SAPジャパン社長 ロバート・エンスリン氏
「ITは一国の生産性をも向上させるパワーを持つ」
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2005年8月の就任以来、エネルギッシュに指揮を執るエンスリン氏。ビジネス変革に柔軟に対応する製品群を武器にした同社の成長戦略と日本のERP市場のこれからについて語ってもらった。

» 2006年05月09日 07時00分 公開
[松岡 功,ITmedia]

 SAPジャパンは1992年の設立以来、ERP(業務統合パッケージ)「SAP R/3(現在のmySAP ERP)」日本語版をベースにビジネスを拡大し、日本でもERPトップブランドとして確固たる地位を築いている。現在ではERPだけでなく、SCM(サプライチェーン管理)、CRM(顧客情報管理)の両分野でも市場をリード。2005年度(05年12月期)の実績は売上高が前年度比7%増、そのうちソフト関連が同8%増。06年度は05年度を上回る成長を見込んでいる。

 その陣頭指揮を執っているのが、昨年8月にSAPアメリカの北東地域責任者からSAPジャパン社長に就いたエンスリン氏である。激戦市場の米国で着実に実績を上げてきた同氏は今年1月に行った記者会見で、SAPジャパンの06年度のスタートに伴って、@顧客価値の向上、Aパートナーとともに成長する戦略の確立、B人材の最大活用とさらなる能力開発、CESA(エンタープライズ・サービス・アーキテクチャ)をはじめとする技術革新と同年度の注力点を四つ挙げた。ちなみにESAとはいわばSAP版SOAで、SAPがおよそ3年前から取り組んでいる事業戦略の新機軸である。この詳しい説明は他に譲るとして、事業スタイルの観点から端的に言うと、従来の岩盤のような強固なERPから、アプリケーションを自由に組み合わせることができる柔軟なシステムを提供するスタイルへと移行するための技術基盤である。

 では、四つの注力点を挙げて06年度の事業拡大に意欲を燃やすエンスリン氏に、日本市場での事業展開における基本的な考え方、さらにSAPの強さの源泉について語ってもらおう。

SAPジャパン社長 ロバート・エンスリン氏

顧客価値と信頼が強さの源泉

アイティセレクト 最近のIT市場の動きでどこにビジネスチャンスがあると見ておられますか。

エンスリン いま最もビジネスチャンスがあるのは、コンプライアンス(法令順守)への対応です。この一環として日本でもまもなく日本版SOX法が施行されますから、ITを駆使してどう対応するかが企業にとって大きな課題となっています。また、グローバル化への対応や、団塊世代の引退による労働力の変化への対応においても、効果的なソリューションが求められています。さらにこのところ活発化しているのが、中堅・中小企業を対象としたビジネスです。SAPでもこの市場向けのビジネスにはとくに力を入れています。

アイティセレクト 日本市場の特殊性をどのように見ておられますか。

エンスリン 日本の企業ではこれまで情報システムを構築する際、業務アプリケーションについては標準化されたパッケージを適用するより、カスタムメイドのソフトを使用するケースが多く、今もそうした企業個々の業務アプリケーションが数多く稼働しています。SAPはさまざまな事業分野で競合会社と戦っていますが、競合という意味ではこのカスタムメイドソフトも強力なライバルと言えます。こうした構図は日本市場ならではの特殊性でしょうね。

 ただ、最近ではCIOをはじめ経営層の多くの方々が、カスタムメイドではコストがかかって効率も良くないし柔軟性もないということを認識されるようになってきたと思います。しかも、そうした経営層の方々のIT部門への要望も、これまでのシステムの構築・運用からシステムによって業務をどう革新するか、に変わってきました。SAPのソリューションはお客様にこの業務革新に取り組んでいただき、成果を上げていただくことを目的としています。

 言い方を換えると、非効率で柔軟性のないシステムのままでは、いくら業務革新を掲げても、そのビジョンと実行の間の隔たりを埋めることはできないと思います。SAPのソリューションを活用していただければ、システム上での業務の運用や、その業務に必要となる新しい機能を取り込むことに精力を注ぐことなく、業務革新に注力していただくことができます。こう考えていくと、一企業にとどまらず、ITというのは一国の生産性をも大いに向上させるパワーを持つ、と私は確信しています。

アイティセレクト SAPの強さの源泉は何ですか。

エンスリン まず挙げられるのは、業務アプリケーションを通じてお客様にとっての価値を提供していることです。SAPは誕生以来35年間にわたって、お客様にとってその価値を高めるにはどうすればよいかを常に考え、新しい商品やサービスを提供してきました。35年の間に蓄積された経験やノウハウが、今日の業務アプリケーションに凝縮されているのです。

 そして、お客様の価値を高めることができれば、そこに確固たる信頼関係が生まれます。これはソリューションを共同開発しているビジネスパートナーとの関係も同じです。そうした信頼関係がよい循環となり、また新たな価値のあるソリューションを生み出すわけです。お客様にとっての価値を生み出す力と信頼関係、これがSAPの強さの源泉だと思います。

このインタビューは現在発売中のアイティセレクト6月号に掲載されています。

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