワーカーは国内のワーカーよりも生産性が高いだろうという期待を抱いていたという。

 「4年以上のオフショアアウトソーシングの経験がある企業が期待値を下げ、現在では、オフショアワーカー2人で国内ワーカー1人分の仕事をするのを求めていることが調査で分かった」と同氏は話す。

 パイ氏は、オフショアアウトソーシングの低い生産性が意味する重要なポイントとして、生産性の向上を伴わずに人件費が上がった場合、オフショアリングのコストメリットが失われる恐れがあることを挙げている。「米国内でのコスト水準が半分のレベルになるだけで、コスト差による利益が消滅する」と同氏は指摘する。

 「インドなどのオフショア地域における人件費が急上昇するのに伴って生産性が向上しなければ、予想よりもずっと早くオフショアリングのメリットが頭打ちになる可能性がある」(同氏)

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