新興市場攻略に向けたMicrosoftの苦悩(1/5 ページ)

新興市場は巨大な人口を抱え、力強い経済成長を続けている。Microsoftがこの市場を攻略するには、価格、マーケティング、販売チャネルに加え、製品などもそれぞれの国の実情に適合させる必要がある。

» 2006年03月10日 07時00分 公開
[Paul DeGroot,Directions on Microsoft]
Directions on Microsoft 日本語版

 新興市場はMicrosoftの成長戦略に重要な役割を担っている。だが先進国市場と比較すれば、ほとんどの新興経済の規模は非常に小さい。そのため急成長しているとはいえ、Microsoftの収益に大きく貢献することは、短期的には期待できない。しかしそれより重要なことは、現在の世界市場におけるWindowsの圧倒的な存在感に比べ、他の主力製品、すなわちOfficeやサーバソフトに、それほど強い市場支配力がなく、安価な他社製品との厳しい競合にさらされている点だ。Microsoftが新興市場での足場を固めるためには現行戦略を練り直し、製品ラインと価格体系を大幅に変更する必要がある。

新興市場の定義

 新興市場の定義はさまざまだが、一般的には国民1人当たりの所得が低-中レベルで、資本市場と経済が発展段階にあり、政情の安定している国が該当する。Morgan Stanley Capital Internationalでは、新興市場として25カ国ほどリストアップしている。ブラジル、ロシア、インド、中国のいわゆるBRIC4カ国は特に興味深い市場だ。人口が多く、経済が急成長し、地政学的にも国際政治においても重要な地位を占めている。

新興市場
 新興市場はさまざまな条件で定義されるが、Morgan Stanley Capital Internationalの定義によると、つぎのような国々が該当する。いずれの国も、ほとんどの統計で新興市場に数えられている。
アルゼンチン、ブラジル、チリ、中国、コロンビア、チェコ、エジプト、ハンガリー、インド、インドネシア、イスラエル、ヨルダン、韓国、マレーシア、メキシコ、モロッコ、パキスタン、ペルー、フィリピン、ポーランド、ロシア、南アフリカ、台湾、タイ、トルコ、ベネズエラ


 新興市場に関するMicrosoftの分類方法は、ITの普及度、経済規模、インターネット接続率、言語などをベースとしている。同社は現在全世界に55の子会社を置き、130の国・地域で自社製品を販売しているが、特にBRICとその他の約30カ国について高い成長性と戦略的な重要性があるとして注目している。

 先進諸国のIT市場は既に成熟し、収益性の向上もほぼ経済全体の成長と連動しつつある。そのためMicrosoftや競合各社は、いままさに経済成長の急カーブを駆け上りつつある新興市場を最も可能性のある収益機会と見ている。世界銀行によると、先進国グループの2004年のGDP増加率は3.1パーセントにとどまったが、発展途上国全体のGDPは6.6パーセント増加したという。こうした力強い増加率は2007年までに漸減する見込みだが、それでも発展途上国の経済成長は先進国の2倍のテンポで推移する。

IT分野の成長

 新興経済の中でも、今後急拡大が見込まれるITなど、特定の産業分野に注目が集まっている。例えば、米国PC市場は既に飽和状態(PCの世帯普及率は75パーセント)に近づきつつあるが、BRICの中で最もPC普及率の高いロシアでさえ、いまだ12.5パーセントほどだ。最も低いインドに至っては、PCの導入台数が総人口比の1パーセントに過ぎない(いずれも2004年の統計)。しかし両国のPCインストールベースは、2010年までに少なくとも4倍以上になるだろうと予測されている。

 Microsoftのビジネスが新興市場から利益を得ることは、短期的には難しい。全世界のIT支出のうち、ソフトウェアが占める比率は5パーセント程度だ(市場の大部分は外部サービスと電気通信が占める)。また先進国市場より急速に成長しているとはいえ、新興市場の規模はいずれも小さい。ガートナー・グループの予測によると、アジア太平洋地域(日本を除く)におけるソフトウェア支出は、2006年から2009年にかけて35パーセント増加するが、それでも全体で20億ドルほど、総額で69億ドルから92億ドルに拡大するに過ぎない。対照的に、北米市場の同時期の伸び率は20パーセントほどだが、市場規模は2009年までに600億ドルに達する見通しだ。

 もっともMicrosoftは、こうした数字を別の角度から捉えている。Windowsクライアント部門副社長のWill Poole氏によると、新興市場では2005年から2008年にかけて約4億人が初めてのPCを購入するという。それらのPCすべてに平均単価50ドルのWindowsが搭載されるとすれば、Microsoftは今後3年間で200億ドルの収入が期待できる。ターゲットにすべき価値の十分にある市場といえるだろう。もちろん増収のチャンスはその3年間にとどまらない。今日、Windowsを利用するユーザーは世界の全人口のわずか10パーセントほどだ。収益拡大の余地は、まだ十分に残っている。

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