提言3:ITのアクウィジションマネジメントを実施せよマネジメントイニシアチブ時代に向けて――7つの提言

マネジメントイニシアチブ時代に向けて――本企画では7つの提言について順次、解説している。今回は「提言3」として、「ITのアクウィジションマネジメントを実施せよ」がテーマ。

» 2006年06月13日 07時00分 公開
[増田克善+アイティセレクト編集部,ITmedia]

ライフサイクルを意味するアクウィジション

 いきなり耳慣れないアクウィジション(acquisition)という言葉を持ち出して恐縮だが、acquisitionは日本語では「取得」あるいは「調達」と訳され意味があいまいになるため、あえて「アクウィジション」とカタカナ表記した。ITあるいはITサービスのアクウィジションといったときには、IT導入における企画から予算の策定、計画、調達、開発、運用、評価の一連のプロセスを指す。3つ目の提言では、このITのアクウィジション全体をライフサイクルの視点でマネジメントすることの重要性を挙げたい。

 日本の企業もここ十数年来、ITシステムの導入に多額の資金を投じてきた。ところが、投資額の割には作業の自動化にわずかに寄与しただけで、本来のマネジメント上の課題解決に至っていない、同じような目的のシステムが各部門に乱立している、予算やスケジュールが計画通り進んだシステム構築がほとんどない、あるいは導入したシステムの保守運用に毎年多額のコストを費やす必要があった、といった問題を抱えている企業は少なくないだろう。IT投資効果や本来のビジネス効果がどれぐらいなのか判断することが非常に難しいのは現実だが、仮に本来の目的を達成できるITシステムの導入がビジネスプロセスとうまくかみ合っていれば、その効果ははっきり出ていたと思われる。

 こうした期待された投資効果を得ることができなかった根本的な原因はどこにあるのか。IT導入というと技術中心の考え方が大半を占め、肝心の導入を検討するために何をすべきか、発注調達をどのように行うか、設計・開発のためのプロジェクトマネジメントをどう推進するか、サービスレベルを維持するために完成したシステムをどう保守・運用していくか—といったアクウィジションのライフサイクルをマネジメントする視点が抜けていることが大きな原因ではないだろうか。

ライフサイクルマネジメントの視点を持て

 ITアクウィジションのプロセスには、企画フェーズ、調達・契約フェーズ、実施フェーズ、運用・保守フェーズ、終結・革新(評価・改善)フェーズがあり、これらをライフサイクルとして回していくことになる。それぞれがマネジメントプロセスであり、こうしたITアクウィジションのライフサイクル全体をマネジメントしていくことが重要になってきている。

 ライフサイクルをマネジメントしていくためには、各プロセスの目的・目標を達成するために、活動を効率的・効果的にコントロールするマネジメント手法を確立していく必要がある。それには、昨今注目されているさまざまなマネジメントフレームワークを導入することができる。

 例えば、企画フェーズではEAの導入がある。組織の目標や戦略を基に、業務とITシステムの姿を共通フォーマットで明確にし、組織の構成要素とその機能や相互関係を明らかにすることになる。実施フェーズのプロジェクトを調達することは、プロジェクトマネジメントの実施でもある。また、プロジェクトの進ちょくを把握するのに、EVM(アーンド・バリュー・マネジメント)という技法がある。定められた期間ごとの「コスト」「スケジュール」「品質などのパフォーマンス」を算出・累計し、計画で定めたベースラインと比較しながらマネジメントする。運用・保守フェーズでのITをいかに活用するかという意味でのマネジメントは、ITサービスマネジメントの標準であるITIL(ITインフラストラクチャ・ライブラリ)が世界の標準となりつつあり、今年度中にはITILがベースとなるISO20000の実施がスタートする予定だ。ITILは、エンドユーザーや顧客へのサービス提供という視点で、メールや受注管理といったサービス群を管理し、ビジネスプロセスと合致したITサービスを最適化することが目的になる。

 日本では特にITILは保守・運用の活用に重点が置かれているが、欧米ではまさに、ITサービスのガバナンス達成の視点からの活用が行われつつある。また、ITアクウィジションをマネジメントするうえで、ライフサイクルコストをきちんと見積ることが、組織として投資すべきかどうかを判断するための材料として重視される。ライフサイクルコストは、企画︱設計︱開発︱運用といった各段階で必要なコスト情報を収集し、投資対効果を最大化するポイントを抽出する。このライフサイクルコストが重要なのは、システム稼働後の運用・保守コストが予想以上に負担となり、期待された投資効果を得られないという状況を生む危険性が高いからだ。

 この10年ほどの間に企業が資金を投じたITとは、新しい技術で業務プロセスの改革あるいは新しいビジネスモデルの創出を起こすための重要な基盤である。決して新しいITの評価やシステムを構築すること自体が目的ではないはずだ。ITを活用して組織と個人の競争力強化と価値の増大をめざしていこうとする今、求める価値を最大化するためにITアクウィジションを全体最適化する視点でマネジメントすることが要求されているのである。それこそが、まさにITガバナンスそのものである。

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