Web 2.0をリードするGoogleの地味なクリスマスパーティー

メディア関係者らを招いて開催されたGoogle本社でのクリスマスパーティー。さぞかしにぎやかな催しになると予想して出掛けたのだが……。(IDG)

» 2005年12月22日 17時55分 公開
[IDG Japan]
IDG

 一気に頂点に上り詰めた感のあるGoogleは、ドットコムブーム最後のサクセスストーリーの1つと見られることが多いようだ。しかしメディア関係者を招いて開催されたクリスマスパーティーが何らかの指標になるとすれば、同社の雰囲気はドットコムブームの立て役者を想起させるというよりは、数学オタクが集まったカフェテリアのような感じに近いようだ。

 カリフォルニア州マウンテンビューにあるGoogle本社で開催された今回のイベントについては、あまり前宣伝も行われなかった。招かれたのはサンフランシスコ湾岸地域のメディア関係者で、Google側からはエリック・シュミット会長のほか、共同創業者で共同社長のラリー・ペイジ氏とサーゲイ・ブリン氏が出席した。

 記者たちは広報担当のスタッフにエスコートされ、薄暗い照明でともされた部屋に案内された。そこでは、ミュージシャンの一団が落ち着いたジャズ曲を静かに演奏していた。オープンバーとオードブルのテーブルが用意されており、魅力的で愛想の良いウェイトレスが飲み物をトレイに載せて配り歩いていた。

 Googleの幹部たちは、記者の輪の中に入って懇談した。彼らを取り囲む記者たちは、まるで獲物を狙うハゲワシのように、質問のチャンスをうかがっていた(ただし、このイベントは一応「オフレコ」という建前だった)。

 3人の幹部は心のこもった態度で記者たちに接し、質問に対して丁寧かつ(その場の状況において可能なかぎり)率直に答えるとともに、すべての参加者に同じだけの時間を割くようにするという、心配りの行き届いたホストぶりも見せた。

 Googleの3人の最高幹部の中で最もよく顔を知られていたのがシュミット氏だった。1997年から2001年までNovellのCEOを務めた経験のある同氏は、業界で広く知られている人物なのである。

 トラックスーツとスニーカーという出で立ちのブリン氏は最初、その素性を気づかれることなく会場内をうろついていたが、そのうちだれかが、彼は配膳スタッフではないことに気づき、同氏の正体に関する情報は伝言ゲームのように記者から記者へと伝えられた。

 ペイジ氏もひっそりと会場に姿を現したが、ブリン氏よりも早く特定され、記者たちに取り囲まれた。おそらくブリン氏の場合、会場内で最もスタイリッシュに決めたオタクの服装をしていたので、素性がばれにくかったのだろう。

 しかしこういった大物たちの存在にもかかわらず(あるいはその存在ゆえにかもしれないが)、特別なことは何も起きなかった。言い換えれば、シリコンバレーのIT企業が主催する典型的なプレスイベントのような感じだったのだ。こういったイベントがよく開催されるサンフランシスコ中心街で今回のパーティが開かれたのであれば、もう少し派手なものになっていたのではないかと思われた。

 しかしGoogleは典型的なITベンダーではない。The Street.comによると、同社は「全世界で最も成長著しく、最も魅力的な企業」なのである。同社は文句なしに「Web 2.0」のリーダーであり、株価は400ドルを超えている。社名そのものが動詞になっている(訳注:日本語でも「ググる」などと言う)唯一のIT企業でもある。

 こういった理由から、Googleの幹部らは時節柄、もう少し羽目を外すのではないか(例えば、ランジェリーメーカーのVictoria's Secretのカタログの愛読者であると告白するなど)と筆者は期待していたのだった。また、世界で最もヒップでホットなIT企業を動かしているのは何なのか、という疑問を解明するヒントが得られるのではないかという期待もあった。

 残念ながら、Googleのパーティは地味だった。羽目を外した人もいなければ、酔っぱらってブリン氏に絡んだ人もいなかった。「以前はNovellに在籍していたくせに、これほど大きな成功を収める企業を見つけたのはどういうわけか」といった失礼な質問をシュミット氏に浴びせた人もいなかった。傷ついた人もいなければ、腹を立てた人もいなかった。壊れた物もなく、だれもが連れだって来た人と一緒に帰って行った。

 Googleはドットコムブームがはじけた後に成長した企業であるため、世界を変革する技術やビジネスプランといったものに、同社が本当に関心を持っているというのも驚くことではない。これは、多くのドットコム企業を特徴づけた(そして後に彼らを破綻に導くことになった)傲慢な姿勢とは大違いである。

 とはいえ、ドットコム時代をほうふつとさせる贅沢な演出も悪くはなかった。Googleのロゴをかたどった氷の彫刻にはエビやカニの足で飾り付けが施され、氷のしずくが壁に沿ってしたたり落ちていた。ドリンク類は、Googleの文字が埋め込まれたプラスチック製の「アイス」キューブで彩られ、これらのアイスキューブがカクテルグラスにカチッと当たると発光する仕掛けになっていた。

 パーティ会場につながる廊下には、従業員用に無料のスナック菓子が入ったプラスチック容器が並んでいた。そしてその横には、何台かのモーター付きスクーター(Segway Human Transporterもあった)が集められており、Googleの社員が疲れたときにはいつでも乗れるようにしてあった。

 筆者がその日の夕方、くすねたスナック菓子でバッグをいっぱいにしてGoogleのキャンパスを出るとき、ちょっと残念な気持ちになった。これほど有名な企業だから、さぞかし大盤振る舞いがあるだろうと期待していたのに、すっかり当てが外れたからだ。

 しかしもっと残念だったのは、その夜、Googleの謎を解き明かせないままマウンテンビューを去らねばならなかったことだ。筆者がパーティ会場に到着したときと比べても、同社の神秘の核心に一歩も近づいてはいなかったのだ。

 しかし今回は、無料のGummy Bears(お菓子の一種)をポケットいっぱいに詰め込んだこと、そしてこれからも長い間、Googleが存在し、筆者を悩ませ続けるという確信が持てたことで満足しなければならないのかもしれない。いつも来年があるのだから……。

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