米OracleによるSiebel買収で起こる変化PeopleSoft、Retekに続いて

米Oracleは米国時間の9月12日、かねてからうわさに上っていたSiebel Systemsの買収に合意したことを発表した。買収額はおよそ58億5000万ドル。(特集:激震するアプリケーション業界)

» 2005年09月13日 00時17分 公開
[怒賀新也,ITmedia]

 速報の通り、米Oracleが米Siebel Systemsを買収することが明らかになった。買収額は1株あたり10.66ドル換算で、合計でおよそ58億5000万ドルとなる。Siebelは顧客数4000社、340万人のユーザーを抱えるCRM分野のトップベンダー。米PeopleSoft、小売業向けパッケージを提供するRetekの買収に続き、Oracleが強硬な買収戦略を継続していることを示すことになった。

 米Oracleのプレスリリースで、「一足飛びに、世界でナンバーワンのCRMアプリケーション企業になった」と話すラリー・エリソンCEO。データベースでのシェアと比較して、アプリケーション分野では独SAPに遅れをとるOracleは、CRM市場で圧倒的な存在感を持つSiebelを買収したことで、Project FusionにSiebel製品を組み入れるだけでなく、分厚い顧客ベースを獲得することになる。

 SiebelはCRMアプリケーションとしての機能の高さでは高い評価があり、それをFusionに組み入れれば製品としての質を上げることができる。同時に、Siebelのユーザー企業をOracleの顧客基盤として取り込むこともできる。PeopleSoft、J.D.Edwards、Retekに続き、また1つ対SAPにおける武器を獲得したことになる。

 一方で、中堅企業を含めた市場へのインパクトを考えると、1つ面白い争いが勃発しそうだ。それは、Oracle対salesforce.comといういわゆる「オンデマンドCRM」市場の競争だ。

 ホスティングによるCRM機能の提供で驚異的なまでにユーザー数を増やすsalesforceを横目に、5月、Siebelも同様に「オンデマンドCRM」のビジネスを開始していた。(関連記事

 Oracleには、アプリケーションより下の層に当たるデータベースでの圧倒的シェアという強い武器があり、その顧客ベースを基に、salesforceが築きつつあった「オンデマンドCRM」市場に殴り込むことが予想される。

 salesforceは、Oracle出身のマーク・ベニオフCEOが1999年設立した企業。自社でホスティングするサーバ上で稼動させるデータベースとして、ユーザーの堅い支持を得るOracle Databaseを採用している点を1つのセールスポイントにしている面もある。

 その意味で、Oracle自身がデータベースにおける圧倒的なユーザー数と技術力をベースに、「オンデマンドCRM」にもし本格参入すれば、salesforceにとっては脅威になると考えられる。ただし、Oracleの参入で、オンデマンドCRM市場全体が拡大すれば、Saleforceにとってもプラスに働くことになる。

 いずれにしても、PeopleSoft、Siebelを買収したOracleには、ある意味での「責任」が課せられるとも言える。PeopleSoft、Siebelともに、北米では日本におけるそれとは比較にならないほどの存在感を持っているベンダーだ。Oracleはその2社を買収し、ゆくゆくはFusionという1つの製品カテゴリーに多数のユーザー企業を当てはめることになる。単純に言えば、Fusionの品質が悪ければ、多数の企業の情報システムが致命傷を負うことになる。

 また、MicrosoftがOS市場を競争の芽すら出ないほど独占したのと同様に、Oracleによる継続的な買収戦略が、ソフトウェアの多様性を薄れさせ、アプリケーション市場全体の活力を削ぎ落とす可能性もある。

 たとえば、サッカーW杯の本大会への出場国がブラジルとドイツの2カ国だけだったらなんとも味気ないが、激震が走るたびに、アプリケーション市場は着々とその方向を目指そうとしているようだ。

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