“感情”を獲得したヒューマノイドが見る夢――「WE-4RII」の過去と未来コンテンツ時代の未来予想図(2/5 ページ)

» 2005年11月28日 17時00分 公開
[中村文雄,ITmedia]

キーワードは「固視微動」と「前庭動眼反射」

 高西教授が「感情」というテーマに取り組んだ経緯を紹介しよう。

 感情に関する研究は、実は高西教授にとって助手時代からの課題であった。世界で初めて2足歩行ロボットの開発に成功した、恩師の加藤一郎教授が、「君は首から上をやりなさい。特に感情については誰も手掛けていないから、ぜひ研究を進めてほしい」と当時、助手だった高西教授にアドバイスした。

 高西教授は、「感情の研究は難しいと思った。感情をどのように測定して、いかにして具体化するか、当時は分からなかった」と振り返る。

 そのころ、そしゃくロボットの研究をしていた高西教授は、歯科医から「噛み合わせを治療すると精神状態が改善することがある」というエピソードを聞いて、そしゃく運動と精神が密接に関連していることを知り、感情について問題意識を持つことになる。ある日、高西教授は生理学者から「固視微動」という不随意性の運動の話を聞いて、大変興味をそそられた。

 固視微動とは、モノを見るときの眼球の微小な運動。モノを見るために眼球は常に微小に震えており、例えば、麻酔によって固視微動が止まるとモノが見えなくなる。固視微動にも種類があるが、高西教授は、視細胞一つ程度という非常に微小な固視微動に注目した。CCDカメラでの研究を進めた結果、固視微動の原理を用いることで、CCDの画像素子サイズにかかわらず、分解能を向上させられることを発見した。つまり、微妙に視点をずらし続けながら、光の変化を細かくとらえられれば、解像度を際限なく向上できることを発見したのだ。

 固視微動の研究によって興味深い発見をした高西教授は、生理学にヒントを得てさらに研究を進める。それが前述した「前庭動眼反射」。人間は、見ているモノがぶれないように、頭の動きに対応して眼球が反対方向に動く。この機能がないと人間はモノをはっきりと見続けられない。デスクのカレンダーを見つめながら頭を動かしても、カレンダーの数字を読めるのは前庭動眼反射のおかげだ。

 この前庭動眼反射の機能をロボットに搭載してみたところ、不思議なことが起きた。学生が棒の先につけた電球を振って、ロボットの反応を見て遊んでいるのだ。ロボットが人間のように頭と目を動かしながら、電球を追う姿が面白いので、学生は夢中になっていたのだ。

 「前庭動眼反射の機能を持つロボットの動きを見て、まるで生き物のように感じたわけです。この延長線上に、ロボットの機能を人間的な感覚で評価するという問題領域が存在すると思った」(高西教授)

早稲田大学理工学部の高西淳夫教授。日本のロボット研究の第一人者。今回紹介したロボット以外にも、2足ヒューマノイドロボット、汎用2足ロコモータ、人間形フルート演奏ロボット、人間形発話ロボットなどバラエティに富んだ、数多くのロボットを開発している(写真:塩澤 秀樹)

 その後、学生たちは、目が一つだったロボットに両眼を装備する。それによりステレオ視が可能になり、前後の頭の動きが加わった。次には眉毛、次はほおの色と学生たちはロボットに機能をプラスしていく。学生たちにとっては、ロボットが人間らしくなっていく様子が面白くてしょうがなかった。ロボットには感情に関する機能は入っていないが、まるで感情を持っているように振る舞う。それを見た高西教授は、“感情”をロボットに搭載することを決意した。

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