OpenOfficeの課題、MS Office互換と独自性バランス月刊「OpenOffice.orgコミュニティ通信」――11月号(2/2 ページ)

» 2005年11月14日 15時06分 公開
[可知 豊,ITmedia]
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 “OpenOffice.orgはMicrosoft Officeの100%クローンではありません”。今後もMicrosoft Officeとの互換性は重要な課題のひとつですが、100%の互換性を目標にはしていないことを忘れてはなりません。

 100%の互換性を目指せば、Microsoft Officeで疑問視されているところも真似する必要があるでしょう。しかし、それではMicrosoft Officeより優れたオフィススイートを目指せません。

 また、マイクロソフトが優れているのは、オフィススイートの性能だけでは計り知れません。手厚いユーザーサポート、法人向けサービスを提供する企業も数多くあります。また、そのマーケティング力も見逃せません。ユーザーにとって「互換性の高いソフトウェアを、無償で入手したい」ということは、実は「同じ製品を安く入手したい」という単なる価格比較に過ぎないともいえます。価格競争では、体力のある相手に勝てず、開発体制を維持していくことすらできないでしょう。

 それでは、OpenOffice.orgの本質はどこにあるのでしょう? それは、Louis Suarez-Potts氏が前述のセミナーで語ったように、オープンソースとオープンスタンダードにあります。OpenOffice.orgは、オープンソースソフトウェアです。ソースコードは公開されており、誰でも自由に利用できます。内部構造を調べたり、改良することも許されています。OpenOffice.orgの開発に参加することも可能です。そして、OpenOffice.orgのファイル形式であるOpenDocumentは、オープンスタンダードです。OASISという標準化委員会で標準化され、その仕様を誰でも実装できます、OpenOffice.orgは、参照実装の一つに過ぎません。

 この2つの特徴のおかげで、特定のベンダーに囲い込まれることなく、オフィススイートを活用できます。これは、オフィススイートを使用する企業だけでなく、官公庁や、オフィススイートで作成されたデータを利用したいソフトウェア企業にとっても、大きな利益に結びつきます。

 このような方法では、Microsoft Officeとの互換性を高めた場合と比較して、一気にシェアをひっくり返すというような効果は期待できないでしょう。しかし、オープンソースとオープンスタンダードという利点を活かして、一定のシェアを獲得し、強固な足場を築くことのほうが、OpenOffice.orgにとっては重要だと思います。

OpenOffice.orgのプロを目指す

 バージョン2.0の正式リリースで、OpenOffice.orgは本格的な普及期に移行すると思います。そのためには、OpenOffice.orgを支える多くの人々や企業/団体の連携が欠かせません。

 これまで、OpenOffice.orgプロジェクトやOpenOffice.org日本ユーザー会は、このような連携のための交流の場という役割を担ってきました。特に、OpenOffice.org日本ユーザー会の活動は、個人が中心となって主に趣味や余暇の範囲でいくつかの成果を上げてきました。掲示板を使用してユーザー同士のサポートを行い、また、多くのFAQを集約してきました。ドキュメントの作成と翻訳、オフィシャル版に反映されづらい不具合や、機能要望を取り込んだ独自ビルド版の開発なども行ってきました。

 また、日本におけるOpenOffice.orgのプロモーションでは、中心的な役割を果たしてきました。個人でできることを全うする。これは今後も重要です。できることもまだまだあります。

 そうとはいえ、日本におけるこのような活動は、多くの課題を持っているといえます。例えば、OpenOffice.orgやOpeDocumentについて、十分に理解しているエンジニアはそれほど多くありません。開発プロジェクトへのフィードバックも十分ではないでしょう。前述のように、これまでは、個人の趣味や余暇の範囲で何とかやってきましたが、それでは対応できない部分も出てきました。今後は、サンやグッデイといった企業が前面に出てくる場も増えるでしょう。OpenDocumentについて、ジャストシステムが、前面に出てくることもあるかもしれません。

 しかし、個人の役割は無くなりません。やるべきことはたくさんあります。結局、手を動かすのは人間だからです。趣味や余暇の範囲で対応できないなら、多くの人にOpenOffice.orgのプロになって、OpenOffice.orgで喰っていって欲しいと思います。企業の中でも、OpenOffice.orgに関わる人をこれから育てていくことになるでしょう。そこには、多くのチャンスと可能性があるはずです。私自身もそのチャンスを狙っています。

ビジネスをコミュニティーとともに

 OpenOffice.orgビジネスを進める企業には、ぜひコミュニティーといっしょにビジネスを進めてほしいと思います。オープンソースソフトウェアを利用したビジネスでは、それが低コストのオペレーションにつながります。ここでは、法人ユーザー向けのユーザーサポートサービスを例に考えてみましょう。

 OpenOffice.orgを企業に導入するには、ヘルプディスクやユーザー教育といったサービスが必要です。これらのサービスの元になる情報は、従来のMicrosoft Office向けのサービスでは、各企業が独自に(重複して)情報を集めていました。OpenOffice.orgの場合、簡単な問い合わせであれば、日本ユーザー会の掲示板やFAQで無償で解決できます。ユーザーサポート企業は、それを各社と共有することで低コストでサポート情報を維持できるのです。

 そうとはいえ、無償で利用できるからといって、何もしなくて良いということではありません。ぜひとも、コミュニティーの活動に企業からも参加してください。掲示板で質問に答えたり、FAQをメンテナンスする作業をできる範囲で構わないのです。コミュニティーでは、人的リソースが常に不足しているといえます。コミュニティーのサポートの品質を高めることが、それを利用する企業のサービスの品質に直結するはずです。

 もしかすると、日本ユーザー会では役不足と感じることもあるかもしれません。その時には、OpenOffice.orgについて高度な技術支援を提供する企業を利用してください。このようなサービスを提供するグッデイには、OpenOffice.orgの日本語版の開発で活躍する秋山隆道氏(通称:toraさん)が所属しています。

ビジネスの充実をコミュニティーの充実につなげる

 すでに、私の周辺にも、いくつかの企業からの問い合わせが寄せられています。新バージョンの反応も上々です。ゆっくりとではありますが、OpenOffice.orgが世の中を変えていくはずです。

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