経営のエンジンともいうべき情報システムは、知らず知らずのうちにブラックボックス化し、非効率的な運用がまかり通るようになりがちである。さらに進行するとビジネス活動の推進力どころか足をひっぱるものになりかねない。本稿ではそのようなことにならないための方策について論じていく。
「好景気」とは言うものの必ずしも実感できないうちに、2月の地域経済動向の調査結果で景気判断が下方修正され始めた。企業を取りまく客観情勢は恒常的に厳しい。
原油を始めとする材料費高騰、円高、海外からの容赦のない攻勢、少子高齢化など尽きることのない不安定要因によって地域経済格差、企業業績の業種間・規模間格差などが生じ、いびつな環境下で企業はどこも生き残りをかけて必死である。企業はM&Aの画策・IRへの腐心、需要喚起型製品の模索、成果主義導入による人件費抑制、IT導入など業績回復や生き残りを賭けて懸命に施策を打つが、しかし一方で企業倫理にもとる事件も頻発している。
いったい日本企業はどうなっているのか、今後本当に立ち直るのか、と誰ともなく問い質したくなるが、実は企業の中に入り込んで本音の視点で見つめると、経営の随所に矛盾が満ちていることがわかってくる。
今回は、企業経営の実態面のいろいろな切り口から矛盾を抉り出し、ITとの関連で経営や管理のあり方を問うつもりでいる。
まず、ITそのものを取り上げよう。
導入されたITは企業の中で建前はさておき本音の意味で、果たして期待された効果を発揮しているのかどうか、そしてその実態に企業人はどう立ち向かったらよいのかを問う。
「稼働中のシステムは、本当に役に立っていますか?」筆者は企業の経営者や関係者に本音を探るようにしばしば問いかけることがある。そうすると「いや、実は…」と堰を切ったように思いを吐露する人が、決して少なくない。
総務省が 2004年1月に行った「通信利用動向調査」によると、「情報化投資の経営に対する効果」について「効果あり」が71・2%(前年調査では72・3%)、効果に疑問(「ない」「あまりない」「どちらとも言えない」を合わせて)が27・0%(前年27・4%)となっている。
効果に疑問を持っている企業が、膨大な投資をしているにもかかわらず30%近くあること自体が問題だが、実態はもっと多いのではないかと言うのが筆者の見方だ。
それは、筆者の経験を踏まえて三つの点から言える。
まず導入したITが、稼働はしているがレガシーやローカルシステムが陰で使われ、むしろ担当者の手間が増えているのに、その実態が無視されて「効果あり」とされるケース(実態に気づかぬオメデタイ幹部がいかに多いことか)、あるいは従業員がIT導入で便利で先進的になったと喜んで「効果あり」としたものの、人員減・原価低減・売り上げ増など業績に何ら貢献していないケース(ほとんどの経営者は従業員と同レベルで単純に喜ぶ)、そして対外調査には「効果あり」ととりあえず回答しておけ、と言う無責任なケースがある。
あるIT系出版社が04年に実施したアンケートで、約170社中80%弱から「完成したにもかかわらず、ほとんど役に立ってないシステム」だという回答を得ている。前述した総務省調査の「効果に疑問27%」と比較してこの「役に立っていない約80%」というユーザーの回答を考察すると、経営の本質を見極めるためには独自の「視点」を持つことがいかに重要かを知ることができる。
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