提言2:ITガバナンスの意味を今一度考えよマネジメントイニシアチブ時代に向けて――7つの提言

マネジメントイニシアチブ時代に向けて――本企画では7つの提言について順次、解説している。今回は「提言2」として、「ITガバナンスの意味を今一度考えよ」がテーマ。

» 2006年06月09日 07時00分 公開
[増田克善+アイティセレクト編集部,ITmedia]

ITに「ガバナンス」が必要になった理由

 「ITガバナンス」という言葉が日本で使われるようになって久しい。99年頃、通商産業省(現経済産業省)と日本情報処理開発協会は、『企業のITガバナンス向上に向けて』というレポートの中で、ITガバナンスを「企業が競争優位性構築を目的に、IT戦略の策定・実行をコントロールし、あるべき方向へ導く組織能力」と説明している。また、米国の情報システムコントロール協会が提唱するITガバナンスの成熟度を測るフレームワークであるCOBITの中では、「ITやそのプロセスにおけるリスクと利益をバランスさせながら価値を付加することによって、企業目標を達成するために、企業を方向付けし、コントロールする一連の関係構造とプロセス」としている。

 ITガバナンスという考え方が出てきた背景には、企業においてその企業ビジョンや戦略的目標を達成するために、ITが効果的に使われているか否かが大きく影響するようになったからである。IT投資の成否が企業経営において非常に重要なファクターであるという考えが一般的になった一方で、工場の機械設備投資などと異なり、IT投資は投資対効果が非常に分かりにくく、IT投資の評価(コスト評価)の整合性が必要になったためだ。

 また、個別のユーザー部門においてITシステムが乱立することになり、それらの整合性および連携の問題が顕在化してきたこともある。ITと経営の関係が密接になっている昨今、企業組織全体として業務を効率的に処理するために、ITシステムのアプリケーションやデータの連携が不可欠になった。こうした部分最適で効果を上げたITシステムが、企業全体から見ると足かせになったのである。

 さらに、インターネットを使った企業内外の情報のやり取りが増大し、情報セキュリティリスクが高まったこと、大規模・複雑化したシステムの構築プロジェクトや保守運用のトラブルなどによるリスクが増大し、ITにおけるリスクマネジメントが必要不可欠になったこともITガバナンスの考え方が重要視されるようになった理由だ。

企業価値を向上させる視点を持つ

 企業が一貫したIT戦略を策定・実行していくために、部分最適ではなく、全体最適のITシステムを構築することが目標の1つである。その意味で、ITガバナンスはEA(エンタープライズ・アーキテクチャ)と非常に強い関連性を持っている。EAは経営の視点から業務とシステムを一体と考えてポリシーを設定し、それに基づいてあるべき姿を描き、そこに向けての移行を行い、結果を評価してさらにあるべき姿を描く、という改善サイクルを回すことをめざす。EAのモデルを作るには経営戦略の視点が必要であり、実行サイクルを回すためにマネジメントプロセス、組織、投資評価といった仕組みの整備も必要になる。これらはいずれもITガバナンスの要素であり、全体最適の視点に立ったEAの実施計画を立てていくことがITガバナンスの実現につながる。

 また、ITガバナンスを確立し、実際に効果を上げるためには、その運用面であるIT投資マネジメントの仕組みが重要になる。ITの投資対効果の評価基準とその意思決定プロセス、構築・運用で発生するIT関係費用を、誰が責任を持ち負担するかという仕組み、ITによる効果を継続的に評価し改善へつなげていく仕組みなどだ。

 ITを使うことによるリスクも企業活動全体の中での整合性が評価されなければならない。そのためには、セキュリティマネジメントにとどまらず、ビジネス継続のためのマネジメント、プロジェクトマネジメント、コンプライアンスマネジメントなどのマネジメントシステムの確立が必要になる。

 ITガバナンスを全体最適化、コスト、リスクというキーワードで簡単に述べたが、ITガバナンスは単に個々のIT投資や評価に関するものではない。「システムにかかわるすべての要素(人・制度・業務)と、システムそのものの整合性を確保し、求めるビジネスの姿(価値)を追求する活動」ということを認識しておかなければならない。これまで企業の多くの情報システム責任者は、ITガバナンスという言葉をITシステムそのものの全体最適化、コストおよびリスクの「統治」と、その効率的な活用という視点で捉えてきたのではないだろうか。ITガバナンスは、そうした視点での取り組みに加えて、企業の「IT組織能力」を高め、その結果として競争力の向上、組織としての価値を向上させるものだと捉えるべきだろう。そのためには、企業が有するITをどのように活用・運用するかの仕組みと、その実践が行われているかをマネジメントすることがITガバナンスである。逆にいえば、ITを企業価値を高める視点で活用できる「IT組織能力」を作り出すことがITガバナンスそのものといえるだろう。

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