中堅・中小企業の泣きどころ座礁しないERP導入

前回では、ERPシステムを「検討すれど導入せず」という企業も現実にあり、目先の導入効果ばかりを狙うぐらいなら、最初からERPはあきらめたほうが良いという専門家の意見を聞いた。今回は中堅・中小企業ならではの事情について考える。

» 2006年10月10日 10時00分 公開
[アイティセレクト]

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中堅・中小企業特有の事情は「人」に起因

 ERP導入プロジェクトは長い「航海」のようなもの。舵取りを間違えると、一体どこを目的地に進んでいるのかがわからなくなってしまう。本来自社のマネジメントレベルを上げるインフラとして構築すべきものなのに、すぐにコスト削減効果に目を奪われ、目的化してしまうことはよくあることだ。実際、中堅・中小企業の中では、いったん導入を検討しても、断念するケースがあるという。しかし、専門家の意見ではそれはかならずしも後ろ向きでとらえることではなく、誰も使わなくなってしまうシステムを作るよりは、はるかに賢明な判断だという。

 中堅・中小企業がERPを導入する場合、独特の困難さが発生する。それは人の問題だ。大手企業と比較して、業務が属人的である傾向が強い中堅・中小企業で、どうすれば、ERPという発想とそのシステムはうまく機能するのか。

 ERPシステムの導入で最も避けなければならないのが、導入してしまった後、実質的な利用がされなくなってしまうことだ。

 数千万円、数億円というコストをかけて導入してから、「結局だれも見向きもしなくなった」というのでは、経営資源の統合どころか、経営資源の無駄遣いでしかなくなる。どんな導入方法にしても、多くの社員の参加が必要となるわけだから、失うものはカネだけではなく、貴重な時間もそこには含まれるわけだ。

 日本総研ソリューションズの産業事業本部 システム開発統括部 製造システム開発グループ 統括部長の岡田吉男氏は、ERP導入に関して、中堅・中小企業には特有の難しさがあると話す。

 「いわゆる大手企業というのは、業務の切り分けも最初からできていて、人的資源も豊富にあります。導入のメソッドをしっかり守っていけばうまくいくわけです。ところが、中堅以下の企業の場合はそうはいかないのが普通です。つまり教科書通りに進まないのです。実際のシステム導入の要件定義をするには、その会社の業務を詳細に洗い出す必要があります。中堅以下の企業はこの作業がなかなか簡単にはいかないのです。つまり人がいない。関係者を集めるにも苦労する。一人の人がいろいろな業務を兼ねているケースが多いので、普段から多忙を極めているわけですね。それから複雑に兼業しているということは、業務の切り分けからして、なかなかうまくいかないという面もあります。3種類の業務のことについて、本当に理解しているのはある特定の一人の人物、ということもあります」

画像 日本総研ソリューションズ岡田吉男氏

 日本総研ソリューションズでは、導入に関わるほとんどの案件で上流工程のコンサルティングから入る場合が多いというが、中堅・中小企業のケースでは導入効果に対する表現も難しいと話す。

 「さまざまな業務を兼務している人が多いということは、システムを入れたからといって簡単にある業務に関わる人を減らすことはできない。もともとギリギリの人的資源で仕事を切り盛りしている会社では、人件費削減で効果を表現することは難しいのです」

 たたでさえ、人件費削減効果の見えにくい中堅以下の企業で、金科玉条のごとく、「まず何よりも導入効果」とばかりに結果を求めすぎるのは禁物だ。確かにシステム導入は高い買い物。しかし導入後短期間で、成果を期待しすぎると、せっかくのマネジメント改革が座礁してしまいかねない。中堅・中小企業のERP導入を成功させるも、座礁させてしまうも、どうやら「人」の問題がかかわっているらしい。教科書通りにいかないことの多い、こうした企業の導入をどうすれば成功に導くことができるのか、次回は、実際の事例を見ながら考えてみよう。

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