「ITアーキテクト」は雲の上の存在?――札幌の地からキャリアを見つめ直す夢工房を追う 第1回(2/2 ページ)

» 2006年08月07日 07時00分 公開
[三浦優子,ITmedia]
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 「当事者である僕たちもITアーキテクトというのは、雲の上の存在というのか、自分とは遠い存在だと思っていました。そんな状態ですから、ITアーキテクトを育成しろと言われても訳が分からない(笑)。どういう方向性になるのか、何をすればそれが実現できるのか、まったく分からず不安でした」

 17人のメンバーは20歳代が2人で残りは30歳代。ほぼ初対面のメンバー同士だった。

 「初対面とはいえ、技術レベル、ポジションがほぼ同じメンバーばかりだったので、同じような問題や悩みを抱えていました。日常の仕事では、違う会社の技術者との接点はほとんどありません。だから、同じ技術者同士自分の知っていることを教え合うだけでもプラスになる部分は大きかったし、『ええ? 会社が違うとこんな部分も違うのか?』と発見することも多かったですね」と磯野氏は振り返る。

 プロジェクトは2005年9月からスタート。月に一度のペースで会合が開かれ、ITアーキテクトとはどんなものかを掘り下げ、その上で札幌市の実情に即した情報技術者を育成するための教材を作ることが決定。教材に必要な知識・スキル分野の洗い出しや選定、盛り込む内容について決定したのち、分野ごとに3、4人のワークグループに分かれて、勉強会および教材作りを行った。時には課題を宿題として持ち帰り、休日や仕事が終わった後の夜遅くに各自で作業を行うこともあった。

大森彩子氏 マイクロソフト デベロッパー&プラットフォーム統括本部エバンジェリストの大森彩子氏

 このプロジェクトをサポートするために、毎月の会合に必ず参加したマイクロソフトのデベロッパー&プラットフォーム統括本部 エバンジェリスト 大森彩子氏は、「集まる機会がなかったメンバーに集まる場を与えたことだけで、大きな効果があったという声がメンバーからあがりました。そういう声があっただけで、十分に意義があるプロジェクトだったと思います」と振り返る。

 大森氏自身、このプロジェクトに対し、スタート前と現在とではまったく違う感想を持っているという。

 「最初は、マイクロソフトとしては技術支援を期待されていたように思います。このプロジェクトでメンバーの皆さんとお会いし、お話ししたところ、今後のキャリアプランについて、方向性や目標がはっきりせず、しかし、どうすればよいのか、何をすればよいのか分からないままで、漠然とした不安をお持ちだ、ということがだんだん分かってきました。そこに、ITアーキテクトを育成せよという命令が下って、ITアーキテクトとは何かを考えていく中で、メンバーの皆さんのキャリアプランを見つめ直す機会になったようです」(大森氏)

 その中で、大森氏は自身の立場を次のように語る。

 「私はエバンジェリストとして、システム全体の構造について責任を持つ“アーキテクト”の皆さんへ必要な情報を提供したり、“アーキテクト”を目指したい方々の指針となる情報を発信する仕事に関わってきました。今回は、皆さんが考えていく上で必要な情報をバックアップしたり、例えばITアーキテクトに求められる広範な知識エリアについて補足する、調査に必要な資料を探すなど、皆さんがプロジェクト活動自体に集中できるようなサポートをしたりしたに過ぎません」

 誰かが答えを出すのではなく、参加者自身が考えて答えを出す――その経緯が参加者にとって大きなプラスとなったようだ。

 「スタート前は雲の上の存在だったITアーキテクトの背中が見えたというのか、どういう人なのか実感を持つことはできました。今後、札幌市や北海道のIT産業が活性化するために必要な人材、ITアーキテクトを育成する第一歩となる教材を作るという目標があったからこそ、ここまで頑張ることができた。自分の会社だったら、同じことをしろと言われてもきっとここまで突き詰めて、考えることはなかったでしょう。違う会社のメンバーが集まり、同じ思いを持った“同志”になったからこそ、こういう成果を残すことができたんだと思います」(磯野氏)

テキスト 磯野氏をはじめ17人のメンバーで作り上げた分厚い「ITアーテクト入門コース テキスト」

 忙しい日常業務をやりくりして、作り上げた教材は、「Microsoft Tech・Ed 2006 Yokohama」の会場で開催されるスペシャルプログラム「アーキテクトへの道:【実践編】札幌市ITアーキテクト育成プロジェクト "Next Stage Produce"」の中でも公開される。

 「教材としてのレベルは、まだまだ足りないところがあると思います。しかし、この経験によって参加メンバーはものすごく有意義な経験をすることができました。できれば、こういう経験をもっといろいろな人にしてもらいたい。そんな思いがあります」と磯野氏は強調する。

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