ITmedia エンジニアリングがなぜ現場に根づかないのでしょうか?
成本 ソフトウェア工学をきちんと適用する、例えば、パターンを活用して、過去の成功や失敗を次のプロジェクトに生かせるようにしていく必要があるわけですが、現場には「パターンさえ覚えていればいい」という「パターン偏重主義」といえるような風潮も見られます。ソフトウェア工学には、パターン以外にもさまざまなものがあり、過去の成功体験を次に生かすために真剣に取り組む必要があります。
こうした取り組みは、学問でもなければ、現場で汗をかいてコーディングするということでもありません。その中間に存在するものです。その専門家が育ち、彼らの価値が定まってくれば、産業としては成熟度が高まってくると思います。
日本のITエンジニアのみなさんも、本来はそこに取り組むべきだと思います。
組織的な問題もあると思います。日本のソフトウェア開発現場では、ある程度経験を積むと管理職になり、現場から離れてしまいます。「35歳限界説」なるものがあり、40歳になると課長などに昇格していなければ、出世コースから外れてしまう、という考え方があります。
しかし、ソフトウェア工学を極めようとすれば、50歳、60歳になっても現場にいる人がいてもいいわけです。しかし、そうなっていないのは、キャリアパスがきちんと定義されていないからだと思います。
林 建築の世界では、黒川紀章さんのような著名なアーキテクトは、50代、60代からますます活躍されます。しかも、アーキテクト一人の力では建てられないスケールの大きな建築物をつくるわけです。それはまさにエンジニアリングの力です。
ビル建築のプロジェクトには、○○建設や○○組に優れたプロジェクトマネジャーがいて、アーキテクトの基本デザインや工法を具体的に詳細化する人たちがそろっています。もちろん、直接工事に参加する人もたくさんいます。それぞれの専門家がそろっていて、初めてビル建築のプロジェクトが成り立っているわけです。
われわれITの業界も、2階建て、3階建ての木造家屋をつくっていた時代から、いよいよ100階建てくらいの高層ビルを建てる時代に入ってきました。
当然のことですが、根性だけでは高層ビルは建ちません。実際にITの現場では、過去の手法によるプロジェクトはそのほとんどが失敗しています。そのせいもあって、「ITエンジニアは割の合わない仕事、3Kの職種だ」と見られるようになってしまっています。
しかし、本来であれば、エンジニアやマネジメントの専門家、つまり、有能な人たちが力を発揮できる時代になってきているはずです。
成本 「エンジニアリングする」というムーブメントを起こしたいですね。それはとても創造的な仕事ですし、ある仕事を成し遂げたときの喜びが、このソフトウェアの業界にはもっとあるべきだと思います。
林 自慢話が「2日徹夜した」では寂しいですね。
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