イベントはUNIMEPという大学の講堂を借りて開催された。朝9時から行われるが当然ポルトガル語オンリーで通訳もなし、そのため、同行したアレクセイが参加するセッション直前に会場まで車で送ってもらう。到着したときには、セッションの真っ最中だったので、入り口には誰もいなかったが、セッションが終了するやいなや、人、人、人であふれかえった。会場の入り口にもうけられた幾つかのブースは、すぐに黒山の人だかりだ。イベントを主催するカルロスや、ルイーズはポルトガル語でFirebirdの書籍を執筆しているいわば有名人なので、すぐに取り囲まれて質問されたり、著書へのサインを求められていた。
ロシア人アレクセイも、最初英語しか通じないために敬遠されていたようだったが、通訳がついてくれてからは、いつもの調子(そう、彼はすごくおしゃべりなのだ)がでてきて、自分のセッションのために、ブースを離れるのが難しいくらいの人だかりができていた。
彼のセッションは、データベースの修復についてのもので、英語のプレゼンテーション、英語のスピーチを、主催者のカルロスがポルトガル語に同時通訳して進める、といったもの。参加者はどんどんポルトガル語で質問を浴びせてくるし、セッションが終了すると、質問者が十数人押し寄せる。本当に熱気にあふれる様子をみて、なんかこう、懐かしくもあり、うらやましく思うこともあった。思えば、以前は日本でもよく見られた光景じゃないか。いつから、このような熱気がなくなったんだろうか? などと考えているうちに、セッション終了。
セッションの合間に、食事、そして3時のおやつ(?)、いや、コーヒーブレイク。とにかくブラジル人は、よく食べ、よくしゃべる。食べたり、しゃべらなければ死んでしまうかのように。コーヒーブレイクは、山のようにつまれたスイーツがみるみるうちになくなっていく。そして、片言の英語がしゃべれる人々の矛先が遠く日本からやってきたわたしに向けられると、そこから延々と日本のことについて英語でトーク。「日本でのDelphiはどうだ」「日本でのオープンソースDBはどんな感じだ」「僕の上司がFirebirdを使うなというんだけど、メイジはどう思う? (いや、それは僕にいわれても……)」。とうとう最後には、地元のケーブルテレビのインタビューを受ける始末……。
日本から想像もできないブラジルのIT事情。電源も、インターネット環境も完備されて、少なくともホテルでは困らない。本屋でもコンピュータ関連のコーナーに最新技術の(もちろんポルトガル語の)本が並ぶ。変わっているのは、日本のキオスクのような場所にもそれらの本が置いてあるのだ。UMLモデリングの本がキオスクにおいてあるのって、ちょっとステキだ。
ブラジルでのDelphi熱はまだ健在で、今回のイベントもDelphiのユーザーグループ、そしてボーランド関係者がかなり協力してくれていた。本屋にもDelphi/Kylixの本が並び、イベントのブースにも、Delphiマガジンが定期購読を促していた。
日本に帰国する当日、ルイーズがブラジルの秋葉原(?)に当たる街につれていってくれた。Saint Efigenia Streetと呼ばれる街は、まるで秋葉原ラジオ会館のように、細かいコマに分かれていた。専門店かと思いきや、必要なパーツを告げると、ほかの店(もしくは倉庫)から持ってきてくれて、それぞれ総合店が軒を並べている感じだ。ルイーズがオーダーしたのは、モデムカード。
「自動応答できるやつだ。これで、携帯の自動音声応答のシステムを作るんだ」。もちろん、DelphiとFirebirdを使って。自分の手になじんだ道具で、自分の思いを形にするのだ。「そのためにはMySQLじゃだめなんだ。完全にフリーなDBでないと」ブラジリアンが出した答え、それがFirebirdだ。
日本ではMySQL対PostgreSQLの図式が喧伝されている。確かにMySQLとPostgreSQLがエンタープライズ向けの機能を充実し、大規模化への適合度を上げてきていることは異論がない。しかし、オープンソースデータベースのすべてに対して、エンタープライズへの対応のみが求められているわけではないことに注意してほしい。アプリケーションに組み込んで同一のプロセスで動作させられるか(PostgreSQLではできないだろう)?、使用用途に限らず完全な「フリー」で使えるか(MySQLはそうではない)? 手軽にインストールできて、一昔前のマシンでも楽々動く。シングルファイル構成で、クロスプラットフォームで動作するクセのないデータベースといえば、Firebirdしか選択肢がない、とわたしは考えている。海外におけるFirebirdの人気はまさしくそれで、日本におけるFirebird唯一の弱点は、まさに「知名度のなさ」だけだ。
その唯一の弱点を克服すべく、Firebird日本ユーザー会では、毎月セミナーを開催している。また、各種オープンソースカンファレンスには、極力参加するようにしている。少しでも興味を持った方はぜひ参加してほしい。そして、世界で評価されているFirebirdをぜひ肌で感じでもらえればこの上ない喜びである。
キムラデービー代表。メーカーや独立系ソフトウエアハウスでDB本体やDB関連の開発を行い、各種パッケージソフトのPMを担当。現在は「DBを使った開発の心理的・物理的負担を下げる」を合い言葉に自営で活動中。Firebird日本ユーザー会の2006年度理事長でもある。
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