「日本政府はさっさとオープンソース振興から手を引いてしまえ」――VA Linux佐渡氏GPLv3、オープンソース振興について聞く(2/2 ページ)

» 2006年02月08日 15時19分 公開
[聞き手:西尾泰三,ITmedia]
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ITmedia 国策とも言われることはありますが、政府レベルでのオープンソース振興に疑問でも?

佐渡 正直、日本政府はさっさとオープンソース振興から手を引いてしまえ、と思います。

ITmedia 波紋を広げそうな発言ですね。今まで経済産業省のスタンスを誉めていたと思うのですが?

佐渡 経済産業省のオープンソースに対する考え方は良いと思います。ただ、もうそろそろやり方を変えないと駄目だろうと思うのです。

 行政には規制行政と振興行政があると言われますが、オープンソース産業の振興行政と言っても、国にできることははっきり言ってほとんどないわけです。できることと言えば、補助金や融資制度、税制優遇などの措置のほか、普及啓蒙活動ぐらいかと思いますが、この程度のものであれば、もうあえて10億円程度の予算をかけてしなければいけないものはないと思います。もっとも、もっと大きな予算が付くならば、クローズドで多大な開発費を掛けたソフトウェアをオープンソース化する場合に補助金を出す、などのようなアイデアも悪くないと思います。

 オープンソースはもうITのあらゆる局面で外せない選択肢となっていると私は考えていますし、そうであれば無理に旗を振る必要もないでしょう。

ITmedia 国の振興策が追い風になるのは別に悪いことではないと思いますが。

佐渡 確かに短期的な局面ではそうですね。ですが、既に毎年10億円以上の予算を持った国のオープンソース関連事業が開始されて丸3年経ちますが、その予算を執行する立場にあるIPAがそれだけの価値を生み出しているかどうかには疑問です。

ITmedia それはどういった疑問でしょう?

佐渡 かなり細かい話ばかりですし、個々の案件の現場担当者への非難と取られたくないので、詳細を述べるのは避けますが、少なくとも「基盤整備」「情報集約と発信」「普及促進」というIPAが掲げる施策の3本柱のうち、基盤整備事業は必要ありません。これ以上続けると、かえって民間の足腰を弱らせることにつながります。既に民間でできていることをわざわざ国がやってそれに依存してしまう状態になれば、そもそも経済産業省が考えていたオープンソース普及によるソフトウェア産業の競争力強化には逆効果でしょう。いつの日にか、お抱え業者というものが出現する可能性すらあります。

 私はオープンソース産業で重要なのは「技術力の蓄積」だと思います。IBMもRed Hatもそれを決して怠りません。彼らが米国の企業なので負けるのではなく、技術を軽視するから負けるのであり、これをアジア連携や国策的なイメージで囲い込んでもオープンソースである以上は意味はありません。

 VAリナックスは非常に小さな企業ですが、技術力の蓄積で負けるつもりはありません。もちろん量的には巨大カンパニーに負けますが、われわれが得意とする分野では世界でも負けるつもりはないです。

 もっと大きな企業がオープンソースで技術力の蓄積に努めれば、IBMやRed Hatにも並ぶことは難しくないでしょう。それは国に支援してもらうものではありません。ビジネス戦略としてどう判断するかの問題です。

ITmedia では、やはり国は一切オープンソースから手を引けと?

佐渡 いえ、それはまったく違います。私は「オープンソース」ではなく「オープンソース振興」と言っていますし、行政には規制行政と振興行政があることもお話ししました。

 今までは、とりあえずオープンソースというキーワードを盛り立てていくという一点に大きな意味があり、それに多くの資金が投入されたことは無駄ではありません。ただ、そのキーワードが浸透してきた現在においては、振興行政ではなく、むしろ規制行政という部分を真剣に考える必要があると言っているのです。

 規制と言うと言葉が悪いですが、要はその産業において問題の発生する事項について、問題発生を抑えるために一定の制約、ルールを作り、環境整備を行うということです。オープンソースという世界においてライセンス以上の制約を作り出そうとするのは筋が悪い考えだと思いますが、そのライセンスを遵守する土壌を生み出す仕組みを作るのは可能でしょう。GPLにしてもGPL違反が発覚するのケースは後を絶ちませんが、結局それらは個人のブログや2ちゃんねる、スラッシュドットなどで祭りになって企業が対処するというパターンでしか律することができません。もちろんライセンスは当事者間の問題ですが、もっとライセンスの法的問題への対応を行う環境を整備する必要があるでしょう。

 このような法的問題への対応環境整備は消費者にもサービス提供側にも安心を与えることになり、ひいてはオープンソース振興につながると思います。

 GPLv3に話を戻せば、現状のドラフトではGPLv3は契約ではないと明確にされているようです。日本ではそもそもソフトウェアライセンスが契約かどうかすらよく分かりませんが、その議論を日本でも深める必要はあるでしょう。その意味で今回のGPLv3 Conferenceに日本の政府関係者や法曹界の人間が一切参加していないのは残念に思います。とはいえ、日本からは2名参加ですので、アジアの中ではまだ多いほうなのですが。

ITmedia ライセンス問題以外に規制というキーワードでは何かありますか?

佐渡 ソフトウェアの業界はほかの業種と比較して消費者に冷たいと思います。バスワードで踊らされて購入してみれば期待していたレベルのものでないことも珍しくありません。特にオープンソース業界は参入障壁が異常に低いので、品質が消費者に分かる指標や仕組みのようなものがあってもよいのではないかと思うことはあります。しかし、私は、オープンソースならば上流の開発にかかわり、コードそのもので技術を証明するのがスジだと思ってますので、国レベルでの方策は難しいですね。

 ただ、自社に技術力がないことを分かっていながら、サービスを売り歩く企業がオープンソース界隈では特に目立つようになったことに危機感は感じています。開発者がいない企業のサービスをそれを知らずに買うことで損害を受けるというのは当事者間の話ですが、これでは、顧客にとっても、また将来的には企業側にとってもメリットがありません。これに対してはサービス提供側の倫理意識を高めることと同時に顧客にも価値を見極める目を持ってもらうというぐらいしかないかなとは思ってます。

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