インターネットの「事実」は信じるに足るか――Wikipediaの偽投稿事件は、ネット情報がいかに容易に汚染されてしまうかを示している。
あるジャーナリストがケネディ暗殺に関与し、ソビエト連邦に13年間住んでいたとWikipediaに偽の投稿をした男性をめぐる騒動は、わたしが言うところの「オープンソース」コンテンツに対する強力な告発状だ。
ちまたでは「皆が報道に貢献すれば、ニュースメディアはもっと良くなる」という愚かな考え方が広まっている。ブログやポッドキャスティングがその例で、読者の手による電子「新聞」も登場してきている。もっと分別があるはずの人たちでも、これをニュースと情報の流れの民主化だと考えている。
そうかもしれないが、そのようなやり方では品質管理が非常に難しくなる。多くの協力者がいても結局はうまくいくかいかないかどちらかのオープンソースアプリケーションとは違って、Wikipediaのエントリは真偽の特定が難しいことがある。例えエントリが完全に嘘というわけではなくても――今回の、有名ジャーナリスト、ジョン・セイジェンサラー氏が中傷されたケースのように――誰かの主張を通すために簡単にエントリを改変できてしまう。
チェック&バランスがなく、読者がプロパガンダと信頼できる情報源を区別する手段がほとんどない場合、偽の情報が簡単に配信されてしまう。皆さんがCNN、New York Times、Fox、CBSなどのメディアを好きでも嫌いでも、少なくともこれら機関の実績はご存じだろう。
これらの機関はそれぞれ、ファクトとフィクションを区別するための編集プロセスを持ち、このプロセスはたいてい適切に機能している。また、彼らは「真実」を提示すると――真実のあり方に関して多少の意見の違いはあるかもしれないが――約束している。インターネットにはそのようなプロセス、約束、実績がない。
Wikipediaに「冗談で」問題の投稿をしたと認めたブライアン・チェイス氏は、自身が巻き起こした騒ぎの中で職を失った。人並み以上に寛大なセイジェンサラー氏は、チェイス氏の雇用主に同氏を再雇用するよう頼んだ。また訴訟を起こして当然なのに、チェイス氏を訴えないとも明言した。
またセイジェンサラー氏は、「世界最大の百科事典」を称するWikipediaで偽のエントリを見つけたときに、インターネットプライバシーのためにチェイス氏を突き止めることが難しかったとの不満を訴えている。
数千人のボランティアが執筆しているWikipediaは、一部に編集がほとんど不可能なところがある。チェイス氏のエントリに書かれているセイジェンサラー氏が実在するかどうか、莫大な調査作業なしで、どうしてボランティアの編集者に分かるだろうか?
わたしはこの新しいオンライン「市民ジャーナリズム」が、真実よりも虚偽の源になるのではないかと懸念してきた。この懸念は実際にはインターネットのほとんどに及ぶ。好き嫌いはともかく、大手メディア企業は少なくともある程度の説明責任を提供している。インターネットには、Wikipediaにもジャーナリズムを標榜する数千(数万? 数十万?)のWebサイトにも、このような説明責任がない。
スパム、フィッシング詐欺犯、ウイルス、rootkit、その他のマルウェアがインターネットをセキュリティの悪夢に変えたのと同じように、ブライアン・チェイス氏のような情報の破壊者がインターネットを情報の悪夢に変えるのではないかとわたしは考えている。
チェイス氏を初期のハッカー――悪事を働くためでなく、単に可能なことを証明するために何かをする――の1人と考えてみよう。その2〜3年後には、楽しむためでなく、利益のために意図的に偽の情報をばらまく連中がチェイス氏に取って代わっているだろう。事実、既に取って代わられている。
金融市場は以前から、インターネット上で意図的にばらまかれる偽の情報の影響を受けている。わたしが記憶している限りでは、1人の若者がそうした事件で投獄された。毎日「絶対大もうけできるから」と聞いたこともない会社の株を買うよう勧める「ニュースアラート」を何十通も送ってくるスパマーたちも、同じ目に遭ってほしいものだ。どういうわけか、もうからない話は絶対に書かれていない。
ブライアン・チェイス氏は、Wikipediaで見られるようなインターネットの「事実」が、いかに容易にうそに汚染されてしまうかを示すことで、わたしたちのためになることをしてくれた。わたしたちは知らない人からの電子メールを開かないという防御策を身につけつつあるが、それと同じように、知らない人が発するニュースや情報を無視することも学ぶ必要があるだろう。
ブライアン・チェイス氏の事件の後では、大手メディアもそう悪くないように思える。
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