SAPとMicrosoftの今――協調と競争のリスクを追う(1/5 ページ)

Microsoft製品とSAP製品は連携が強化されているが、主要事業以外の分野では、両社は直接競合している。製品、ツール、技術の現状は、顧客やパートナーにとって整理しにくいものになっている。

» 2006年03月15日 07時00分 公開
[Chris Alliegro,Directions on Microsoft]
Directions on Microsoft 日本語版

 世界有数のソフトメーカーであるMicrosoftとSAPは、2004年5月の計画発表以来、両社製品間の連携の深さと幅を着実に広げてきた。こうした協業は、両社の主要事業(ほぼ相補的な関係にある)にとってお互いにメリットがあり、従来は企業のバックオフィス部門で利用されてきたSAPシステムのデータや機能へのアクセスを幅広い顧客に提供するのに役立つほか、SAPベースのカスタム開発プロジェクトの効率化にもつながりそうだ。しかし、主要事業以外の分野では、両社の取り組みはかなり重複しており、製品、ツール、技術の現状は、顧客とパートナーにとって整理しにくいものになっている。

なぜ連携が重要なのか

 MicrosoftとSAPは長年にわたり、ほぼお互いにメリットのある関係を維持してきた。両社それぞれの主力製品ラインは補完し合っている。Microsoftの売上高ではOSとデスクトップ生産性ソフトの占める割合が最も大きい。一方のSAPは世界最大のビジネス管理アプリケーションベンダーだ。SAPは2005年にR/3およびmySAP(R/3の後継製品)ERPソフト、mySAP Customer Relationship Management(CRM)などの製品の販売とサポートで109億ドルを売り上げている。実際、Microsoft自身がSAPの大口顧客であり、同社の業務の多くはSAPのR/3 ERP製品で管理されている。

 しかし、他の分野では両社は競合している。いずれも自社の主力製品をサポートするツールや製品(開発者向けツールなど)を開発、提供しており、多くの場合、両社のこうしたツールと製品は重複している。また、MicrosoftとSAPは中小企業向けビジネスアプリケーション市場でも競合している。SAPの比較的新しい製品とMicrosoft Business Solutions(MBS)部門の製品は、ターゲットとしている顧客層が同じだ。

 とはいえ、SAPとMicrosoftはお互いにとって最も重要なISVだ。Microsoftによると、これまでに導入されたSAPシステムのうちWindows上で動作するものの割合は、他のプラットフォーム上で動作するものの割合の合計を上回っており、こうしたWindowsベースのSAPシステムの多くは、MicrosoftのSQL Serverをバックエンドデータストレージとして使用している。両社は製品間の連携を強化することで、共通のパートナーや顧客企業を次のような幾つかの方法で支援することを目指している。

  • 幅広いユーザーがOutlookなどMicrosoftの広く普及したアプリケーションやあるいはWebポータルから、SAPシステムのデータや機能にアクセスできるようにする
  • MicrosoftとSAPそれぞれのアプリケーションや技術の間で相互にデータをやり取りするための開発者向けツールを提供する
  • 開発者がSAPシステムを拡張したりカスタムSAPアプリケーションを開発する際のツールや言語の選択肢を広げる

 MicrosoftとSAPが進める協業の強化は、パートナーや企業の開発者、意思決定者にメリットを提供するための取り組みであるだけでなく、共通の敵であるOracleに団結して対抗する動きでもある。SAPの立場から見ると、Microsoftの製品や技術との緊密な連携は、Microsoft技術がITインフラの中心となっている企業向けのビジネスを進める上で、競合するOracleのビジネスアプリケーションに対して優位性を発揮することにつながる可能性がある(Oracleのビジネスアプリケーションには、Oracleが2005年にPeopleSoftやJD Edwardsの買収で獲得した製品などが含まれる)。Microsoftにとっても、SAPの製品や技術との連携の強化は、SAPシステムの運用プラットフォームとして人気のあるWindowsとSQL Serverの評価をさらに高める可能性があるほか、同社が追求してきたエンタープライズ分野での信頼の向上につながる。また、要求の高いビジネスアプリケーションのバックエンドデータストアの分野で、Windows上で動作するSQL Serverを、各種UNIXやLinux上で動作するOracleやIBMのデータベースの有力な代替選択肢として確立するのに役立つ。

連携の多様な側面

 MicrosoftとSAPは共通の利益を認識し、2004年5月、両社の製品間の連携を高める複数年計画を開始した。

SAP用のMicrosoftクライアント

 企業がSAPシステムのデータや機能へのアクセスを幅広い社内ユーザーに提供できるようにするため、MicrosoftとSAPは2つの取り組みを共同で進めている。

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