内部統制は「見える化」、トヨタが攻めの取り組みで業務を「カイゼン」SAP BUSINESS SYMPOSIUM '06レポート

7月21日、「SAP BUSINESS SYMPOSIUM '06」では、トヨタ自動車や日立製作所が参加し、「攻めの内部統制」をテーマとしたパネルディスカッションが行われた。

» 2006年07月21日 18時07分 公開
[浅井英二,ITmedia]

 「米国法人におけるセクハラ問題、リコールの増加と適切でなかった対処など、正直、経営の仕組みが事業の急拡大に追いついていない」── 一連の不祥事に揺れる世界のトヨタ自動車が率直に認めた。

 7月21日、「SAP BUSINESS SYMPOSIUM '06」では、トヨタ自動車や日立製作所が参加し、「攻めの内部統制」をテーマとしたパネルディスカッションが行われた。

日本を代表する企業が登場。トヨタ自動車の常勤監査役、山口千秋氏(左)と日立製作所の代表執行役副社長、八丁地隆氏

 法案が国会で可決されたことにより、日本版SOX法への対応がいよいよ待ったなしとなった。対象なる範囲が連結子会社はもちろん、業務委託先にまで及ぶため、右往左往する企業も多い。しかし、パネルディスカッションのモデレーターを務めた一橋大学大学院国際企業戦略研究科の大薗恵美助教授は、「制度対応は負担ではなく、好機」とし、企業は「攻めの内部統制」として取り組むべきだと提起する。

 「個人情報のときも右往左往した企業が多かったが、経営者がリーダーシップを発揮し、身の丈に合った内部統制戦略を立案しなければならない」と話すのは、牧野総合法律事務所の牧野二郎弁護士。その指針のひとつとして、情報の属人性を廃し、情報が業務にフィードバックされ、伝承していけるようにする仕組みを目指すべきだとし、内部統制はその好機だと指摘する。

事務の生産性や品質の改善

 パネラーとして参加したトヨタ自動車の常勤監査役、山口千秋氏は、終身雇用の日本的な仕事の進め方の限界が見えてきているとし、異なる文化の人たちにも分かってもらえるルールをつくり、それをベースにきちんと経営することが重要だと話した。山口氏によると、同社は海外事業が急激に拡大しており、グループ会社全体では、日本人以外の社員が3分の2を占めるに至っている。

 「この組織をどう効率的に運営していくか? そのためには、フェアで十分なコミュニケーションが必要だった。米国のサーベンス・オクスリー法への対応は(仕組みをつくる)大きなチャンスだった」と山口氏。

 トヨタ自動車といえば、すぐに「カイゼン」を思い浮かべる。同社ほど、生産現場での生産性や品質の改善に取り組んでいる企業はない。しかし、山口氏は、事務や技術開発における生産性や品質の改善は遅れており、「業務プロセスを文書化し、リスクや統制活動を明確にし、改善していくことが急務だった」と話す。

 「内部統制は、“業務の見える化”であり、生産性や品質の向上につながる。攻めの内部統制という認識が必要だ」と山口氏。日本版SOX法の「財務報告に係る内部統制」にとどまらず、より広い範囲の取り組みが求められていると指摘する。

 山口氏は、トレッドウェイ委員会組織委員会(COSO:the Committee of Sponsoring Organization of the Treadway Commission)の「ERM」(Enterprise Risk Management)を引き合いに出し、「内部統制を積極的に活用し、制度対応を経営に生かそう」と訴える。

より良い製品を視野に入れた日立の内部統制

 連結対象子会社約1000社、総勢33万人の社員を抱える日立製作所も、トヨタ自動車と同様、ニューヨーク証券取引所に上場しており、2004年からSOX法対応を進めてきた。トヨタ自動車以上に厄介なのが、総合電機メーカーとして、その製品やサービスが多岐にわたるということだ。

 「それぞれの違いを認め、どこまで業務の標準化・共通化を進めたらいいのかを判断しながら、内部統制の体制を再構築してきた」と話すのは、日立製作所で「インターナルコントロール委員会」を担当する代表執行役副社長、八丁地隆氏。同社では、内部統制はいちからつくり上げるものではなく、すでにあるものを認めつつ、内部統制の体制を「再」構築するのが特徴だという。

 さらに八丁地氏は、内部統制は「リスクを軽減する」「人を育てる」「業務改革を加速する」「新たな事業を創生する」といった「日立内部統制10カ条」を挙げ、単なるコントロールに終わらないで、新規事業創造までつなげるという、より良い製品やより良いサービスを視野に入れた同社の取り組みを紹介した。

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