GPLv3の策定プロセス:公開の審議と非公開の起案(2/2 ページ)

» 2006年08月30日 07時00分 公開
[Bruce-Byfield,Open Tech Press]
SourceForge.JP Magazine
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ドラフトの作成

 審議プロセスとは対照的に、実際にドラフトを書く作業は非公開で行われている。「ドラフトの作成そのものは内部で行われ、その議論に参加する資格があるのはストールマン氏とそのお抱えの弁護士だけである。つまり、各コミッティーがこの議論に参加することはない」とフォンタナ氏は話している。

 さらにフォンタナ氏は、GPLv3の文書化が基本的にリチャード・ストールマン氏とエベン・モグレン氏──前バージョンのGPLに携わった両ベテラン ― そして彼自身の手で進められていることを明らかにした。

 また、FSFにおいて前GPLコンプライアンスエンジニアを務めたデビッド・ターナー氏もGPLv3策定プロセスの議論に「相当な」貢献をしている。現行ライセンス(GPLv2)に5年間携わった経験を持つターナー氏は半ば真剣にこう話している。「バージョン2の大半は記憶していたが、バージョン3にかかわるようになってからは、どの条項がどちらのバージョンか分からなくなった」

 ドラフト作成に携わるメンバー、特にストールマン氏とモグレン氏には出張が多いため、作業の一部は電話または電子メールで行われている。ただし、フォンタナ氏によると「重要な作業の多く」は顔を突き合わせての議論で進められているそうだ。フォンタナ氏自身は昨年12月にSFLCの仕事に着手して以来、「ほぼフルタイムで」この活動の取り組みんでいるという。「仕事はほかにも幾つかあるが、ほとんどの時間はFSFのGPLv3の仕事に費やされている」

 起草者ら自身はプロセス定義文書の縛りを受けており、文面の作成は概してメンバー間の「協調作業」になっている。しかし、いったんドラフト作成が始まると、意見を求めるためにその経過がコミッティーに送り返されることはない。さらに「最終的な決定を下すのはリチャード・ストールマン氏であり、法律家たるモグレン氏とわたしはその過程で法的な助言を行うことになる」とフォンタナ氏は述べている。

次のステップ

 ドラフト第3版への取り組みが始まり、GPLv3はより密度の濃いフェーズに入ったとフォンタナ氏は見ている。「われわれはドラフト第2版が、ライセンスに絡んだ多くの頭の痛い問題を解決してくれたものと見込んでいる。今度は、第2版で十分に解決できなかったより難解な問題に注力したい」(同氏)。メディアにおける反響から判断して、こうした問題には特許およびデジタル著作権管理(DRM)テクノロジーにかかわる言い回しが含まれることになるだろう。

 主要な利害関係者からまったく同意が得られなかった場合はどうなるのかと尋ねたところ、フォンタナ氏は次のように答えた。「策定プロセスに遅れが生じることは考えていない。GPLv3のプロセス定義文書に示したスケジュールを守るつもりだ。今後、われわれがすべきことは、さまざまな問題における合意の形成に向けて邁進することだ」

 GPLv3策定のために生み出されたプロセスは、GPLに続く改訂を昨年ストールマン氏がほのめかしたGNU Free Documentation License(FDL)など、そのほかのライセンス改訂のためのテンプレートにもなり得る。しかし、フォンタナ氏は今回のプロセスがもっと大きな意味を持つこともあると考えている。

 「われわれはこれまで行われていなかったことに取り組みんでいる」とフォンタナ氏は語る。「これほど長期間にわたってこのレベルの公開審議を行ったライセンスは今回のGPLv3がはじめてだ。従来は、誰かがおそらくは法律家の助けを借りてライセンスを書き、公開するというプロセスが取られている。われわれが提示しているのは、この類の文書を作成するためのまったく異なった方法だ。また、このプロセスはライセンスのドラフト作成以外にも適しているのではないかと思う。数多くの問題に対して意見の異なるさまざまな関係者層に影響を与える条約や標準規格のような法的文書など、類似の文書をどのように起草できるのかを世界に示すよい例になるかもしれない」

 GPLv3のプロセスがそうした影響力を持つかどうかは、GPLv3がどれだけの合意を得られるかに間違いなく依存するだろう。そのうちに GPLv3の策定プロセスは折り返し点を迎える。フォンタナ氏は「この先も変化が生じることを想定している。議論はまだ終わっていないのだから」と語った。

Bruce Byfield氏はセミナーのデザイナ兼インストラクターで、NewsForge、Linux.com、IT Manager's Journalに定期的に寄稿しているコンピュータジャーナリストでもある。


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