「新聞2.0」の基盤を作ったSOA的アプローチ――産経新聞「iza」動き出したSOAのいま(2/3 ページ)

» 2006年09月26日 08時00分 公開
[谷川耕一,ITmedia]

業務プロセスの徹底した洗い出しがSOAにつながった

 脇氏は、「izaを立ち上げるためには、これらの要件を同時に進行させる必要があった。さらに、サイトを止めるわけにはいかず、ノンストップでシステムを切り替えられなければならなかった」と編集システムの課題について話す。

 短納期かつセキュアで複雑なシステム要求であった同社のRFP(提案依頼書)に対し、結果的にNECとNECソフトが共同で提出した提案が高い評価を得た。大規模な外部向けサイトのシステムを短期間で構築してきたプロジェクトマネジメントの実績と開発力が評価され、さらに、提案の中にあったXMLベースのデータ連携ソリューションである「ASTERIA」にも将来性があったという。

 こうした課題をクリアし、新たに構築されたのが「デジタルコンテンツ管理システム(DCK)」である。この編集システムは、システムにニュースを投入すれば各サイトに適応した形に自動的に加工してくれるという、いわばコンテンツ製造装置だ。現状、1日に1000本程度のニュースがこの編集システムで加工され、配信されている。

図1 DCKにおけるコンテンツの管理とフロー(出典:NEC)

 システムの一元化により管理が簡便化し、さらに誰が編集作業を行っても一定レベル以上の品質が保たれるようになっており、自社Webサイト5媒体、モバイル向けに10以上、外部サイト向けにも十数タイプに加工して配信を行っている。その際、1つの記事がWeb、モバイル、アーカイブ用のデータベースなどへと、さまざまな形にほぼ自動的に加工されるという。

 「DCKにより、編集者が本来やるべき仕事に注力できるようになった。そのために、工程はなるべく自動化することを目指した」と脇氏。実際のシステム構築は、2005年12月にベンダーにRFPを提示して1月から作業を始め、izaのオープンする6月に間に合わせるため、5月中旬には最初のフェーズが完成した。個々の媒体の編集方法を整理し、標準化すべき部分は標準化し、媒体の個性となる独自手法は残す。開発期間は短かったが、媒体ごとの編集作業プロセスの分析には、設計段階でかなり時間を割いたという。

 結果としてプロセスが適切な粒度に細分化され、複数の媒体のソースからDCKがハブとなる形で記事を取り込み、デジタル加工を行う仕組みが出来上がった。記事のソースデータには、本文テキストだけでなく写真などの画像情報もある。これらにメタ情報がタブの形で付加され、蓄積されることになる。そして、出力側では、デジタルデータがそれぞれアウトプット用にXML形式として加工され、各媒体に適宜配信される。

 「意識はしていなかったが、XMLベースで既存システムを生かす方策を採ったため、結果的にシステムはSOAの形となった。スコープをはっきりさせ、1つひとつのプロセスを洗い出し、それぞれをDCKで連携させるシステムができあがった」と、企画調整室の宮澤 亨氏はシステムの構造を説明する。

宮澤氏 DCKを車のエンジンに例え、「新しいサービスにはドライブするようなワクワク感がある」と話す企画調整室の宮澤氏

 実は、開発の体制も「SOA的」だったという。現場要件のとりまとめは宮澤氏が、システム構築部分のとりまとめはNECソフト ITシステム事業部XMLソリューションセンターの小林賢一氏が行った。双方がハブとなって現場と開発の整合性をとる形でプロジェクトが進められたわけだ。この2人に情報を集約したことで現場レベルでの素早い判断が可能になり、スピードを優先せざる得ない開発作業がかなりスムーズに進行できたという。

 また、編集作業の負荷は、実は各紙でピークの時間帯が異なる。そのため、DCKで各媒体に共通する標準的処理の部分をシステムで一元化することで、バラバラだったシステムへの作業負荷を平準化できるという利点も生まれた。

 「これでDCKという、車でいえばエンジンの部分ができあがった。見栄えではまだハンドルが四角で使いにくいところもあり、今後はこうした面も改善していきたい。さらに、これからまたどんどんサイトが立ち上がり、新しいサービスを提供することになる。情報活用の基盤ができたわけなので、これを使って新しいサービスというワクワクするような“ドライブ”を楽しみたい」(宮澤氏)

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