フリーソフトウェアを陥れる罠Magi's View(2/2 ページ)

» 2006年05月17日 12時10分 公開
[Bruce-Byfield,japan.linux.com]
SourceForge.JP Magazine
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仕組まれた言葉に対処する難しさ

 仕組まれた語句を分析するだけでなく、FSFでは、それらに代わる語句を見つけ出そうともしている。代替案のない語句もあるが、それはそうした語句があまりにひどく誤った使われ方をしているからだ。ストールマン氏は、その例として、「知的財産権」は語弊が強すぎるため、元の個別の問題に分割して対処するしかない、と述べている。しかし、そのほかの用語では、適切な代替語句がFSFによって編み出されている。例えば、「信頼できるコンピューティング」に対しては「信頼のおけないコンピューティング(treacherous computing)」を提案している。元の語句と響きが似ているだけでなく、ユーモアを効かせてポイントを強烈に印象づけている点が見事だ。

 同様に、「デジタル著作権管理」については、「デジタル諸制限管理(digital restrictions management)」または「デジタル諸制限マルウェア(digital restrictions malware)」で置き換えることを提言している。しかし、この2つはどちらも満足のいくできではないそうだ。「なぜDRMに反対する必要があるのか、を一般の人々に分かってもらえるような語句や用語を見つけ出したいのだが」とブラウン氏は語る。「後一歩、というところまでは行くのだが、最後の詰めの部分が非常に難しい」

 その難しさの一端には、仕組まれた言葉による制約を打ち破るには、その考え方に対処し、その真意を説明するのに相当な時間を費やさなければならないことがある。これには、FSFの考え方を広めること以上に時間がかかる。「使っている言葉のすべてが自らの信念に反している場合、自分の意見を論じたり、要点を伝えるのが非常に難しくなる」とブラウン氏は説明する。

 さらに、仕組まれた言葉の反対者たちは、「政治的に妥当な処置」――この語句そのものが、反対活動が取るに足らないもので、無意味であると思い込ませる手立てになっている――として解雇されるリスクにさらされる。

 フレーミングを打ち破るのが難しいもう1つの理由として、専門家によるマーケティング技法がある。「強烈な印象を与えるにふさわしい語句を見つけ出すために、適切な組織に莫大な資金を投入しなければならない理由が私には分かる」とブラウン氏は述べている。「われわれは、そうした取り組みに対抗するために自分たちの内部で苦闘しなければならないのだ。できることなら、(外部に不要な資金をかけることなく)われわれの支持者からふさわしい語句が見つかることを望んでいる」

 さらに重要なのは、レイコフ教授が急進派と呼ぶ典型的なFSF支持者の多くは、言葉を操作するという考え方を毛嫌いしていることだ。この反応は、おそらく、多くのFSF支持者がプログラミングに携わっており、平均的な人々に比べて客観的な事実をより信用し、論理的に議論することの効果を確信している傾向がある、いう事実と関係があるのだろう。ブラウン氏は、現行のGNU General Public License(GPL)の改訂に向けた取り組みの中で生じた次の出来事を回想する。

われわれは、どうすれば人々に働きかけ、心を通わせることができるかについて話し始めた。リチャード(ストールマン氏)がすぐに、マーケットでの利益追求を思わせる言葉を少しでも用いることに対して極度の警戒心を示した。人々に対して誠実でありかたいと望んでいるからだ、と彼は言う。結果として、フリーソフトウェアの運動は、自らの開発成果を秘匿して無駄にするのではなく、その成果をほかの人と共有する、という考えに基づいている。つまり、この取り組みの核心には、誤った概念、悪用される思想や言葉に彼らを縛りつけたくはない、という事情があるのだ。

 動物の倫理的扱いを求める人々の会(People for the Ethical Treatment of Animals、PETA)など、ほかの活動グループが、多くの支持を集めつつ効果的な宣伝活動を進めていることをブラウン氏は認めている。また、彼は、正当な理由があるなら「必要なものは何でも手に入る」と提唱し、コミュニティー組織化の父と呼ばれるソウル・アリンスキー氏のような過去の活動家のことも十分に承知している。「立派なアドバイスだ」とブラウン氏は語る。「だが、実行するのは難しい。われわれは、マーケティング言語の効果を認めているし、もっと効果的なメッセージを発信できることも分かっている。だが、そうしたやり方は、ただ倫理面において、この組織にはふさわしくない。倫理面を取ることで効果が失われる可能性があることも分かっている。だが、例え、もっと大きな成功が得られるとしても、われわれの主義を曲げるわけにはいかないのだ」

 こうした困難はさておいても、仕組まれた言葉に対処する必要性は依然として残っている。ブラウン氏は、その必要性を、FSFの職員がリチャード・ストールマン氏との仕事から学んだ経験になぞらえている。ストールマン氏はこの経験を「デバッグ処理」と呼ぶ。

信頼できるコンピューティングやDRMがまかりとおる世界からやって来る人々に対し、ストールマン氏は、時間をかけて「デバッグ」を施し、問題をもう少し明確にとらえられるように導いている。彼が望んでいるのは、人々が状況をはっきりと理解することだ。きちんと状況が理解できれば、おそらく自分の考えに同意してくれるだろう、と彼は考えている。

 同じように、ブラウン氏も次のように説明している。「誤った用語の使い方をしている人々に自分の意見を述べ、理解してもらうのが非常に難しいのは、その本人の使っている言葉のすべてが自らの信念に反したものだからだ」

今回の運動について

 FSFが進めようとしているDRMへの反対運動に関して、問題になるのは言葉だけではない。反対運動はまだ計画段階で、ブラウン氏は運動について語るのを渋ったのだが、どうやらFSFは、最初の段階として、FOSSコミュニティー以外で同盟を組んでくれる組織を探しているようだ。「これは市民社会にとっても大きな問題だ」とブラウン氏は述べている。「フリーソフトウェアは、学校の保護者会で保護者たち全員から質問が出るくらいの問題にならなければならない。リサイクルの問題だけでなく、学校ではフリーソフトウェアを使っているのか、とか、うちの子はフリーソフトウェアの使い方を教わっているのか、といった問い合わせがあってしかるべきなのだ」と彼は語る。ブラウン氏が望んでいるのは、活動家たちとの提携、そしておそらくは国際的な反対運動の日や直接的な行動だろう。

 また、この運動は、FSFがこれまで検討してきたものの中でも最大規模になると期待されている。MPAAやRIAAを相手に「われわれは政治的に最も強大な組織の2つと真っ向から対立するのだ。最も巧みに幻影を作り出す人々を引き合いに出してこの話題を語ることに何の不思議もない。彼らはワシントンに対して驚くべき影響力を持っているのだから」とブラウン氏は述べている。同時に、FSFは非営利組織であるため、米国で議員への働きかけを行う活動が禁じられている。従って、FSFの活動には入念な計画が不可欠であり、間接的な取り組み――場合によっては、ハードウェアメーカーを直接の対象としたもの――を粘り強く繰り返す必要がある。

 ただし、今回、言葉の効果を検討するのは、あくまでこの計画された運動の斬新さと影響範囲を考えてのことである。「この運動は、一般の人々の世界にも一石を投じることになる」とブラウン氏は述べている。「われわれは、FOSS業界の外側、そしてNewsForgeやSlashdotの外部からの注目を必要としている。これはかつて経験したことのない状況であり、これまで実現できなかったことでもある。きっと大仕事になるだろう」

Bruce Byfield氏はセミナーのデザイナ兼インストラクターで、NewsForge、Linux.com、IT Manager's Journalに定期的に寄稿しているコンピュータジャーナリストでもある。


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