あなたがロボットと暮らす日――ロボット界のニューフェースたちコンテンツ時代の未来予想図(2/5 ページ)

» 2005年12月06日 09時31分 公開
[早川みどり,ITmedia]

日本の二足歩行ロボットの最高峰「QRIO」

 「宇宙生命、8歳の子ども」これがQRIOの設定だ。以前、ソニーは「SDRシリーズ」として二足歩行ロボットを開発、発表していたが、2003年9月にこれを「QRIO」と改名した。QRIOの語源は「Quest for Curiosity」、つまり「好奇心の追求」である。

QRIO 挨拶するQRIO。身長58センチと小柄で、ちょうど人間の子どものようだ

 QRIOには、「運動制御」「思考制御」「音声認識制御」にそれぞれ1基ずつ64ビットRISCプロセッサが割り当てられているほか、モーター、ギア、制御コンピュータが統合された独自開発の関節駆動アクチュエーター「ISA」が、関節の動作を制御している。

 また、胴体に3軸の加速度センサーと角速度センサー、足底には8つの力センサーと2軸の加速度センサーなどを搭載し、現在自分が置かれている状況をリアルタイムに把握できる。

 こうした機構が、前方後方を問わず安全に転倒でき、自力で起き上がるという力学的には非常に難しい制御を可能にしている。体のバランスが崩れたことをセンサーで察知し、転倒する方向が前なのか後ろなのか横なのかを判断し、その方向に適した受け身姿勢を取り、同時に関節を柔らかく制御して衝撃を和らげるという判断をわずか0.2秒で瞬時に行うのだ。

この姿勢から自分で立ち上がることができる

 「走る」という動作も実現している。ヒューマノイドの歩き方には動歩行と静歩行の2種類が存在する。静歩行は重心を安定させた状態で移動するもので、一昔前のロボットだと、この静歩行を用いて「歩いて」いた。しかし、静歩行では、重心を安定させるため速度を上げることはできないという問題があった。

 「走る」という動作は動歩行の実現であるといえる。前に出した足が地面に着かないうちに、体重を前に移動させる動歩行は、言い換えれば前に倒れながら歩いているわけであり、そのバランスは非常に悪くなる。人間が当然のように行うこの動作には非常に高度な歩行制御が求められるが、QRIOではZMP(ゼロモーメントポイント)規範に基づく制御方式を用いるなどして動歩行を実現しており、スローで見ると両足が地面から離れている瞬間もあるという。

 もちろん、走り続けるといった動作は、センサーやISAに相当の負担が掛かることは想像に難くない。QRIOのサイズであればともかく、人間と同サイズのロボットでこうした動作を実現するには、人工筋肉など新たな要素技術が求められるだろう。

 さらに、ロボットとは思えない高度な動作のダンスを踊ったり、ボールを蹴る、投げるといった動作も可能だ。これらの動作をほぼ完璧にこなすQRIOは、まさに日本が世界に誇る高性能人型ロボットといえるだろう。

ボールを蹴るQRIO。片足で全身のバランスを取るという高度な自律能力を備える

 QRIOもwakamaru同様、安全性には重きを置いている。QRIOでは安全対策として、関節のデザインが手や指を巻き込みにくく設計されている。挟み込みが起こりやすい脇の下や肘、膝や足首などのあらゆる関節に、挟み込み検出センサーを装備。人間の手があるとセンサーが検出し、動きを止めることで挟み込み事故の発生を予防している。

 人とともに暮らすロボットを目指して、ソニーが取り組んできた研究の成果がQRIOなのだ。現在、世界の二足歩行人型ロボットの中で、QRIOは総合的に高い能力を持つといえる。しかし、残念なことにソニーは、ロボット開発の縮小を発表している。とはいえ、ペット型ロボット「AIBO」と、人型ロボットQRIOの要素開発は今後も続けるという。さらに進化したQRIOが登場することを期待したい。

資料提供:ソニー

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