インサイダー覆面座談会「電子政府“無責任”の連鎖を断て!」―後編崖っぷち!電子政府〜迷走する4500億円プロジェクトの行方・第5回(2/2 ページ)

» 2006年08月22日 08時00分 公開
[山崎康志+編集部,ITmedia]
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曖昧なIT予算査定

――総務省行政管理局に当事者能力がなくて、各省庁のCIOもやる気がないとなると、電子政府はどこが主導権を持てばいいでしょうか。

B 当然、それは財政当局。やっぱりカネを握っているところでしょ。今後、GPMOの調整機能に期待はするけど、財務省は強大な権限を持っているんだから、行管局でも内閣官房でもなく、自ら主導権を発揮すべきなんだよ。

A 先進国のIT調達をみてみると、だいたい財政関係の組織と連動しているんですよ。米国は行政予算管理局(OMB)だし、英国なら政府調達庁(OGC)。電子政府世界ランキング1位のカナダに至っては、カナダ予算庁(TBCS)が完全に主導権を握っていて、システム開発予算の20%を最適化計画の策定に使えとガイドラインで定めている。日本は3、4%しか使わないから、絵に描いた餅の計画しか出て来ないんだよ。

――そうすると、日本の財務省だけが怠慢ということ?

A IT予算だけ査定がダブルなのは素朴に疑問ですよ。夏場の概算要求の後、行管局が「予算削減可能性調査」で査定して、年末にまた財務省が減らせ、と言ってくる。

D つまり、電子政府は実質的に予算査定が出来ていないんですよ。財務省はIT調達に知見がなく、財務省が頼りにする行管局の査定はいい加減です。行管局は、このシステムは駄目だと分かっていても、そう言わない組織。発言の責任を問われるからです。そういう組織が間に入っても無意味で、要求する側の手間が増えるだけですよ。欧米では米国のOMBにしろ、英国のOGCにしろ、予算権限と執行権限、両方を抱き合わせで持っている役所が電子政府を進めている。日本は財務省と総務省に分かれているから駄目なんです。

C 結局、また無責任の構図なんだよな。世の中、これだけガバナンス、ガバナンスと言われながら、行政府にはそれがない。ベンダーへの発注も請負契約で丸投げだものね。

――ベンダー側の問題点はどうですか。

C システムエンジニアのスキルは落ちてるよ。人月単価で見積り出すから、クオリティが低いほどカネがかかる。

A 某大手ベンダーのように、提案営業と称して自社のERPソフトを売ることしか考えてないところもある。そのくせ、プロジェクトチャーターも、プロジェクト計画書も分からない。あるベンダーに、プロジェクト憲章はどうなっているのって聞いたら、「全社一丸で頑張ります」だって……(笑)。そんなの、ただのスローガンだよ。

官邸主導で総合調整を

D 気になるのは、丸投げの請負契約をいいことに、中国やインドの下請けソフトハウスに発注していることです。行政機関のシステムを海外に発注するのはセキュリティ上問題ですよ。

C その通り。電子政府の中で一番セキュリティレベルが高いシステムは、よく財務省の「ADAMS(官庁会計事務データ通信システム)」って言われるけど、あんなもん、予算規模が大きいだけで、日本の破綻しかけた財政事情は世界中に知られている。それより、同じ財務省でも通関情報とか、公安調査庁のテロ情報や経産省の安保検査のデータなど、すごく機微な情報がある。こういうものの流出こそ、PDCAサイクルの中でチェックしなきゃいけないんだけど、明確になっていない。

――それはもう、政治サイドのイニシアチブの問題ですね。そうすると、電子政府の最高執行権限者は誰になるのかな。IT担当大臣?

B IT担当大臣はあくまでIT行政をみているのであって、現行体制ではIT調達の所管はやっぱり行管局。でも、総務大臣が最高執行権限者ってわけにはいかないから、ここは官房長官にイニシアチブをもってもらうほかないんじゃない。

C そう。官邸主導でないと、電子政府の総合調整は難しいと思う。ただし、小泉内閣は9月で退陣だから、ちょうど85件の最適化計画の予算措置の時期と重なる。微妙だね。

A いいんじゃない。新政権になれば、新規巻き直しの機運が出て来る。一度立ち止まって、電子政府を考え直すにはいいタイミングだよ。とにかく、最適化計画の不用意な執行を止めること。でないと、膨大な税金の無駄遣いになる。アカウンタビリティの明確化を前提に、持続可能な実行計画を練り直すべきだよ。

B 熱にうなされたように、レガシーシステムや随意契約を悪者していた時期は終わったね。

――なるほど。LOHAS化を提言して、この辺りでお開きに。

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