SOAは導入も実装も維持も難しいことを肝に命じよう――米Gartnerのアナリスト動き出したSOAのいま

SOAによるシステム構築にはどんな効果があるのか、また、デメリットは何か。ビジネス、テクノロジー、プロジェクトの組織編制などにも触れながら、これから1カ月にわたり、さまざまな観点から、「SOAの今」について紹介していく。

» 2006年09月01日 00時00分 公開
[聞き手:怒賀新也,ITmedia]

 企業のシステム開発に関する話題で、ここ最近で注目を集めているキーワードといえば、他を大きく引き離してSOA(サービス指向アーキテクチャー)が挙げられる。SOAは、企業がビジネスの変化に柔軟に対応するアプリケーションを構築する手法のことだ。

 SOAの定義は、「ビジネスプロセスの構成単位に合わせて構築・整理されたソフトウェア部品や機能を、ネットワーク上に公開し、これらを相互に連携させることにより、柔軟なエンタープライズシステム、企業間ビジネスプロセス実行システムを構築しようというシステムアーキテクチャーのこと」となる。

 これまではどちらかといえばベンダーがSOAを主導し、3文字略語に失望することに慣れたユーザー企業が、多少冷めた目でそれを眺めているような状況が続いていた。だが、欧米に目を向けると、SOAの手法を用いて基幹システムを再構築する事例がかなり多く見られるようになってきている。

 IT専門の調査会社であるGartnerのリサーチソフトウェアグループ でリサーチ担当バイスプレジデントを務めるジェス・トンプソン氏に、欧米の事例も含めて考えた上でのSOAの可能性について話を聞いた。

「SOAは都市計画に似ている。規制に合わせ、ポリシーにのっとる必要があるが、建築の仕方について書かれていないからだ」と話すトンプソン氏

ITmedia 調査をする中で、SOAの導入を考えるユーザー企業は、どのような態度で導入プロジェクトに取り組むべきだと考えますか。

トンプソン 根本的な考え方として、SOAは簡単ではないことを認識する必要があるでしょう。技術としてマスターするのも、実装するのも、メンテナンスするのも、簡単にはいかないのが実情です。しかし、上手に利用すれば、ビジネスとITの両面で大きなメリットを享受できることも事実です。SOAの本質は、SOAで構築する新たなアプリケーションである(コンポジットアプリケーション)を構築することだけにあるわけではありません。企業が差別化を図るために、ビジネスプロセスを自動化し、環境の変化に柔軟に対応できる俊敏な情報システムを構築することが本来の目的です。

 技術面でのSOAの特性を示すキーワードは、「カプセル化」「モジュラー化」「疎結合」の3つです。既存システムの機能(例えば“受注”など)をカプセル化し、部品(モジュール)として再利用する。モジュール同士を疎結合の状態で組み合わせて、ビジネス要件を満たす新たなアプリケーションを構築するわけです。

ITmedia SOAを導入する上で重要になる具体的な技術はどんなものですか?

トンプソン 特に挙げるとすればESB(エンタープライズサービスバス)です。ESBは、既存のパッケージアプリケーションやレガシーシステム、各種のデータサービスなどで構成される異種混合システムの上に被さる形で実装され、システム間の違いを吸収します。これにより、システムの違いを気にすることなく、XML/HTTP、SOAPなどのプロトコルを利用して、プログラム間の通信が簡素化されるのです。これにより、各機能を有するモジュール間の連携を円滑化することができます。

ITmedia SOA導入のどんな点が難しいですか?

トンプソン SOA導入のメリットは主にビジネス上のものであることが多いです。そのため、企業のシステム開発を手掛ける一般の開発者にSOAを理解してもらうのは難しいことが多いです。

 例えば、スイスのクレディスイスでは、以前から既に、SOA的なアプローチによるシステム開発を行い、自社のビジネスプロセスの自動化を図っていました。最終的には、995のサービスを整備し、ビジネスプロセスの自動化が効果的に図られました。

 しかし、十分な数のサービスが作成されるまでには長い時間が掛かりました。SOAのプロジェクト開始から1年ではたった35、5年までの間に500のサービスしかできていませんでした。しかし、その後ある1年で500サービスが追加作成され、およそ1000サービスが構築されたのです。つまり、サービスの構築が受け入れられ、作成が加速するまでに長い時間が掛かったわけです。紆余曲折を経ながら、クレディスイスは少なからず、ビジネスプロセスの自動化による恩恵を受けられるようになりました。

 SOAでビジネスを構築する際には、それまでの歴史的ないきさつにより、それぞれの部門で最適化されたサイロのようなシステムを横断する形で、アプリケーションを構築する必要があります。なぜなら、SOAで構築するアプリケーションは企業全体にまたがるドメインとして導入されるからです。それだけに、導入を成功させるのは簡単ではないのです。


SOAによるシステム構築にはどんな効果があるのか、また、デメリットは何か。ビジネス、テクノロジー、プロジェクトの組織編制などにも触れながら、これから1カ月にわたり、さまざまな観点から、「SOAのいま」について紹介していく。



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