CSR分野のITの出番とは?企業にはびこる「間違いだらけのIT経営」:第7回(1/2 ページ)

「企業の社会的責任」を考える上で、反倫理的行為を抑制する仕組みづくりは最重要課題だといえる。こうした仕組みづくりはやみくもに利益確保のみに走る組織を変え、新しい事業を作り出す素地となる。

» 2006年07月26日 13時41分 公開
[増岡直二郎,アイティセレクト]

本音を基盤にCSRを考えよ

 前回(CSRを分析すると見えてくる「日本的問題」)は、後を絶たない企業の反倫理的事件の背景、そしてその原因と対策に敷衍した。しかし根本療法的アプローチをするには、企業の中で行われていることの建前と本音を見極める議論が必要であり、さらに企業の現場になじむ対策が求められることも指摘した。

 今回はその辺の議論と、ITの出番について考えたい。

 「企業の社会的責任」が目的として前面に押し出されると、どうしても建前が横行する。何故なら業績確保が至上命題で、利益に追われるのが日々の実態であるのに、尤もらしく企業倫理をかざすから、それが日常の出来事とは別次元で建前として闊歩することになる。

 企業は慈善事業ではなく、利益を出して初めて最小限の社会的責任を果たし、その上で次々とより高度な社会的責任を遂行できる。反倫理的行為が企業のブランドを傷つけ、業績にマイナスの影響を与え、場合によっては企業の存在が否定されるから、反倫理的行為を避けるべきなのである。その本音を経営方針の根底に据えて経営に当たるべきである。

 例えば、「社会的貢献」だとか「善悪で判断せよ」とあからさまに建前で掲げていながら、トップから担当者までそれを無視して業績獲得に狂奔するよりは、「企業の利益を損ない、己の立場も不利になる結果をきたすから社会的責任を果たせ」と言う考え方を経営の基盤におくことによって、企業内にCSRの考えが定着するのである。

 それでも反倫理的行為の誘惑に負けそうになったとき、その誘惑に勝つ最後の精神の拠り所を英国的CSRの取り組みに求めることができる。企業は経営陣や従業員の社会貢献活動への取り組みを教育や行動計画の中に取り入れることで、精神を鍛えることができる。以上をベースとして、無責任の構造に対する対策が打つべきだ

ITを活用し不毛な議論を一掃

 最後にCSR分野でのIT活用である。ITは反倫理的行為に対する根本療法を施した後に、補助対策の一手段として出番がある。ITが手段の域を脱して表面に出ると、CSR対策は砂上の楼閣となる。いずれにしろ、ITの出番は大いにある。

 例えば、反CSRに対する内部通報、資材調達の際のCSR条件の設定と判断などにITは有効利用されよう。また、経営者の自覚を促すためのCSR診断ソフトはまさにITの出番で、企業のCSR対応状況を多くの項目でチェックして評価することができる。

 談合防止が期待された電子入札で、高落札率が続出し効果が疑問視される結果が、浦安市で出た。しかし電子入札は、業者の利便性向上・庁内事務の効率化・入札事務の透明性向上の面で評価されていると言うから、条件の見直し・整備をして是非成功させたい。

 企業は慈善事業ではないから赤字受注はご法度だ。しかし赤字受注を受けざるを得ない場合がある。そのとき、シミュレーションによる限界売価決定システムがあると便利だ。シミュレーション要素として、受注・売上高の実績と今後の予想、営業利益・粗利益、諸費用回収状況、検討対象案件の受注条件などがある。こうして、赤字受注は「社会的責任が絡んでも断れ」、「従業員を遊ばせるなら受けろ」という、不毛の議論は必要なくなる。

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